電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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「深さを追求する覚悟」が必要だ


~半導体商社の再編について考える~

2016/6/24

■徐々に動き始めた半導体商社業界
 約半年前になるが、このコーナーで日系半導体商社の現状、考えるべきポイントについて私見を述べさせていただいた。同時期に半導体商社協会(DAFS)で講演させていただく機会もあり、日系商社がメガ・ディストリビューターに市場を奪われる危険性などについて、180分にわたってプレゼンさせていただいた。聴講された商社の方々も多分に危機感をお持ちだったようで、アンケート結果を拝見する限り、筆者の主張におおむね同意して下さった方が大半だった。

 その2カ月後には、加賀電子とUKCホールディングスが経営統合するという発表があり、6月の株主総会での承認に向けて準備が行われているもようだ。筆者のところにも、複数の半導体商社の方々からお問い合わせをいただく頻度が明らかに高まっている。半導体商社業界でも、これから徐々に再編が行われていくのではないだろうか。

■卸売業ではない新しい事業への着手
 ここでは「半導体商社」と表現しているが、各社が取り扱っている商品は半導体、電子部品、電子機器など、エレクトロニクス全般にわたることが多い。ただし、この業態はAvnetやArrowなどメガ・ディストリビューターも同様で、いずれの分野でも事業規模の違いは歴然である。メガ・ディストリビューターとの差別化に着目する商社は「卸売業ではない何か」を商材にしようとしている。

 グラフは日系の各商社の売上比較で、卸売業以外の事業をすでに手がけている商社が存在する。

半導体商社の連結売上高比較(システム販売を含む、出典:IHS)
半導体商社の連結売上高比較(システム販売を含む、出典:IHS)

 よく見られる事例としては、EMS事業がある。黒田電気、加賀電子、UKC、立花エレテックなどが行っていて、なかには金属のプレス加工や材料加工なども手がけている商社もある。人件費が安価な中国やASEAN地域の労働力を活用しているが、EMS業界も商社業界と同様、鴻海(ホンハイ)のような巨大企業との戦いを避けることができない。特に加賀電子は収益面でも厳しい状況が続いており、抜本的な戦略の見直しに迫られていた。今回のUKCとの経営統合は、そうした背景と無関係ではないだろう。

 次に見られる事例として、オリジナル製品事業がある。佐鳥電機の絶縁監視ソリューションやNFCソリューション、東京エレクトロンデバイスの自社ブランド半導体「インレビアム」などで、技術的な付加価値を追求した結果として辿り着いた事業と言えよう。大手メーカーでは商品化が困難でも、小回りの利く商社ならではの戦略だが、それだけに事業規模の拡大は容易ではない。両社としても、オリジナル製品事業の売上比率は全体のわずかにとどまっている。かつてはリョーサンもオリジナル製品のヒートシンクを扱っていたが、2014年に三協立山に事業譲渡している。

 最近になって見られる事例として、エネルギー関連事業がある。特に太陽光発電の事例が多く、バイテックはソーラー発電所を運営しながら売電事業を行ったり、メガソーラーを含むエネルギー構築の提案などを手がけている。丸文も、太陽光発電機器の各種申請代行、設置・施工、保険、補償から売電までサポートするパックサービスを農家相手に展開している。

 12年7月以降、日本で電力買取制度が本格的に実施されるようになってから、半導体商社に限らず様々な企業がソーラー発電事業に参画してきたが、固定買取価格が徐々に引き下げられるにつれて、新規の設置案件が激減している。すでに設置済みの発電所は売電事業を継続するが、この事業を成長させる計画は立てにくいのが現状だろう。

■現状には満足できない
 EMS、オリジナル製品、エネルギーなど、卸売業以外の事業を手がける商社の事例を紹介したが、いずれも「新しい柱」として期待できるような成長戦略が描きにくく、各社とも現状に満足していないことは想像に難くない。前回のこのコーナーでも述べたが、伸び悩む日本の半導体市場に、規模の小さな商社が多数ひしめき合ったままの状態が続くとは考えにくいし、メガ・ディストリビューター、特にAvnetが日本市場での実績を伸ばそうとしている以上、日系商社各社としては、規模で対抗するか、顧客に対するサービスの深さで対抗するか、何らかの対抗策を具体化する必要があるのだ。

■規模か深さか
 冒頭に紹介した加賀電子とUKCホールディングスの経営統合は、単純合算で売り上げが5000億円を超える大型商社の誕生となる。2兆円を超えるAvnet、Arrow、WPGには及ばないが、これまでの日系商社にはない規模の商社として注目されよう。薄利ながら手離れの良い製品を効率的に拡販してきたUKCと、モジュールの組立やEMS事業など付加価値を追求してきた加賀電子。両社の強みを維持すれば、存在感を示すことができそうだ。

 規模ではなく深さで対抗するのであれば、顧客のニーズを徹底的に分析し、メーカーから提供される製品だけでなく、顧客ニーズに合致したサービスを有償で提供することを検討すべきだろう。技術サポートに関する内容でも良いし、顧客の業務の一部を受託するサービスでも良い。メガ・ディストリビューターは、担当製品も顧客も非常に多く、きめ細かいサービスを提供することは不得手なので、そこを提供すれば正面からの競合を避けることができよう。

 日系商社の中には、顧客の購買代行など業務の一部を受託している事例も多く見られるが、商社が代行(受託)した方が効率的だ、と双方が納得できる事例をどれだけ発掘できるかがポイントだろう。顧客のニーズのみならず、商社自身が自社の強み・特徴を正しく認識することで、どんな有償サービスを提供できるか。商社として「深さ」を追求する以上、顧客に対してコンサルティング・サービスを行うくらいの覚悟で臨んでいただく必要がある、と筆者は思っている。



IHS Technology 主席アナリスト 大山聡、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。
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