電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第440回

電動車シフトで「モーター駆動」へ急ピッチ


装置・材料・電子デバイスで進む技術革新

2022/2/18

 2022年に入り、コロナ禍ながら1月には都内で展示会「オートモーティブワールド2022」(RX Japan主催)がリアル形式で開催され、実物や説明員の方々との交流を通じて「今」を感じる機会が戻ってきた。

 展示会場を歩きながら、ふと気付いたのは装置、材料、電子デバイスに至るまで「モーター駆動」「eAxle(モーター、インバーター、減速機を一体化した電動車用駆動システム)」という言葉が多くなったということだ。思わずそんな関係各社にお話をお聞きしてみると「従来、自動車駆動系はOEMメーカーがグループ会社を含めて内製だったでしょ。でも、世界的にこれだけEV(電気自動車)化してきて、新興EVメーカーなんかも続々と参入する状況になってくると、自分たちでモーターを作ろうという機運が高まっている。ところが自動車用に通用するモーターを製造する装置・設備を手配しようとすると、これが意外と提供できる企業は限られているのです」とのコメントを得た。確かに昨年を振り返ると、「モーター」をキーワードとする事案に遭遇する機会が増えてきたことに思いが及んだ。

 世界的なカーボンニュートラル社会の実現に向け、自動車業界はガソリンを主体とする内燃機関車から、モーター駆動が主役の電動車へ一気に舵が切られてきている。今回はそんな状況下で「今起こっていること」に焦点を合わせて動きを追ってみる。

モーター大手の日本電産が本格攻勢

 このテーマを語る上で、まずはマクロの動きとして日本電産の描く展望は外せない。同社は1973年に京都の地で精密小型モーター専業メーカーとしてわずか4人からスタートした企業だったが、モーターで「世界初」「世界最小」のサプライズを提供し続け、ハードディスク駆動(HDD)用モーターで一世を風靡。今では売上高2兆円が目前に迫る世界トップクラスの総合モータ―メーカーへと成長を遂げている。

 そんな同社は今、2025年度連結売上高4兆円、30年度には同10兆円の目標達成を見据えて世界各国の顧客層を見据えた生産体制強化、安定供給体制確立に向けた大胆なM&Aを精力的に遂行している。その主軸を担っているのが、機電一体型のE-Axleなのだ。HDD用モーターで展開した勝利の方程式を、今度はEV向け E-Axleで展開しようと猛烈な勢いで攻勢をかけている。2025年を「EVの分水嶺」と見据え、30年には1000万台の展開を目標に掲げる。

 中国EV向けを中心に順調に販売を伸ばしており、同社製E-Axle採用車種の販売台数は累計約26.5万台超に至り、21年12月のみの販売状況は約2.4万台規模、生産台数で見れば月産3万台超を達成しているもようだ。「需要が出てから増やすのではなく、生産能力を先行させて市場の急激な需要を逃さない」という得意の「待ち受け戦略」で、25年には需要の約2倍のキャパで待ち受ける生産体制整備を着実に実行している。すでに中国内に4工場、フランス、セルビアにも準備中、さらに7番目、8番目、9番目のグローバル製造拠点を検討中、加えて22年後半からはステランティスとの合弁会社でE-Axle量産が予定されるなど驚異的なスピード感で準備が進む。ここでは詳細は割愛するが、E-Axle製造に向けた装置など生産設備や直近では半導体に至るまで、いかなる状況下でも内製で生産をまかなうためのM&Aやキーパーソン獲得も躊躇なく遂行中だ。

 自動車のEVシフトにより、従来は車両製造ノウハウを有する自動車メーカーでなければ生産が困難とされてきた駆動の主軸を担う内燃機関をめぐる障壁がなくなり、主役はモータ―駆動へシフト、極論を言えば車載グレードに見合う必要パーツを組み合わせればEV製造も夢ではない、という現実が到来した。事実、その流れを象徴するテスラを筆頭に、ソニー、リヴィアン、鴻海、ファーウェイ、そして上汽通用五菱汽車など中国新興勢、はたまた参入がささやかれるアップルに至るまで、従来は自動車と無縁だった異業種 陣営が続々とEV参入を表明。中国では45万円台のEVが販売を伸ばす事態が起こっている。まさに自動車業界は「100年に一度の大変革期」が目に見えるかたちとなってきた。

 こうなってくると先々は自動車メーカーも各社の粋を極めて差別化できる高級車などは別として、一般大衆車にはE-Axleを外部調達、などというシナリオも想定される。そして、もちろん新興EVメーカーはE-Axle外部調達のスタンスだ。日本電産が描く未来図と、EVが進む方向性がマッチする時、自動車業界に大きなゲームチェンジが起こり、E-Axleにも新規参入の流れが起こってもまったく不思議はない。

