電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第80回

浮上してきた日本半導体新工場計画


東芝、ソニー、パワーデバイスの可能性を考える

2015/1/23

 日本の半導体は長らくシェアの低下が続いてきたが、2014年で主要メーカーの事業再編に一定のめどがついた。今後も200mm以下のウエハーを用いた歴史ある工場の閉鎖や集約が出てくる可能性は残っているものの、特定分野で高シェアを確保してきた日本半導体メーカーがこれから増産する分が寄与し、15年以降は日本におけるチップ生産能力が緩やかな上昇カーブを描いていくと考えたほうがポジティブだ。上昇し続けるエネルギーコストは頭の痛い問題だが、直近の円安傾向は日本国内への設備投資回帰を後押しするきっかけになっているし、世界レベルで旺盛な半導体需要は今後の生産キャパシティーをどうすべきか真剣に考えさせる水準にある。
 東芝、ソニー、パワーデバイスの3点について、国内に新たな半導体生産拠点が整備される可能性が出てくるのか考えてみる。

東芝、15年度中に決断へ

 東芝は14年末、四日市工場Y5に続く新工場の建設を15年度中にも決断したいという意向を明らかにした。主力製品であるNANDフラッシュメモリーのさらなる増産を図るためだ。現在も四日市工場Y5フェーズ2における投入能力のアップと微細化、四日市工場Y2の建て替えによる3D-NANDの事業化を進めているが、新工場の計画はこれとは別に総額5000億円規模の新規投資を実施しようという意欲的なものだ。背景にあるのは、データセンターなどエンタープライズ用のストレージに大量に使用されているHDDのSSDによる代替に、莫大な量のNAND需要が見込めることだ。

 同社の言葉を借りると、新工場の建設地は現在の中心地である四日市、かつてY6の建設地として候補に挙がった岩手東芝、それに海外も視野に入れ、あらゆる可能性を検討している。設備投資額は年間2000億円レベルを維持していく考え。技術面では、Y2の建て替えで16年前半に3D-NANDを事業化する予定があるものの、並行して2Dでもシュリンクを進めていく考えを明らかにしており、Y5フェーズ2における量産の主役となる15nmプロセスをさらに微細化していく方向も模索している。


 NANDフラッシュ事業は米サンディスクとの共同事業であるため、東芝だけの意向で決断するわけにはいかないだろうが、あえて現状だけで判断すると、人的リソースを含めて集中生産が可能な四日市に集積を図る可能性が最も高いと考えている。一方で、四日市には増設余地が少ないことやサンディスクが米国企業ということを考慮すると、海外という線も捨てきれない。また、新工場が現在SK Hynixと共同開発中であるMRAMの量産まで視野に入れているとすると、学術機関との連携やSK Hynixとの距離感も考えて、岩手という線だってあり得る。実際、NAND事業拡大のため岩手から四日市に出向している技術者は多いのだ。

 いずれにせよ、NAND市況が急変しないことが前提だろうが、計画どおりに話が進めば、15年における最大の投資案件になる可能性がある。日本経済の起爆剤として、国内への立地を大いに期待したい。

ソニー、イメセン売上高を倍増へ

 ソニーもさらなる増強計画が期待できる1社である。もちろん、主力のCMOSイメージセンサーの増産を意図したものだ。同社は14年11月、17年度までのデバイス事業の計画を発表し、17年度にはイメージセンサーとカメラモジュールの売上高を13年度実績比で倍増以上となる約1兆円まで引き上げるアグレッシブな方針を打ち出した。数字に置き換えると、イメージセンサーの売上高は13年度の3200億円から7500億円に、カメラモジュールは500億円から2000億円に引き上げるという。イメージセンサーへの投資も年間で1000億円前後の高水準を維持していく考えだ。


 同社はスマートフォン(スマホ)用イメージセンサー市場で世界4割のシェアを握り、今後は車載カメラなどへラインアップを拡大していく考え。近年の旺盛な設備投資により、イメージセンサーの月産能力は300mm換算で6万枚にまで拡大しており、これを数年内に7.5万枚まで増やす計画だ。この実現に向けてルネサスから300mmの鶴岡工場(現・山形テック)を取得し、15年度からいよいよ本格的に山形テックでイメージセンサーの量産を開始する。山形テックでの量産開始により、15年8月には月産能力が6.8万枚まで高まる見通しだ。

