電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第231回

たかが東芝、されど東芝、やはり東芝じゃあないか


~黄金技の「フラッシュメモリー」は10兆円の未来価値~

2017/4/28

 日本最古の電機会社である「東芝」をめぐる議論がかまびすしい。ひたすら、この間の経営姿勢、内部統制のとれていない体質が批判されており、筆者もそのことに関しては全く同意見である。

 しかして、独立分社化された「東芝メモリ」の将来性については全く別の問題であると思っている。このカンパニーが巨大投資を行い量産する3D-NANDフラッシュメモリーは、まさに爆発的成長を遂げるからである。台湾の鴻海が3兆円、米国のブロードコムが2兆円の出資をすると報じられて驚く向きがあるが、それは全然不思議なことではない。なぜなら、この東芝メモリなる会社の未来価値は10兆円はあると思われるからだ。

 「東芝/ウエスタンデジタル連合、サムスン電子をはじめとする3D-NANDフラッシュメモリーへの巨大投資は当然のことなのだ。2015年の段階でフラッシュのウエハー枚数は月1500K程度であった。しかして、2020年には月12500Kまで一気に引き上がる可能性がある。作っても作っても足りないという活況がずーっと続いていく」

野村證券の名物アナリスト 和田木哲也氏
野村證券の名物アナリスト 和田木哲也氏
 こう語るのは、17年の『日経ヴェリタス』人気アナリストランキングで1位を獲得した野村證券の和田木哲也氏である。和田木氏は早稲田大学を出て、半導体製造装置で国内最大手の東京エレクトロンに入社し、社長賞を獲得するほどの活躍を見せていた。しかして、00年に、もっと大きなステージで闘いたいとの夢を果たすべく野村證券に入社し、あっという間に人気アナリストに上り詰めていくのだ。

 「世界すべてのフラッシュメモリーの工場ベースでいえば、2015年は50K×30ライン、このうち4ラインがサーバー向けであった。これが、2017~18年には10倍増にもなるだろう。しかして、それでも全然需要に追いつかない。データセンターの現在の生成量は8ゼタバイトくらいであるが、2020年には40ゼタバイトまで膨れ上がる。そして、これから導入していく記憶媒体はほとんどがハードディスク(HD)ではなく、フラッシュメモリーベースのSSDになる。東芝という崩れかけたカンパニーにとって、思わぬ福音がもたらされたことになる」(和田木氏)

 データセンターの悩みは発熱と膨大な消費電力であった。しかして、フラッシュメモリーを採用すれば、電気代は何と1/4になるという。もちろんHDに比べて超小さいわけであるから、体積も1/10となり、センターを建設する設備投資コストが激減する。処理時間もHDであれば6~7時間はかかっていたものが、1.5時間まで縮小することになるのだ。データセンターがみな、こぞってオールフラッシュに切り替えていこうというのは、まさに時代の必然といってよいだろう。

 フラッシュメモリー市場ではサムスン電子と東芝/ウエスタンデジタルがトップシェア争いをしており、各々36~37%の世界シェアで疾走しているが、ここに来て3~4ポイント、サムスンが抜け出したようだ。サムスンは中国・西安工場で1年半前から3D-NANDの量産に取り組んでいるため、市場で先行していたことが大きい。

 「しかし、東芝/ウエスタンデジタル連合も64層、さらには96層の量産化でサムスンをキャッチアップしてくるだろう。主力の四日市工場には1.5兆円が投入され、TSVを採用するとみられる。冷静に比較すれば、やはり東芝のエンジニアの技術力はサムスンより一枚上を行っている。設備投資で引いてしまわなければ、充分にトップを狙えるだろう」(和田木氏)

 和田木氏の試算によれば、東芝の四日市のY6棟、つまり1.5兆円を投資する新工場(50Kクラス)が10~20棟建設されなければ、とてもではないが、IoTに対応するデータセンター側からの需要に追いつくことはできないのだ。

 ボロボロになっていく東芝にそれだけの巨大投資を行うことができるのか、と疑問を持つ方も多いだろう。しかして、大型設備投資を構えるのは東芝ではない。新カンパニーの東芝メモリなのだ。その将来性に期待する向きは多く、今後も多くの投資家が東芝メモリに張っていくだろう。

 私見でいえば、東芝メモリへの出資カンパニーは、これまで東芝とともに四日市を立ち上げ、涙と血と汗で死に物狂いに闘ってきたウエスタンデジタルが中心になると思う。苦労を共にして来た戦友こそが一番当てになるのだ。そしてまた、今や世界一のストレージ会社となったウエスタンデジタルは売り上げ約130億ドル(16年6月期実績)の巨大企業であり、サムスンに充分対抗できるだけの資金力もあり、東芝救済に向かっていくだろう。東芝は傾いても黄金技術のフラッシュメモリーにはまだまだ無限の可能性が残されているのだから。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索