電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第95回

次期iPhoneの「サプライチェーン考察」


~AP生産は現状Samsung有利?~

2015/5/8

 本紙『電子デバイス産業新聞』4月16日発刊号の1面記事において、「ロジックファンドリー、FinFET投資を加速」の記事を掲載した。スマートフォン向けアプリケーションプロセッサー(AP)を中心に2015~16年の2カ年で台湾TSMC、韓国Samsungをはじめとする大手ファンドリー各社が16/14nm世代の設備投資を活発化させるという内容である。

 15~16年における16/14nm世代の需要の中心は、言うまでもなく、米AppleのiPhone/iPadに搭載されるAP「A9/A9X」である。15年のiPhone出荷台数は2.3億台を超える水準が見込まれるなか、16/14nm世代の生産能力の大半を1つのチップで占有することになる。APに限らず、メモリーやディスプレー、イメージセンサー、そしてコンデンサー/フィルターなどの電子部品も、この次世代機種がどのような仕様になり、どの会社、どの部品を使うのか、業界で最も大きな関心事といえる。
 今回は本紙記事のロジックファンドリーの投資関連記事に絡めて、今年15年に発売されるであろうiPhone次世代機種について、サプライチェーンの観点から考察する。

焦点は生産アロケーション

 まず、端末のラインアップだが、14年同様、4.7インチと5.5インチの2モデルが発売される見通し。当初、4インチモデルの投入も計画されていたが、計画は後ろ倒しになっているとみられ、年内の発売は延期となったもようだ。


 頭脳部となるAPは、生産委託先は現行のTSMCの1社体制が崩れ、TSMC/Samsungの2社体制に移行する。これはすでに既成事実化されているのだが、焦点はその生産アロケーション(生産委託先の配分)にある。

 これまでの経緯を振り返ると、そのアロケーションを巡るTSMCとSamsungの争いは目まぐるしく動いてきた。そもそも、TSMCの1社体制からSamsungを再び加えた2社体制に移行する動機は、米国の製造業回帰という流れと密接に関係する。オバマ大統領は雇用回復施策の一環として、米国内への製造回帰を盛んにうたっており、米国企業であるAppleもこの流れに賛同するかたちをとっている。

 Samsungは韓国企業であるものの、テキサス州オースティンに半導体工場を構えており、国内回帰の目的に一応合致する。当初は米グローバルファウンドリーズ(GF)を主要生産拠点として据えるプランが有望視され、その一環としてSamsungとGFはプロセス共通化の協業も行うなどしていたが、GFは先端プロセス生産に関する経験値が浅く、15年モデル向けのAP生産に関しては、見送られたようだ。

 国内回帰に向けて追い風となっているのが、シェールガスやシェールオイルなどのいわゆる「シェール革命」だ。これにより、生産に必要な電気代などが格段に安くなり、米国内で生産してもコスト的に十分折り合うとの判断がなされたものと見られる。

DRAMが強力な「交渉材料」に

 こうした背景のもと、当初はSamsungが主力の生産委託先として有力視されていた。しかし、14年半ばごろから、「TSMCが巻き返した」との報道が相次ぐようになる。これを裏付けるかのように、TSMCは14年7~9月の決算カンファレンスコールで「競合他社との差は大きく縮まった」と、状況が好転していることを示唆するコメントを残している。

 しかし、現在は再び「Samsung有利」という状況に戻っている。内部で紆余曲折があったのか、それとも当初計画から変更はないのか定かではないが、iPhone向けに関しては、Samsungがメーンのサプライヤーに落ち着きそうだ。

 Samsung有利という流れに傾いている理由の1つとされているのが、DRAMだ。iPhoneのDRAMはこれまで長年1GBの容量を維持していたが、15年から2GBに大容量化する見通しだ。2GB化に伴い、DRAMチップは8Gビット(LPDDR4)を2枚使うことになり、製造プロセスは20nm世代に微細化する。

 この20nm世代は製造難易度の高さから現状でSamsung1社しか供給することができず、SK HynixやMicron Technologyは立ち上げに苦慮しており、次期iPhoneの発売に20nm世代の立ち上げを間に合わせることができない情勢となっている。必然的に、DRAMはSamsungからの供給に依存するかたちとなり、これがAPの生産アロケーションを優位に進める強力な「交渉材料」になったとの見方が出ている。
 Samsungは華城にある最新鋭の第17ライン(Line17)で20nm世代ラインを構築、加えて、既存のLine13/15も微細化を図ることで、他社をリードする。

「2眼化」は16年?

 機能でいうと、新たに「Force Touch」と呼ばれる機能が搭載されることになりそうだ。同機能はタッチインターフェースにおいて、通常の圧力とより深い圧力を、それぞれ異なる入力方式として区別できるもの。すでに新しい12インチMacBookとApple Watchに搭載されており、圧力センサーでこれを実現している。
 また、カメラは引き続き、リアカメラに8メガピクセルを採用するものと見られる。現行の「6」でオートフォーカス(AF)スピードを格段に速めた位相差AFや光学式手ブレ補正(Plusのみ)など新機能を相次いで搭載したことから、今回はこれを継続採用する見通しだ。

 ただし、16年に発売されるモデルでカメラは大きく刷新される見通しだ。具体的には、リアカメラを2個搭載した「2眼化」が有力視されている。これにより、どういった機能が実現できるのか、今のところ不明なところは多いが、複数のカメラで撮影したものを組み合わせるなど、新たな使い方を提案していくはずだ。

 現にAppleはイスラエルのスタートアップ企業でモバイルカメラ技術を開発する「LinX」という会社を買収していることを認めている。実際にセンサーチップを供給するソニーもここにきて、生産能力の増強を矢継ぎ早に発表するなどしており、16年モデルは「カメラが大きく変わる年」となりそうな予感だ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

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