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東日本税理士法人 副所長 長 英一郎氏


インドネシア・タイの病院視察
比較で分かる日本の医療

2013/8/20

長 英一郎氏
長 英一郎氏
 東日本税理士法人(東京都新宿区矢来町75、Tel.03-3513-7622)の副所長で、医療福祉経営コンサルタントのエキスパート長 英一郎氏は、週刊で発行する『医療経営メールマガジン』2013年7月22日号で、7月14~19日に行ったインドネシア・タイの病院視察特集記事を掲載している。日本の医療、福祉を熟知した長氏の洞察力、観察力に基づく、医療における海外諸国と日本との比較、海外事情の解説は、今後の日本における医療福祉のあり方や医療産業への示唆に富んでいる。臨場感を損なわないよう、原文に可能な限り忠実に、長氏のレポートを紹介する。
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 昨年(2012年)12月に視察した米国もそうでしたが、日本の国民皆保険制度の素晴らしさを改めて実感するとともに、その限界も垣間みたような気がします。
 タイのバンコク病院は富裕層に限定した自由診療。インドネシアの国立病院はセーフティネットとしての保険診療。こういった二極化は日本でも避けられないのではないかと考えています。
 産業競争力会議の成長戦略などを参考に病院視察のご報告をさせていただきます。(参照:成長戦略(案)平成25年6月12日 産業競争力会議配布資料、http://goo.gl/ZnHLm
 直近1週間の医療経営ニュースのうちベスト3を独断でとりあげます。Facebook「いいね!」の人数は、「長 英一郎」のFacebookで、記事が面白いと評価していただいた方の人数です。
 まず、第3位の「自由診療の拡大」(Facebook「いいね!」47人)は、TPP解禁により株式会社の参入や先発医薬品価格上昇などが懸念されますが、保険外併用療養費(特定療養費)がまず影響を受けるかもしれません。
 保険外併用療養費とは、保険診療と併用が認められるものであり、陽子線治療、差額ベッドなどがそれにあたります。保険外併用療養費の範囲拡大については厚生労働省も前向きに検討していることから、米国などで行われている自由診療が取り入れられる可能性があります。
 産業競争力会議では先進医療を大幅拡大するよう提言をしています。
 保険診療と保険外の安全な先進医療を幅広く併用して受けられるようにするため、新たに外部機関等による専門評価体制を創設し、評価の迅速化・効率化を図る「最先端医療迅速評価制度(仮称)」(先進医療ハイウェイ構想)を推進することにより、先進医療の対象範囲を大幅に拡大する。このため、秋を目途にまず抗がん剤から開始する、とされています。
 ちなみに、単純に盲腸手術の医療費を諸外国と比較しても、日本の医療費は格段に安くなっています。
 以下は、世界各国の盲腸手術費用の比較で、▽都市(費用総額(万円)、入院日数(日))の順。
▽ニューヨーク(243.9、1)
▽ロスアンゼルス(193.9、1)
▽香港(152.6、4)
▽ロンドン(114.2、5)
▽台北(64.2、5)
▽バンクーバー(54.6、2)
▽ジュネーブ(52.1、4)
▽ソウル(51.2、7)
▽シンガポール(50.9、3)
▽北京(47.8、4)
▽パリ(47.7、2)
▽ローマ(46.4、2)
▽フランクフルト(42.5、7)
▽済生会栗橋病院(37.8、7)
▽ホノルル(27.3、1)
▽上海(23.4、4)
▽バンコク(20.7、3)
(参考:AIU保険会社の2000年調べより、http://goo.gl/1an00
 メディカルツーリズムに力を入れているシンガポールやタイ(バンコク)と比較してもそれほど医療費に大きな差がないことが分かります。
 それでも日本に外国人患者が少ないのは、JCIの認定病院が少ないこと、外国人への言語対応がなされていないことなどが挙げられます。
 逆に言えば、先進医療の範囲が拡大され、外国人対応の環境整備がなされれば、外国人患者が増える余地は十分にあります。
 続いての第2位は「ドクターフィーから支払われる医師給与」(Facebook「いいね!」68人)。