 実際に、筆者が直接関与した案件だけでも21年に三菱電機が徹底した標準化、協業などによるミッションパーツの補完によるeAxle市場への参入を表明する出来事があった。内容は自動車OEM、ティア1顧客の調達・開発方針(内製/外注など)に合わせて、eAxle、コンポーネント、キーパーツなどの選択供給、組み合わせ供給が可能なビジネス形態構築を目指すというもの。同社のモーターおよびインバーターの開発・設計・生産、モーター・パワートレインの制御技術と、eAxle/ギアメーカーとの「ミッシングパーツ」の相互補完で最大効果を獲得することを見据えているようだ。

モーター向けで進むレアアースフリー開発

 こうしてEV向けで一気にモーターへの注目度が高まったことで、モーター関連の中長期を見据えた材料開発への取り組みが動き出している。モーター用マグネット(磁石)には、ネオジム、ジスプロシムなどの希少元素(レアアース)が使用されており、今後の世界的なEV拡大などを想定するとレアアース需要拡大による資源リスク、需給バランスによる価格変動懸念、採掘・精錬時の環境負荷が懸念材料として浮上している。

 こうした課題に着眼し、デンソーの先端技術研究所では「レアアースフリー磁石」として、鉄とニッケルのみを原料とする「鉄ニッケル超格子磁石」の研究開発を推進している。窒素を利用して鉄ニッケル超格子磁粉を人工的に、高純度かつ短時間で合成するというものであり、先々は耐熱性、耐環境性に優れた同超格子磁石の特性を活かし、電動化ニーズをリードしたい考え。

「レアアースフリー磁石」の開発が進む(デンソー 先端技術研究所の発表資料より抜粋)
「レアアースフリー磁石」の開発が進む
(デンソー 先端技術研究所の
発表資料より抜粋)
 本件の記者向け説明会の折に、筆者が「駆動用モーターにこの磁石がどこに、どう寄与する可能性があるか」と質問した際、「最終的なイメージは、モーターの主機に関わる磁石の置き換え。たとえば、(駆動用モーターは)様々な材料、素材からなっているが、モーターの磁石をひとつ置き換えただけで、他の部品・部材も置き換わってくる可能性が十分ある。そうするとモーター自体も、他の材料も含め変えられる可能性も含めて検討していくことが今後の課題と思っている。鉄ニッケル超格子ならではのモーターができあがってくると世界がまたかなり変わるのではないか。もちろん、単なるモーター磁石そのものを置き換えるだけで使える可能性もある」との返答を得た。

 同様の動きは他社にも見られ、2021年に電子デバイス産業新聞が報じたニュースだけでも、たとえば日亜化学も磁性材料において、材料価格の不安定なネオジムを代替できる磁性材の開発を推進。一方、早稲田大学と日産自動車は、逆に電動車用モーター磁石からレアアース化合物を高純度で効率よく回収するリサイクル技術を共同開発しており、20年代中ごろの実用化を目指して実証実験を開始している。

 日産自動車は、非鉄金属のリサイクルと製錬に関する研究で高い実績のある早稲田大学創造理工学部と共同で、17年から同校の大型炉設備を用いて電動車用のモーターの磁石からレアアース化合物を回収する研究を開始。19年度には、高温で融体を取り扱う「乾式製錬法」により、モーターを解体することなく、高純度なレアアース化合物を効率よく回収する技術を確立している。今後、実用化を目指した実験を続けながら、使用済み電動車に搭載されたモーターを回収してリサイクルするスキームの構築を進めていくとしている。

 その他、愛知製鋼も東北大学とともに、次世代電動アクスル用素材、プロセスをターゲットとした共創研究所を設立し、革新的な材料、部品、製品の開発で協業。愛知製鋼はモーター、インバーター、減速機を一体化した電動車用駆動システムである電動アクスル向け部材の開発に注力している。次世代システム用に、希少資源であるジスプロシウムフリーのボンド磁石と鍛鋼一貫による高強度素材を融合し、小型軽量化と高機能化を目指していると見られる。

モーター製造へ「レーザー溶接」という新提案

 モーター製造用の装置でも20年後半あたりから新製法を取り入れた動きが見受けられる。たとえば、古河電気工業はNITTOKUと業務提携し、「電動車向けモータ用レーザ溶接機」を製品化し、上市している。古河電工のレーザー加工・銅材料評価技術と、NITTOKUの精密FA技術の組み合わせることで、巻線、組み立て、断線、検査のトータルソリューション提供を目指している。