 主力のスマホ用では今後、メーンカメラのモジュールにCMOSセンサーが2つ搭載されるモデルが登場してくる可能性が高い。デュアルセンサーになると、単に写真を撮るというビューイング機能に3D撮像という新機能が加わりそうなことに加え、三角法で対象物との距離を測ったりするセンシング機能もあわせて実現できるようになる。

 車載カメラは、すでに搭載されているアラウンドビューなどに加え、運転者の死角を無くすためのサイドビューや、安全性を向上するADAS(先進運転支援システム)用センサーとしての採用増加が期待できる。スマホは、どれだけ増えても1台に2~3個のセンサーを搭載するのがせいぜいだろうが、クルマは高級車だと1台に10個以上のセンサーを搭載する可能性があり、数量ベースでスマホに匹敵する巨大市場に育つかもしれない。

 では、ソニーが仮に7.5万枚体制を確立できたとして、17年度の業績目標を達成できるのだろうか。ソニーは、製造工程のなかでも裏面照射型積層センサーにおける貼り合わせ工程の自社生産を重視している。センサー自体を作り込むマスター工程は、すでに事例があるように、外部に製造を委託することも可能だからだ。山形テックの設立を受け、長崎テックFab2に14~15年度に総額290億円を投じて貼り合わせ以降の工程を増強中。この増強が完了しても、長崎テックFab2には若干の増設余地が残るようだが、並行して熊本テックでもマスター工程を増強中であることなどを考慮すると、そろそろ貼り合わせ以降の工程で次期新工場をどう展開するか検討する時期に来ていると思う。

 取りうる策として最有力なのは、ルネサス鶴岡と同様に、他社の300mm工場を買収すること。だが、300mmのライン資産は日本国内では非常に少ない。スマホ用の主要顧客であるアップルは、部品の調達先として米国製を好み、米国政府の製造業回帰策に応じて自社製品の一部を米国で組み立てようとしている。ソニーの顧客はアップルだけではないが、既存工場の取得にこだわるのであれば、国内の300mm事情を鑑みて、海外に生産拠点を求める可能性もあるだろう。

パワーデバイスは戦略転換が必要

 三菱電機や富士電機といった、ワールドワイドで高いシェアと競争力を持つパワーデバイスも、新たな投資が期待できる分野だ。三菱電機、富士電機ともにリーマンショック後も能力増強に努め、次世代のSiCパワーデバイスの実用化でも先行し、その後の需要回復に伴って、現有のキャパシティーが埋まりつつある感がある。ただ、東芝やソニーと異なるのは、300mmでの量産に踏み込むのであれば、従来の事業戦略を転換しなければならない点である。

 周知のとおり、パワーデバイスの300mm生産については、独インフィニオンが世界で唯一量産に取り組んでいる。これは同社がディスクリートビジネスの拡大に積極的であるためで、あくまでパワーモジュールを主力とする三菱電機や富士電機と大きく戦略が異なる。パワーモジュールは、複数のパワー素子を組み合わせて構成するため、内蔵する素子の性能にばらつきが許されない。たった1素子でも性能が劣ると、そこに電流が集中して故障や不良の原因になったり、発熱が大きくなったりと、不具合の元になる。放熱や素子・回路の配置やデザインに高い技術とノウハウが求められ、だからこそモジュール技術が差別化の源泉になる。パワー素子を300mmで作るよりも、200mm以下のウエハーで歩留まり良く均一に製造したほうが、無駄が少ない。だが、ディスクリートビジネスはあくまで素子単体の勝負。そこでは素子自体のコストダウンも重要な要素になるため、300mm化が不可欠になる。

 現状で日本勢はディスクリートビジネスへの参入に関し、積極的な姿勢を見せていない。だが、次の増強計画を考えるとき、あくまでモジュール主力を貫き通していくのか、ディスクリートビジネスまで視野に入れて300mm化に取り組むのか、検討の余地が大いにあると筆者は考えている。販売やサポートの体制まで考えると容易ではないだろうが、願わくば、日本勢にはその高い技術力をディスクリートにも展開し、日本のパワーデバイス技術を素子ベースから世界に広げていただきたいと思う。日本勢が15年に新戦略を打ち出すのか。そこがパワーデバイス300mm化と新工場計画に密接にリンクすると見ている。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏

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