電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第93回

国内外の関心を集める韓国LGの有機EL


~今やディスプレーパネル世界最大手の座、2014年は2年連続の快進撃~

2015/4/24

 「有機ELの可能性は限りなく広がってきた。この新アプリは新技術で切り開くべきだ。徹底的なローパワーの追求と透明度の追求が最も重要だろう」

 こう語るのは、LGディスプレーのR&Dセンターのトップを務めるSooyoung Yoon氏である。上記の談話は、第25回を迎えたファインテックジャパンにおける同氏のプレゼンテーションで語られた。LGディスプレーは今や、電子ディスプレーパネルでは世界最大手に躍進しており、2014年の売り上げは3兆円弱に達している。利益も1491億円を収め、13年に続いて2年連続で利益1兆ウォンを突破した。テレビ向けパネル価格が値上がり基調で推移したことが大きい。また、中小型パネルの大口取引先であるアップルの供給量が大きく増加したことも寄与している。


LGディスプレーのSooyoung Yoon氏
LGディスプレーのSooyoung Yoon氏
 ところで、次世代ディスプレーの大本命といわれる有機ELについては、これまで同じ韓国のサムスンが市場も技術もリードしてきた。スマートフォンのギャラクシーに有機ELを搭載し、世界を驚かせた。これが奏功し、サムスンはアップルを破ってスマートフォン世界トップの座に登り詰めたのだ。しかし最近はアップルのiPhone6/6Plusおよびに巻き返されており、中国のシャオミも下から追い上げてきているため、すこしく苦戦が続いている。有機ELといえばサムスン、という評判は高かったが、ここにきてLGディスプレーの台頭はすさまじいものがある。

 LGディスプレーは有機ELテレビ市場で最先行することを世界にアナウンスし、パネル生産量を現状の月産8000枚から2015年末までに一気に同3万4000枚まで引き上げる計画を進めている。7000億ウォンを投じる京幾道の新工場を本格稼働させ、マザーガラスベースのキャパシティーを従来の4倍強に増加させる。
 「LGディスプレーは2015年を有機ELテレビの大衆化の元年と位置づけている。ご存知のように有機ELの応答速度はめちゃめちゃに速く、高精細度においても断然の強みを持っている。透過率を高くすることが重要であり、当社の場合30%を充分に実現できる」(Yoon氏)

 有機ELテレビを強化する一方で、車載向けディスプレーにも注力する姿勢を打ち出している。2018年には車載向け分野で20億ドルの売り上げを達成し、事業規模を現在の4倍に拡大するという。車載向けディスプレイの業界トップは台湾のイノラックス、第2位は日本のシャープ、第3位はやはり日本のジャパンディスプレイであり、LGディスプレーは4番手に位置しているが、一気にトップ狙いの作戦を立てているのだ。

 LGディスプレーの場合、有機EL装置の国産化については、多くの力を投入している。また、同社は有機ELに採用される発光材料も50%強の国産化に成功した。これまでは出光興産の製品を多く使ってきたが、最近では系列会社のLG化学の製品を多く導入している。

 「有機ELが素晴らしいのはデザインの自由度が高いことだ。基板が自由に選択できるわけであり、プラスチックだから曲げることも、折ることもできる。それだけに液晶ではまずできない曲面のディスプレーを切り開いていきたい。モバイルのフレキシブルはすべてフィルムタイプのプラスチック有機ELにする予定であり、この開発に全力を挙げている。ただ、有機ELは積層構造が難しく、これについての開発が今後の課題となるだろう」(Yoon氏)

 さて、同社は有機ELテレビ拡大の大作戦を今後展開するわけだが、中国市場こそが重要市場と位置づけている。なぜならば中国が量だけでなく質においても世界テレビ市場を牽引する主戦場となっているからだ。2014年4月には上海で有機ELテレビの優秀性をアピールし、次いで広州など様々な地区で体験イベントのキャンペーンを行ってきた。こうした活動が実り、中国の家電メーカーの多くがLGディスプレーに目を向け始めた。

 「ウエアラブル端末のスマートウオッチもすでに開発済みだ。曲面のスマートフォンも充分にいけるだろう。また曲面の有機ELテレビも出荷できる準備は整えている。当社の有機ELの構造は、広範囲におけるトップエミッションを実現しており、タッチパネル、カラーフィルター、有機EL、TFTという順で積み上げている。オプティカルシャッターを使っていることも重要だ」(Yoon氏)

 時あたかも日本においては国策会社ともいうべきJOLEDが、印刷法成膜と酸化物による手法で新たな世界を切り開こうとしている。また、九州大学の安達教授によるTADFといわれる第3世代の発光材料が開発されており、これを使った抜群の発光効率を持つディスプレーが作られる日も遠くはないだろう。また、積層化技術を確立している有機ELベンチャーのエクソンテクノロジーも、量産に向けての準備を開始した。ジャパンディスプレイも当然のことながら有機ELには完全に踏み込むとしている。コニカミノルタ、カネカ、パイオニア、セイコーエプソン、デンソー、ルミオテックなどの日本勢もまだまだ有機ELで頑張る考えだ。しかしながら、まさに力で押しまくるLGディスプレーの巨大投資の前では日本勢は皆たじろいでしまう。また、LGディスプレーの場合、売り上げの3割以上を中国市場から稼ぎ出しており、中国という巨大マーケットを握りつつあることも最大の強みといってよいだろう。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 泉谷渉/ソウル支局長 嚴在漢

サイト内検索