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筑波大学附属病院(下) 脳神経外科 教授 松村 明氏/講師 阿久津博義氏


筑波大学病院、国内初の天井懸架移動式「術中MRI手術室」を披露
松村明教授「術中MRI撮影は全摘出や脳実質内腫瘍の境界明確化で有意」

2013/6/11

松村氏(左)と阿久津氏
松村氏(左)と阿久津氏
 筑波大学附属病院(茨城県つくば市天久保2-1-1、Tel.029-853-3900)は、1月から供用を開始した国内初となる天井懸架移動式の「術中MRI手術室」のプレス見学会を実施、脳神経外科の松村明教授と阿久津博義講師が「脳外科手術における天井懸架移動式高磁場術中手術システムの意義と成果」について説明した。
 松村氏は、意図的に増やそうとしているわけではないが、筑波大学附属病院の脳外科手術件数が2年連続して国立大学病院の中で1位であることを明かし、脳外科手術の術中MRIに加え、陽子線医学利用研究センター、ホウ素中性子捕捉療法など最先端の治療法を確立しながら、トータルで患者の治療に役立たせたいと取り組みを紹介した。
 阿久津氏は、脳腫瘍の外科手術の場合、手術で切除しきれずに腫瘍の一部が残ってしまうと再発するし、「神経線維」「運動野」「言語野」などを傷つければ、脳機能障害、後遺症につながってしまう。脳内部から生じる「脳実質内腫瘍」は境界が分かりにくい。神経線維、運動野、言語野はMRIで見えても肉眼では見えず、「術中MRIは、手術途中や最終検査で確認できる有意な方法」とし、高い必要性を説明した。
 説明では、実際の手術を撮影した動画を用いて、腫瘍摘出後に1回目の撮影、神経線維近くにある残存腫瘍を確認した後、神経線維を傷害せずに腫瘍を再摘出し、2回目の撮影を行って、摘出を確認した様子を紹介した。
 術中MRIの種類は、筑波大学附属病院が設置した天井懸架移動式のほか、手術室内設置型、患者を手術室からMRI室に移動させる患者移動型がある。手術室内設置型は手術中、一般のMRI撮影ができないため、MRIの稼働率が下がり、採算性で劣る。患者移動型は、全身麻酔状態で多くの器官チューブやモニターをかけた患者の移動リスク、スタッフへのストレスといった課題がある。
ビジウス サージカル シアター
ビジウス サージカル シアター
 筑波大学附属病院に導入したIMRIS社の「ビジウス サージカル シアター」は、開口部が楕円で広いシーメンスEspree1.5TのMRI、MR対応手術ベッド、頭部固定フレーム、術中MRI用コイル、多くの手術用資器材の天井吊式ペンダント、手術用無影灯、手術情報マネジメントシステム、大画面データ表示スクリーンといったシステム、機器で構成されている。患者移動の際は、透明保護シートで患者を包み、細菌を防ぐ。
 松村氏は、MRI撮影のみを行う場合にも、子供や老人などで動きを止める全身麻酔が必要なケースもあり、手術室に隣接したMRIは、麻酔医やその資器材が近くにあり利便性が高いと解説する。術中MRI撮影は有意性が非常に高いものの、MRI撮影は保険適用外であり、保険適用の要請もしている。筑波大学附属病院の場合は、その費用を患者に求めず、病院が負担している。
 阿久津氏は、安全への取り組みとして、室内金属類の厳重管理(入室時の用紙記入での確認、金属探知機、撮影前の手術機器のカウント、生体モニター確認)、電子制御(ベイドア、入口扉)、さらに、脳神経外科医、麻酔科医、放射線科医、手術部看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、病棟看護師が共有するトレーニングおよびマニュアルの習得を徹底させていると説明した。
 摘出術の症例は、神経膠腫(低悪性度3、高悪性度8)、良性腫瘍5(海綿状血管腫、下垂体腺腫、髄膜腫、脊索腫、類上皮嚢胞生検術各1)、悪性リンパ腫1の17症例(うち生検術1)で、摘出率は、撮影前の全摘出が26~27%であったのに対し、撮影を導入したケースでは47~48%ほどに上がった。その結果、最も悪性度の高い神経膠芽腫の患者の生存を数カ月延ばすことができた。
 術中撮影を導入する前は、手術ナビゲーションシステムを使っていたが、手術前に撮影した写真と、実際の術中時で「脳が沈む」などして腫瘍の位置が変わったりするといったケースもある。
 MRI装置本体が移動しない種類の術中撮影の場合、通常、オペを1時間ほど中断することになる。これに対し、天井懸架移動式の術中MRI撮影の場合は30分ほどの中断が目安とされているが、まだ30分の域には到達していない。今後、さらにスキルアップを図る。
 阿久津氏は最後に、術中MRI手術室の使用を開始して、これまでに16例の手術を実施したが、スタッフの習熟度が上がってきており、年間100例くらいを目標にしたいと延べた。

(この稿終わり)

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