電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第519回

関西エリアのデバイスの復権はもう始まっているのだ


コアとなるのは大阪ではなくて京都、装置産業の強さも魅力

2023/2/17

 シャワーを浴びて、ヘアードライヤーをかけるたびに、ふと思うことがある。筆者が愛用しているヘアードライヤーは、もう20年以上も前のものであるが、まったく故障しない。そのメーカーの名前を聞いて、驚かないでいただきたい。それは、三洋電機なのである。Z世代の人たちにはまったくわからない名前であるのかもしれない。

 しかして、今日にあって、日本の家電がどんどん衰退して、影も形もないと言われるところであるが、ヨドバシカメラに行ってみれば、驚くことがある。筆者はさすがに三洋電機ばかりを使い続けるのは恥ずかしい、という気持ちがあるからして、新しいものを買ってみようという気持ちになった。そこでヨドバシカメラの店員さんに、「一番品質がよくて、ブランド力があって、なおかつお洒落なヘアードライヤーを見せてくれ」と言ったところ、間髪入れずにこう言われた。

 「それは、パナソニックのナノイーでございますよ、お客様。ほとんどの女性たちがお使いになるばかりではないのです。Z世代の男の人たちは皆、お洒落ですから化粧もするし、ドライヤーにも凝っておられます。髪に優しく、しかもパワフルというパナソニック製は一番人気なんです」

 パナソニックといい、シャープといい、はたまた潰れてしまった三洋電機といい、関西エリアにおける家電の衰退は実のところ、目を覆うばかりなのである。関東においては、トーンダウンしたとはいえ、東芝の存在感はまだ大きい。そして日立製作所は、ずっと日本の電機産業で売り上げトップを続けている。これを激しく追い上げているのがソニーである。こうした関東勢の強みに対して、関西の弱さが目立ってきたことを嘆く人は多い。

 ところが、である。目を他に転じてみれば、関西の強さというものがまだ残っていることに気が付く。世界ナンバー1クラスのエアコンメーカーは一体どこにあるのか。それは、大阪のダイキン工業である。温度と湿度の同時並行のコントロールができるエアコンは、ダイキンの「うるさら」以外にはない。

 そしてまた、中国のエアコンのインバーターの70%は三菱電機が作っている。中核となるのはパワー半導体であるが、この量産拠点であり、開発のヘッドクォーターでもあるのが、三菱電機北伊丹製作所であり、近畿エリアの中枢の一角である兵庫県下にある。ついでに言えば、パワー半導体でいまだに世界的な強みを持つ東芝デバイスの拠点工場も、兵庫県姫路にある。アナログ半導体に強みを持つ日清紡マイクロデバイスの拠点であるやしろ事業所もまた、兵庫県下にあるのである。

京都大学ベンチャーのFLOSFIAは酸化ガリウム半導体で名を知られる。
京都大学ベンチャーのFLOSFIAは
酸化ガリウム半導体で名を知られる。
 京都には、いまや国内半導体生産ランキング第4位に浮上しているロームの本社工場がある。一般電子部品の中で最も注目される積層セラミックコンデンサーの世界チャンピオンは、村田製作所であり、これまた京都にある。マイクロモーターの世界トップをはる日本電産も京都に本社を置くのだ。京都大学発のベンチャーであるFLOSFIAは、世界初の最先端酸化ガリウム半導体を開発して、一気に名前が知られてきた。現在は、少量産の工場を動かしているが、ゆくゆくは新工場立地も考えたいという。同社の社長は、京都の桂川エリアを半導体ベンチャーの集積する街にしたいとしており、「桂川シリコンバレー」実現に向けて、全力を挙げるという。

 こうしてみれば、関西デバイス関連のコアは今や京都であり、大阪ではないのかもしれない。しかして、熊本に新工場進出を決めたTSMCは何と大阪にデザインセンターを作ったのである。

 電子デバイス関連の製造装置という点でも、関西エリアの企業は存在感を持っている。半導体製造装置の分野で、東京エレクトロンに次ぐ国内2番手のポジションを占めるのは、京都のSCREENである。マスフロコントローラーという半導体装置部品において、断トツの世界トップシェアを持つ堀場製作所も京都に本社を置き、福知山や滋賀県大津にも量産および開発拠点を構えている。

 プリント基板の分野で断トツであったNOK(日本メクトロン)を抜いて、トップに立ったのが京セラなのだ。同社は、一方で半導体製造装置部品の分野でめきめきと頭角を現しており、鹿児島に新工場を建設するだけではなく、長崎県下に15万m²の新工場立地をするというからして驚きだ。リレーなどの一般電子部品の分野でひときわ光を放つのがオムロンであり、血圧計世界トップの同社は、MEMSセンサーというジャンルにおいても世界をリードしている。

 こうした電子デバイスおよび装置関連の世界において、関西エリアの存在感は徐々に高まってきている。必要なことは、ノーベル賞を多く輩出する京都大学、さらにはユニークな存在感を持つ大阪大学などとの産学連携をもっと進めれば、メタバース時代にふさわしい新たな開発の気運が生じてくるのだと思えてならない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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