 今回の病院視察では、単に病院見学するだけでは病院の実態が分からないということで、バンコクにあるサミティヴェート病院(270床、JCI認証)の皮膚科を受診しました。病名は水虫です(笑)。診療費1万5000円(保険適用なし)の内訳は次のとおり。▽薬(費用1万1100円)▽ナースフィー(300円)▽初診料(600円)▽ドクターフィー(3000円)。
 診療費のほとんどが薬代で(タイの場合ほとんどの病院が院内処方)、薬価差益が50%ぐらいあることも。サミティヴェート病院やバンコク病院の場合、富裕層中心であり先発医薬品しかなく、薬価差益が病院の収入の中心になります。
 医師は日本のように病院に直接雇用されているのは稀であり、ほとんどの医師は外部で開業(もしくは他の病院と兼任)しています。ドクターフィー(手術、指導など)の5%は病院に対する家賃として徴収され、残りが医師の報酬になります。
 医師の報酬は患者の人数・単価に応じるため、医師によって相当の格差があるようです。
 病院側としても患者を呼べない医師は、病院の売り上げにつながらないため、契約更新をしないそうです。
 日本の場合、診療報酬は公定価格ですが、タイの富裕層向けの病院では診療費は病院が自由に決めています。原価に利益をオンすることにより売価(診療費)を決めるため、よほど近隣の病院と比べて高い金額でない限り赤字にならない仕組みになっています。(サミティヴェート病院スクムビット ホームページ:http://goo.gl/L1NC6
 今週(7月22日号)の第1位は「外国人看護師・介護福祉士の受け入れ」(Facebook「いいね!」71人)。
 EPAによりインドネシアから日本に受け入れている外国人看護師・介護福祉士の、インドネシアでの国家試験合格者は、看護師、介護福祉士ともに年々減少しています。インドネシア年度別国家試験合格者数は、〈看護師〉20(2008)年度24人、21年度38人、22年度6人、23年度3人。〈介護福祉士〉20年度45人、21年度75人、22年度0人、23年度1人。
 日本で働きたいと夢を持って来日したにもかかわらず、不合格により帰国すると日本語を使う機会がありません。ジャカルタにある日本人が経営するタケノコ診療所では、不合格者を雇用し、日本での再受験を支援しているそうです。
 ジャカルタのタケノコ診療所(:http://www.takenokoshinryojo.com/)は、日本人専用のクリニックなので、日本語を忘れることなく、現場を離れることがないというメリットがあります。政府としても受け入れ拡大について検討するようですが、やはり帰国後の対応となると民間の力が必要とされます。
 外国人看護師・介護福祉士の受け入れについては、経済連携協定に基づく看護師・介護福祉士候補者受け入れについて、インドネシアおよびフィリピンからの受け入れに加えて、来年度からベトナムからの受け入れを開始するとともに、今後の受け入れ拡大に関して検討を続ける。
 関連してのテーマとして、「医療法人の現地海外法人への出資」が挙げられます。日本法人の海外進出がここにきて増えてきています。(参照:ニッポンの医療世界へ、http://goo.gl/n7Is9)。
 セコムと豊田通商が日本企業でインド初、現地企業と総合病院を設立し共同運営(http://goo.gl/BA7fy)、ジャカルタにクリニックを開設(医)偕行会(http://goo.gl/2LAIg)などが著名なところで、医療法人の場合、「医療法人運営管理指導要綱」において出資に関する規制があり、現地海外法人への出資が規制されています。「現金は、銀行、信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとすること」。(参照:医療法人運営管理指導要綱8ページ、http://goo.gl/DnOuh
 現地海外法人への出資は、リスクがあり確実な有価証券とはいえないからです。しかし、「産業競争力会議」においては、出資規制の緩和が提案されています。
 「医療の国際展開」については、一般社団法人メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)を活用し、官民一体となって、日本の医療技術・サービスの国際展開を推進する。