レーザー溶接機による加工サンプル(古河電気工業とNITTOKUのニュースリリースより)
レーザー溶接機による加工サンプル
(古河電気工業とNITTOKUの
ニュースリリースより)
 この説明会にも参加させていただいた折に、自動車用モーター特有の条件などへの言及もあった。それによれば、同条件として、オートロックかつ小型・軽量があり、一般的な巻線型のモーターとは異なり、xEV用モーターでは平角線を短冊状にして電気を流すため、両端を接合してステーター(コイル部分)を製造するという。同溶接機では、この溶接時に古河電工のハイブリッドレーザー技術とビームモード制御技術を組み合わせたレーザー加工技術により、線が立ち上がった状態のまま線と線の間隔をまたぐように溶接でき、工程削減や空洞・欠陥なく電流が確実に流れる信頼性の担保、かつ溶接能力の従来品比最大10倍を可能にする。NITTOKUの画像処理技術との掛け合いも寄与しているとしていた。従来のTIG溶接とは異なる製造手法が登場してきたことになる。

 ちなみに、前述の「オートモーティブワールド2022」でも、第一実業ブースで、パナソニックプロダクションエンジニアリング(株)の「高速・高品質加工可能なEV・HEVモーター用レーザー溶接機」を実機展示していた。電動アクスルなどに向けたモーター関連の引き合いが高まっているとの声が聞かれた。拝見した同溶接機は、溶接深さ検査(OCT)とレーザー溶接を同時処理可能な高速溶接を提案しており、ビームプロファイル制御で高品質溶接を実現し、OCTでインプロセス全数検査を非破壊で可能にするというものだった。コイルエンド部短縮にも有効で、軸長短縮化にも寄与するとしていた。

 国内では、モーター製造に必要な各種装置・設備を一貫提案・提供できる環境が少ないとの声もあり、EV用モーター駆動系へ向けて今後、製造に向けた動きも活発化していきそうだ。

電子部品にも商機

 電子部品のコネクターメーカーでもモーターに言及した動きが感じられる。一例として、国内コネクター大手の日本航空電子工業では、新興のEVメーカー向けを中心に、インバーターとモーターの一体化用コネクターのニーズが高まっており、新たな商機となっている。同社は新幹線などの鉄道車両向け大電流・高電圧対応コネクターなどで実績を有し、こうした技術的蓄積をEVに応用した。新たなインバーター、モーター用コネクターを開発し、ティア1へ拡販している。

TEコネクティビティ製「IPT-HD パワーボルト高電圧コネクター」(同社プレスリリースより)
TEコネクティビティ製「IPT-HD パワーボルト
高電圧コネクター」(同社プレスリリースより)
 また、外資系のTEコネクティビティの21年の新製品にも代替エネルギー車の振動とシールド性能を確保するコネクター製品「IPT-HD パワーボルト高電圧コネクター」があった。新シールド設計を提供し、新型エコカーのMCU(モーターコントロールユニット)、E-Axle、Eモーターで使用される電線断面積に低接触抵抗と高密度オプションを提供するというもの。1、2、3極を有し、動作温度範囲はマイナス40~+125℃で、エンジンレベルの振動にさらされる環境下でも使用できるとしていた。

 また、電子部品という視点では、電流センサー、温度センサー、圧力センサーなど各種センサーでも商機が生まれている。電子デバイス産業新聞の新春インタビューに対し、TDKの石黒成直社長もEVブーム到来に関してこうコメントしている。「当社には自動車向けに展開中の圧力センサーや温度センサーがある。エンジン不要なEVでは両センサーは必要ないのではと言われるが、むしろ逆だ。バッテリーやモーターは放熱する。この熱は損失を意味する。損失をいかに省いて電費をよくするか。ここに温度センサーは必須である。また、エアコン駆動など何を駆動するにもコンプレッサーを要する。ここでは圧力センサーの出番だ。両センサーのさらなる高精度化が待たれている」

 モーターという視点では、前述のE-Axle以外でもインホイールモーターを巡る動きも需要を喚起する材料として期待されている。足元では中国を中心に電動二輪で動きがある一方で、EVの先端開発に携わる関係者からはEVでのインホイールモーターという視点では、完全自動走行が現実味を帯び、車室内空間確保が必要になってくるかなり先のタイミングではないか、と見る向きもあり、今後の動向が注目される。
 このように、内燃機関車からEVへのパラダイムシフトで、駆動の主役はモーターへ急速にシフトし、新興EVメーカー参入の動きも相まって、装置・材料・電子デバイスを巡る技術革新は日進月歩の真っただ中にある。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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