電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第391回

付加価値の源泉はモノからモノが生み出す機能/効用、すなわちコトにシフト


~九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会の総会はかなりの活況

2020/7/10

 「九州エリアは、柱とも頼む自動車産業の急減で大変なことになっている。サプライチェーンについてもいまだ完全には復旧しない。こうした状況下にあっては新たなイノベーションがどうしても必要になる。コロナウイルス禍に対抗するためにも、デジタル時代到来に対応するためにも、待ったなしのビジネスモデル開発である“コトづくり”を強烈に推進しなければならない」

 これは2020年6月25日に開催された九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会(SIIQ)の2020年度通常総会における米田健三氏(九州経済産業局・局長)の発言である。さようまことに、この協議会はかなりの勢いでコトづくり推進フォーラムを進めてきた。このもともとの概念は、公益財団法人の九州経済調査協会が提案した「コトづくりのすすめ」にある。

 IoTに代表される第4次産業革命による加速的な技術革新は、産業のみならず、消費者や社会のニーズの多様化をもたらしている。シェアリングエコノミーに代表されるように、付加価値の源泉がモノからモノが生み出す機能・効用、すなわちコトにシフトされているのだ。つまり、これからの時代は、単にモノを売って販売するだけではなく、コトが生み出すコトを重視したビジネスモデル構築がモノづくり産業の発展にとって必要不可欠なのだ。

 この米田氏の発言に先立って、これまで長くSIIQの会長として活躍された上田康弘氏(元ソニー執行役員)の挨拶もあり、会場を沸かせていた。上田氏は会長としてのラスト挨拶にもかかわらず、またも吠えまくりであった。

SIIQ2020総会の議長をつとめた京谷忠幸氏
SIIQ2020総会の議長をつとめた京谷忠幸氏
 「ついに世界一を奪還した富士通のスパコン“富岳”の半導体の設計はオリジナルだけど、誰が作ったのか。世界を代表する台湾のファンドリー企業なのである。しかしてこれでいいのか。国内における半導体企業の大型投資が今こそ望まれている。我々は戦わなければならない」

 この通常総会の議長を務めたのが、ピーエムティー代表取締役の京谷忠幸氏である。京谷氏はSIIQの副会長の重職にもあり、国のプロジェクトであるミニマルファブの立ち上げについても多くの活躍を見せた人だ。そしてまた、このSIIQのまとめ役の1人としても頑張っておられる。

 この総会では、上田氏の後任として新たにSIIQの会長に就任された三菱電機のパワーデバイス製作所長である安田幸央氏が、あいさつがわりともいうべき講演をされた。その後には、今回の総会において筆頭副会長に選ばれたソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの代表取締役副社長である山口宣洋氏がこれまた意欲的な講演をされた。

 その後2020年度の事業計画案が採択され、SIIQ総会は新型コロナの不安がいまだ漂う福岡の街において開催されたにも関わらず、明るく元気な雰囲気ですべてを終了した。筆者は久方ぶりにSIIQの総会に参加したのであるが、「いやー、やっぱり九州は元気だね」という印象を深く持った。

 2020年の後半を考えてみても新型コロナウイルス感染症における影響はいまだ続くわけであり、九州の半導体関連企業においても、自動車やスマートフォンでの生産減による受注減少やサプライチェーンへの影響が出てきている。さらに、米中貿易摩擦は拡大するばかりである。半導体を取り巻く状況は決して予断を許さない。しかして世界的には、2020年の半導体産業は3~5%のプラス成長が予想されているのである。

 九州地域の実力はここにきて大変なものに跳ね上がっている。2019年の九州のIC生産実績は生産数量がは1.5億個に達しており、生産金額は7362億円となっている。CMOSイメージセンサーやパワーデバイスを中心に高い水準を維持しているのだ。国内における半導体関連の企業集積において、今や40%以上のシェアを持つ九州の今後の戦い方に、多くの人たちの関心が高まっている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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