大手調査会社のIHSマークイット(テクノロジー部門)は、7月25~26日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第37回 ディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では注目の講演内容を登壇アナリストに聞く。第3回は「スマートフォン市場」を担当するディレクターのジュシー・ホン(Jusy Hong)氏に主要テーマを伺った。
―― 2019年のスマートフォン(スマホ)市場の最新予測について。
ホン 年初の予測では、19年の出荷台数が前年比1.2%減の13億9400万台、20年は同2.9%増の14億3400万台とみていたが、米中摩擦に伴うファーウェイ問題に伴い、19年を同1.8%減の13億8500万台、20年を同3.0%増の14億2600万台に下方修正した。
ただし、この予測は、G20大阪サミットで米中やファーウェイの問題が解決に向かい、サプライチェーンが正常化するというポジティブ・シナリオを前提に立てている。解決の糸口さえ見つからないというワースト・シナリオ前提の予測は誰にも立てられない。
―― ファーウェイの出荷台数見通しは。
ホン 18年の実績2億600万台に対し、19年は2億台、20年は1億8600万台と予想している。19年は18年比でほぼ横ばいになるが、米国の禁輸措置が具体化する以前、19年は2億7000万台の出荷を目指していたため、実質的に7000万台という大きな減少になる。
グーグルのサポートや継続的なアップデートが受けられるのかといった不安感が消費者に広がり、ファーウェイのシェアが高かった欧州やアジア諸国でブランドイメージが大きく毀損してしまった。海外市場でイメージを回復するには相当時間を要するとみており、21年にも影響が残るかもしれない。
―― 禁輸措置の影響がなかった1~3月期は。
ホン ファーウェイの1~3月期の出荷台数は5910万台と好調で、5月までは影響がなかった。このうち中国向けは3000万台と半数を占めた。禁輸措置の影響で、中国では逆にファーウェイを応援しようという機運が高まり、中国市場ではオッポやビーボ、シャオミーからシェアを奪うとみている。
4~6月期も中国向けの出荷は3000万台を維持し、年間では中国だけで1億2000万台、最大1億5000万台まで伸びる可能性も考えられる。海外市場ではシェアを落とす見通しだが、中国でのシェアアップは19年の数量を下支えするだろう。
―― 中国以外の市場でファーウェイの減少分を補うのは。
ホン サムスンだ。大半の地域でファーウェイと競合しており、製品シリーズも似ている。欧州やインドなどではローカルブランドにも一部恩恵があるだろうが、半導体やディスプレーを内製できる「サプライチェーンの強さ」でサムスンに敵うところはない。19年のサムスンの年間出荷台数予測は2億9000万台から3億300万台に上方修正した。
―― アップルについて。
ホン ファーウェイ問題からの恩恵は小さい。OSが異なり、端末が高価であるため、シェアの移動は少ないだろう。
―― スマホ用ディスプレーのトレンドは。
ホン 有機ELの搭載比率が緩やかに上昇する。台数ベースで18年は27%だったが、19年は30%、20年は39%になるとみている。アップルは、19年も液晶モデルを継続するが、20年から全モデルが有機ELになると噂されている。一方で、利益率の高い中国国内市場でファーウェイにシェアを取られるオッポやビーボ、シャオミーは海外市場向けに高価な有機ELの採用が増えない可能性がある。
―― フォルダブルスマホの見通しは。
ホン 19年の出荷台数は1000万台と予想していたが、Galaxy Foldの延期で400万台に下方修正した。サムスンはフォルダブル有機ELディスプレーの再生産を開始したようで、2~3カ月以内に発売するのではとみている。
これにファーウェイが続いてMate Xを発売するかが焦点だが、スマホ事業の現状を考えれば優先順位は高くない。仮にリリースするとしても中国限定で、ごく少量に限られるだろう。
―― その他の注目トピックスは。
ホン グーグルが5月に発表した35ドル以下の低価格スマホだ。グーグルアシスタントを0.5GBで使えるようになる。新興国でスマホ比率がアップするきっかけになるだろう。
また、アップルがUWB(Ultra Wide Band)技術の搭載を予定している。これにより、かなり正確な屋内ナビゲーションが実現できるようになる見通しで、将来はAR技術との連動も考えられる。
(聞き手・編集長 津村明宏)
「第37回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報はセミナー事務局(E-mail :
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