電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第185回

福島県喜多方市は少子高齢化を企業誘致と観光で跳ね返す!!


~「ラーメンの街」ばかりではない積極策を打ち出す山口市長~

2016/5/27

 「蔵の街として知られる喜多方は、ラーメン店の一大集積地としても全国に名を馳せている。そのことは本当に嬉しい。ありがたいことだとも思っている。しかして、人口の急減は深刻であり、平成18年の町村合併時に約5万7000人はあったものが、今は4万9421人となってしまった。これを跳ね返す政策が今こそ必要なのだ!!」

福島県喜多方市長 山口信也氏
福島県喜多方市長 山口信也氏
 とつとつと、しかしはっきりした口調でこう語るのは、福島県喜多方市の山口信也市長である。山口市長は長く県職員を続け、その後会津北部土地改良区理事長を務めた。周囲に押されるかたちで市長選に出たが、山口氏の主張する雇用創出、人口減歯止めの政策が多くの賛同を呼び当選する。大差で勝ち、現在は2期目である。

 「東日本大震災の折には、風評被害がひどく、うまさで知られる喜多方の米をキャンセルする業者の人が急増した。私はそれこそ死に物狂いで全国を駆け回り、誤解を解き、何とか回復することができた。それにしても地元に仕事がなく、とにかく若者が定着せず人口流出が続いている。もはや、手をこまねいていることはできない」(山口市長)

 喜多方市の工業出荷額を見ても、平成19年に1077億円もあったものが、リーマンショックの影響で平成21年には685億円まで落ち込んだ。その後は少しずつ回復基調となってきているが、東日本大震災の影響もあり、平成26年段階では714億円にとどまっている。製造品別の出荷額でいえば、平成26年時点で非鉄金属製造業が172億円と最も高く24.1%、次いで金属製品製造業が144億円で20.2%、生産用機械器具製造業が114億円で16.0%となっている。

 「喜多方市内には約120のラーメン店が軒を連ね、あまりのうまさに舌つづみを打つ人が多い。しかし、環境省の平成の名水百選に選ばれた栂峰渓流水をはじめ、おいしい米、グリーンアスパラガス、酒、味噌、醤油なども評価が高い。こうした食品の全国アピールを進める一方で、新たな観光ブームも仕掛けているのだ」(山口市長)

 さて、ここに来て「花でもてなす喜多方」をキーワードに、新たな観光資源の開発運動が急ピッチで進み始めている。三ノ倉高原は650mの標高にあり、会津盆地を一望できる景観の良いところだが、三ノ倉スキー場のゲレンデ約8haを利用し、春には約200万本の菜の花が咲き誇るという仕掛けを作った。また、夏から秋にかけては東北最大の約250万本のひまわりや約100万本のコスモスが咲き、その光景はまさに息を呑むほどの美しさ、壮大な眺めなのだ。これが文藝春秋に紹介されたとたんにブームとなり一気に火がついた。

 その他にも、ひめさゆり、花しょうぶ、福寿草など多くの花資源をアピールすることで観光客が急増した。また、昭和59年に廃線となった日中線の跡地を遊歩道として残し、JR喜多方駅近くから3kmにわたって約1000本のしだれ桜が咲き乱れ、これは日本最大級のスケールとして多くの話題を呼んだ。

 「こうした観光資源の再開発という努力が実り、観光客はついに180万人を突破した。今後は200万人突破を目指したい。農家に泊まるグリーン・ツーリズムにも注力していきたい」(山口市長)

 観光誘客を加速する一方で、雇用創出に直結する企業誘致にも注力し、一定の成果を上げている。会津縦貫北道路の全線開通でより便利になった交通アクセスにより、平成27年までには喜多方市内に10社が進出し、市内企業8社が新・増設という快挙となった。170人を超える雇用創出、民間投資28億円以上の効果を生んだのだ。

 「平成30年秋ごろの分譲開始を目指し、喜多方市豊川町綾金地区に10haの新工業団地の整備を開始した。山形県、新潟県までの距離がぐーんと近くなった。喜多方の存在は各企業にも知られてきた。地方創生は全国各地で展開されているが、やはりオリジナルなアイデアがモノを言ってくる。蔵とラーメンばかりではない喜多方市の新たな姿を全国に発信していきたい!!」(山口市長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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