電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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コロナ禍のFPD部材市場


~ドライバーと偏光板に不足感~

2020/9/4

 ここ数カ月の間に、2020年のFPD業界をめぐる状況は、新型コロナウイルスの影響によって様変わりした。自動車の世界生産台数は前年比で2割減少すると予測される一方、タブレットやノート/デスクトップPCは在宅需要でプラス成長しており、テレビにも買い替えや買い足しの需要が出ている。

 だが、当初稼働予定だった中国10.5G工場(BOEとCSOTの2棟目)は当初計画から立ち上げが遅れており、これがテレビの画面サイズ大型化の動きをスローダウンさせている。当社の当初予測では、テレビの台数減を大画面化が補い、テレビ用のパネル出荷面積はプラス成長を続ける見通しだったが、一連の変化によって、最新の予測で出荷面積は前年比3%減となり、史上初めて前年割れする見通しとなった。

 コロナ禍に伴い、ガラス基板をはじめとするFPD部材の需要にも確かに影響は出ているが、それよりも大きな影響が出そうなのが韓国FPDメーカーのテレビ用液晶パネルからの生産撤退である。すでにLG化学がガラス基板事業からの撤退と偏光板事業の売却を決めたが、韓国FPDメーカーに強い日本の部材メーカーにも少なからぬ影響が及ぶ。当面は韓国の生産拠点から中国への輸出する対応が中心になるだろうが、関税などを考慮すると、輸出だけに頼り続けるのは無理がある。中国FPDメーカーの覇権が今後強まるからと言って、現地に工場を新設するのも、新たなリスクになりかねない。今後どうすべきか、遠からず具体策を求められることになるだろう。

 ただし、日米欧の部材メーカーが手がける「素材のなかの素材」に新興メーカーが参入するのは容易でない。コロナ禍で需要の下ぶれがあるとはいえ、先行メーカーは高付加価値品で差別化して堅実に利益を上げており、この流れはさらに強まっていく。

 コロナ禍やサプライチェーンの変化を問わず、慢性的な不足にさいなまれているのがドライバーICだ。ドライバーICメーカーの多くは工場を持たないファブレス企業であり、製造はファンドリーが担っている。量産の主流である200mmラインは現在、5Gスマートフォン向けに需要が伸びているPMICなどに割り当てられるケースが多く、ファンドリーも安価なドライバーICへの配分を増やすことに後ろ向きだ。

 仮に、中国の新興半導体メーカーが90nmや110nmプロセスの300mmラインを新設して生産受託量を大きく増やすのであれば不足解消に向かうのだろうが、当面のところは難しい。こうしたタイト感からドライバーICは徐々に値上がり中で、適正価格に戻す途上にあるのが現状だが、1年後もこうした状況は大きく変わらなさそうだというのが現在の見立てである。

 また、偏光板も不足気味である。テレビの大画面化に伴って非TACフィルムの需要が伸びているが、アクリル系、PET系、COPなどは2.5m幅以上の大型フィルム製造ラインのキャパシティーがまだ限られている。今後の55インチ以上の大型テレビの需要動向にもよるが、タイトな状況はしばらく続くと考えている。

 車載用では、ヘッドアップディスプレー(HUD)の採用が徐々に増えており、かつ表示エリアの拡大に向けて大型化が進みつつある。ただし、電動化に伴う「バイワイヤー」技術の搭載増加やCID(Center Information Display)の高度化で、ダッシュボードの内側は「スペースの取り合い」になっている。自動車OEMからは「エアコンのダクトスペースが取れない」といった声も聞かれ、HUDの普及拡大には部材を含めてさらなる小型化が求められそうだ。

 他方、車載用にミニ/マイクロLEDディスプレーを実用化しようという動きも活発化しており、特に台湾メーカーが意欲的だ。液晶や有機EL以上の高輝度を実現できるのが利点だが、実装がきわめて高コスト。付加価値を認めてくれやすい車載用であっても、採用までには一層のコストダウンを図る必要がある。

 液晶の次として、有機ELやミニ/マイクロLEDに対する期待は高いが、まずは「アフターコロナ」のライフスタイルを創造し、新たなアプリケーションを生み出していくことこそが次なる部材需要を生むとみて注目している。
(本稿は、宇野匡氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)



Omdia 宇野匡、お問い合わせは(E-Mail: tadashi.uno@omdia.com)まで。
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