 新興国を中心に日本の医療拠点について、2020年までに10カ所程度創設し、2030年までに5兆円の市場獲得を目指す。その際、国際保健外交戦略との連携、ODA、政策金融等の活用も図り、真に相手国の医療の発展に寄与する持続的な事業展開を産業界とともに実現する。
 その実現に向け、上記の取り組みとともに、日本の良質な医療を普及する観点から、(1)相手国の実情に適した医療機器・医薬品、インフラ等の輸出等の促進、(2)外国人が安心して医療サービスを受けられる環境整備等に係る諸施策も着実に推進する。
 財務状況の健全性など一定の要件を満たす医療法人が、現地法人に出資可能であることを明確化する。
 日本の製薬産業の優れた研究開発力を活かして、開発途上国向けの医薬品研究開発と供給支援を官民連携で促進する、といったことが明記されています。(参照:一般社団法人メディカル・エクセレンス・ジャパン ホームページ、http://goo.gl/r2hwz
 これにより財務状況の健全性など一定の要件を満たす医療法人(例:社会医療法人)が、現地法人に出資することが可能になると思われます。
 「バンコクの病院にみるJCI認定」に関して、日本では以下の7施設(6病院)がJCI(国際版病院機能評価)の認定を受けています。
▽相澤病院、▽聖路加国際病院、▽亀田総合病院、▽NTT東日本関東病院、▽聖隷浜松病院、▽湘南鎌倉総合病院、▽老健リハビリよこはま
 一方、タイの認定病院数は25、インドネシアは9となっており、日本はJCIでは後発国となっています。(参照:JCI認定病院一覧 JCIホームページhttp://goo.gl/nNGMm
 JCIは「医療の質の管理、継続的な質の向上」という理念に基づき、下記項目が審査されます。
▽患者ケアの提供機能、▽安全な効率の良い適切に管理された医療機関の提供機能
 タイのバンコクにあるヤンヒーホスピタル(400床)は、「heath&beauty」の経営理念のもと、形成外科や脱毛、性転換などを専門に行う病院。世界中より患者が訪れ、2011年1月にJCIの認定を受けています。下記事項は、日本の病院機能評価や医療監視では指摘を受けそうですが、JCIでは問題にされないようです。
▽エレベーターなどに貼られている誇大にみえる広告、▽ローラスケートでカルテを搬送、▽病院内の眼科に併設されたサングラス・コンタクトレンズの店
 JCIは、基本的に「国際的に合意された基準」により審査されるものの、それぞれの国の「法的、宗教的、文化的な要素」が配慮されるようです。ヤンヒーホスピタル以外にもJCI認定の病院を視察しましたが、特別日本の病院と比べて優れているという印象はありませんでした。
 ただし、外国人が来訪する際の言語対応という点ではやはり日本は遅れているかと思います。JCI認証のカギはやはり英語にあるのではないでしょうか?
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 長氏のインドネシア・タイの病院視察リポートの詳細は、長氏が配信するFacebookの一週間の医療経営関連記事にアップされている。(長英一郎氏のFacebookはhttp://www.facebook.com/eiichiro49
【長 英一郎(おさ えいいちろう)】東日本税理士法人(東京都新宿区矢来町75、Tel.03-3513-7622)副所長、中央大学商学部会計学科卒業、公認会計士/税理士/診療報酬請求事務能力認定試験有資格者/日本赤十字廣島看護大学「看護政策論」非常勤講師/日本看護協会認定看護管理者サードレベル「財務管理」講師/認定登録医療経営士
 毎週月曜日に「まぐまぐ!」(メールマガジンポータル)で「医療経営メールマガジン」を発行し、好評を得ている。社会医療法人、DPC・病棟数字の読み方、医療経営士試験対策、医療制度などをテーマに全国各地で多数の講演をしている。
【主な著書】▽『医療経営なるほど、なっとくQ&A50』(日本医療企画、2011年)▽『医療経営士3級試験完全予想問題111』(同、2011年)▽『病院管理看護部門経営塾』(日総研、2011年)▽『医療法改正で変わる医療法人経営― 一人医師医療法人から社会医療法人まで』(清文社)▽『環境変化に負けない「自立型」医療経営戦略30』(日本医療企画、2012年)
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