電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第520回

「生き残ったレジェンド」にはとにかく価値があるのだ!


京写は片面板の世界トップ企業、九州工場の存在感

2023/2/24

 1986年に、初めて出版された注目すべき書籍がある。それが、『プリント配線板メーカー総覧』であり、主要250社の現況と計画をまとめた本として珍重され、今日に至るまで毎年、リニューアルされ版を重ねている。版元は電子デバイス産業新聞を発刊する産業タイムズ社である。

 筆者は、37年前のこの本の発刊には総力を挙げて取材し、編集した。そして、とにかく覚えていることは、日本のメーカーが非常に強い分野なのだということである。技術においても量産においても、プリント配線板分野で日本は先行していた。ニッポン半導体の上昇と伴走していたのである。そしてこの頃に、プリント配線板は両面板が非常に増えてきてはいたが、いまだに紙フェノールによる片面板が多かった。

 「もう国内で片面板を作っているようなメーカーはないだろう」とおっしゃる向きはかなり多い。それはとんでもない。京都府久御山町に本社を持つ京写は、片面板の分野で世界トップの生産能力(月産40万m²)を持っており、国内における生産拠点は九州工場(熊本県玉名市)が担っているのである。同工場を陣頭指揮で率いる船津修氏は、九州工場の概要について、こう述べるのである。

 「この工場は、敷地1万4000m²に延べ5000m²の建屋がある。月産8万m²の能力を持っている。小ロット多品種に強い。200tプレスを持ち、大型基板も得意にしている。0.5~2mmの板厚に対応できるが、これらの製造設備は『生き残ったレジェンド』とも言われている」

 筆者はこの九州工場を訪問し、工場視察もさせていただいた。産業文化財にしてもおかしくないというほどの古い設備がそこには多くあったのだ。37年前にひたすら取材をかけた片面板の設備が残っていることに、なぜか感動を覚えた。世の中がどんどん移り変わっているというのに、変わらないものがある、ということはすばらしいという感慨があった。

 江戸の俳句の革命者であった松尾芭蕉は、一番大切なことは「不易流行」と言っている。これはすなわち、流行するものはしっかりと取り入れていかなければならないが、決して変えてはいけないものを不易と言い切ったのだ。古いものと新しいもののクロスオーバーが革命を起こしていく、と芭蕉は考えた。これは、言い得て妙なのである。

 京写における九州工場の役割について、船津工場長はこう語っている。

 「やはり強みを持つ片面LEDをしっかりと生産維持していくことだ。九州においては、LED基板が37%、車載向けが26%、家電向けが17%、その他となっている。片面LEDというのは、いまだに根強い需要がある。車載においてはシートベルト、スイッチ、ライトなどで使われている」

 そしてまた、前工場長であった北本勝則氏(現顧問)は、感慨を込めてこうコメントしている。

 「京写の九州工場のよいところは、何と言っても信頼関係が全体的に共有されていることだと思う。これは作ろうと思って作れるものではない。歴代の工場長が築いていった財産である。そして古い設備を大切に扱う心もまた、重要だ」

 一方で、新しい分野への挑戦、という点について、船津工場長はこうも答えるのだ。

 「両面の片面化に取り組みたいと考えており、これを欲しがるユーザーの方は確実にいる。そしてまた、半導体製造装置関連や一般電子部品関連などで何か新たな製品展開ができないか、と考えている。人員体制は107人で動かしているが、このうち35人が女性である。今後は積極的に女性の管理職を作っていきたいと思っている」

(株)京写 九州工場長 船津修氏 (株)京写 西日本営業部 担当部長 坂本睦雄氏 (株)京写 顧問 北本勝則氏
(株)京写 九州工場長
 船津修氏
(株)京写 西日本営業部
 担当部長 坂本睦雄氏
(株)京写 顧問
 北本勝則氏

 一方、京写全体を見れば、自動車分野向けを中心に、両面板の需要増が続いており、今後も自動車の海外市場拡大、電装化の進展、電気自動車の普及などにより継続すると予想している。両面板強化を図るべく、2019年1月に、ベトナムに100%出資の製造子会社をスタートさせた。そしてまた、経営資源の集中と選択の差別化により、事業拡大を図るべく、大手プリント基板メーカーのメイコーと業務資本提携を結ぶことを決めた。相互に生産・販売で協力し、お互いの得意分野に注力することで、京写は伝統、技術を活かして「地に足のついた経営」を推進しているのである。

 京写にあって、西日本営業部担当部長であり、九州営業所長の任にもある坂本睦雄氏は、京写の中長期計画についてこう述べるのである。

 「26年3月期には、売上高300億円、営業利益16億円を目指している。このためにやるべき革新は、すべて実行する。しかして一方で、古くからある設備も大切にし、ユーザーの要求に応えていく。片面板の分野にも決して手を抜かない。これが京写の考え方である」



泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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