商業施設新聞
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No.610

関西鉄道各社の挑戦に一言


岡田 光

2017/6/13

 2016年度の関西大手鉄道各社(西日本旅客鉄道、近鉄グループホールディングス、阪急阪神ホールディングス、京阪ホールディングス、南海電気鉄道)の決算が出揃った。結果は2社が減収減益、2社は減収もしくは減益のいずれかで、唯一、京阪ホールディングスのみわずかであるが増収増益だった。主力の運輸業は、「伊勢志摩サミット」の開催により、観光需要が堅調に伸びた近鉄グループホールディングス以外、減収または減益であったりと、各社でばらつきがあった。しかし、不動産業や流通業を見ると、1%台の微増・微減が多く見受けられ、前述の京阪も、不動産業は増収増益であったが、流通業は減収減益で終わるなど、どちらかと言えば厳しい数字が並ぶ結果となった。

 厳しい数字が並んだ理由はいくつかある。ひとつは、大型施設の開発が進んだことによる投資額の増加だ。南海電気鉄道は、南海なんば駅に「(仮称)新南海会館ビル」を建設中で、3月にはメディカルフロアの入居者を発表した。阪急阪神ホールディングスは、大阪神ビルディングおよび新阪急ビルを建て替える「梅田1丁目1番地計画」を進めており、1月より道路上空利用部分の建築工事に着手。そして、京阪も京都・四条河原町に、複合型商業施設「BIOSTYLE(ビオスタイル)」の建設を計画し、同施設は3月に着工している。これら大型施設の開発が本格化したため、各社の業績に少なからず影響を及ぼしたと考えられる。

 もうひとつは、既存施設の大規模改装、それも主力のショッピングセンターでリニューアルを行ったことが挙げられる。16年度は、京阪が京橋駅のショッピングモール「京阪モール」をリニューアルしたほか、南海は全面開業10周年を迎えた商業施設「なんばパークス」のリニューアル計画を実施。また、阪急電鉄は、梅田駅に併設する商業施設「阪急三番街」の北館および南館の一部において改装工事を行ったほか、ファッションビル「LUCUA osaka」を展開する西日本旅客鉄道(JR西日本)も、ルクアイーレの地下1、2階を対象にリニューアルを実施することを発表した。

 このように改装計画を推進したため、主力のショッピングセンターは売り上げが軒並み減少。商業施設新聞の調べによると、16年度の売上高は、大規模改装を行ったなんばパークスが前年度比3.5%減、LUCUA osakaは同4.6%減となった。リニューアルによる営業店舗の減少および営業面積の縮小などが要因であり、大規模改装の影響は大きかったと言えるだろう。

京都タワーサンドのフードホール
京都タワーサンドのフードホール
 もちろん、16年度は関西大手鉄道各社にとって、まったく収穫がなかった年というわけでもない。JR西日本は大阪府吹田市の社宅跡地において、同社グループ初の駅近接立地以外、いわゆる駅ソトのショッピングセンター「吹田グリーンプレイス」を開業した。「阪急オアシス」を中心に、「キャンドゥ」や「ドンク エディテ」など、普段使いのテナントを集積。近隣の学生や地域住民に好評を博している。また、京阪が16年度に改装を実施し、4月に開業した「京都タワーサンド」も、同社グループが初めて設けるフードホールや、和の文化に触れられる「コト体験フロア」が設置され、観光客を中心に来館者数が増えているという。このように、16年度に改装を行った各施設でも、今後リニューアル効果による売り上げの伸びが期待される。

 とはいえ、鉄道会社の主力は運輸業だ。だが、少子高齢化と人口減少により、運輸業の先行きが厳しいという声を、鉄道会社の取材でよく耳にする。確かに、主力の運輸業が先細りするのであれば、前述のような不動産業や流通業をより成長させることは必須と言える。しかしながら、先行きが厳しいからと言って、運輸業を疎かにしていいわけではない。近年、関東地方で電車トラブル(痴漢や車内喧嘩など)がよくニュースで報じられるが、関西地方でも電車の遅延や運行停止が目立つようになってきた。筆者も先日、京阪電車が止まり、入社して初めて振替輸送を利用したが、通勤時間が1時間半を超えるという、すごく疲れる通勤となった。今後も大型施設の開業や、既存施設の大規模改装が実施されると思うが、まずは鉄道の運行体制を万全に整えたうえで、前述のような新しい取り組みにチャレンジしていただきたいと思う。
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