電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第17回

微細化だけじゃない!NAND事業成否の決め手はコントローラー


SSD向け内製化が今後の注目ポイント

2013/10/25

 少し前になってしまうが、2012年1月に米アップルがイスラエルにあるNANDフラッシュ用コントローラーICの設計・開発を行うアノビット(Anobit)社の買収を行った。アップルは近年、デバイス分野でのM&Aを積極的に行うことで知られており、スマホをはじめとするエレクトロニクス分野の将来トレンドを探るうえで業界内でも同社のM&A戦略は注目度が高い。さらに、そのおよそ半年後の12年6月には、韓国SKハイニックスがAnobitと同じNANDコントローラーICを手がけるリンク・ア・メディア・デバイセズ(LAMD)社の買収を発表した。

 このように、近年、NANDフラッシュを取り巻く業界環境はコントローラーICの重要性を意識した動きが活発化している。NAND業界の競争力は微細化などのプロセス技術が今も昔も大事だが、今後はそれと同等、もしくはそれ以上にコントローラー技術の優位性が事業の成否を左右する大きな決め手となりそうだ。

微細化・多値化進展で重要性増す

 なぜ、コントローラー技術が事業成否の決め手となるのか。それはメモリーセルの微細化や多値化が大きく関係する。現在、最先端プロセスでは1Xnmや1Ynm世代が適用されているが、基本的に微細化を行うと、電子のコントロールが難しくなり、セルの信頼性は低下していく(書き換え回数の減少)。しかし、微細化はNANDチップのコスト競争力向上、大容量化には絶対不可欠な技術のため、信頼性を犠牲にしてでも微細化競争には勝ち残っていかなければならない。

 さらに、多値化も信頼性低下に大きく影響する。多値化は1つのメモリーセル内により多くのビットを詰め込む技術で、微細化同様、コストダウンや大容量化に寄与する。もともとは、セル1個に1ビットの情報を記録するSLC(Single Level Cell)から始まり、その後、民生分野を中心に2ビット対応のMLC(Multi Level Cell)が普及。現在は3ビットを詰め込むTLC(Triple Level Cell)がメモリーカードを皮切りに採用が進んでおり、微細化と多値化の進展により、メモリーセル自体の信頼性低下は現在も進んでいる。

 こうしたセルの信頼性低下を製品レベル(メモリーカードやeMMCやSSD)で防ぐのがコントローラーICだ。不良ブロックの管理や書き換え回数の平準化(ウエアレべリング)、ECC(エラー訂正)機能などにより、NANDフラッシュを用いた製品では欠かせないデバイスとなっている。

 今後もコントローラーICの重要性は増していく。セルの信頼性低下に加え、チップ単体の大容量化に伴い、より高速の書き込みや読み出しに対応したコントローラーが求められているからだ。なかでも、今後はこの「高速化」がカギを握ると見られ、特に大容量が前提のSSDのインターフェースでは現行のSATAから今後はPCI Express(PCIe)への移行が進んでいく。現在はサーバーなどエンタープライズSSDでの採用がメーンだが、すでにクライアントSSD向けでもPCIe対応製品が出てきており、各社でのコントローラー開発が活発化してきている。

 また、コントローラー技術の確保はNANDフラッシュ各社の収益性向上にも好影響を及ぼす。NANDチップ単体ではなかなか収益を生み出しにくい状況下、付加価値が高いコントローラーを組み込んだかたちで顧客に提供できれば、収益拡大につながる。

内製拡大のNAND各社

こうした流れのなかで、NANDフラッシュ各社は現在、コントローラー開発の強化および内製化に力を入れている。コントローラーはNAND各社の内製品と外販メーカーが並存しており、市場によってその状況は大きく異なる(表)。



 SDカードなどメモリーカードはスマホ向けのeMMCやSSDに比べ、付加価値が低いことから、外販メーカーの比率がおよそ8~9割程度と見られる。同市場では台湾のコントローラーICメーカーが存在感を発揮しており、ファイソン(Phison)やシリコンモーション(Silicon Motion)がその筆頭格だ。ただし、サンディスクはメモリーカードにおいても、自社製コントローラーを多く組み込むスタイルを続けている。

 スマホやタブレットの組み込み用途として用いられるeMMCは、コントローラーに組み込まれるファームウエアを顧客の要求にあわせて設計する必要があるため、NAND各社の内製比率が高い市場だ。特に東芝とサンディスクは内製比率が高く、東芝は約80%、サンディスクに至ってはほぼ100%と推定される。一方、サムスンやSKハイニックスなどの韓国勢の内製比率は低い。ただし、今後はSKハイニックスがLAMDを買収したように、内製志向を強めていくであろう。

 今後の注目はSSDだ。SSDは先述のPCIeの採用など、NANDコントローラーにとって最も付加価値が高い。しかし、現状でNAND各社の内製比率はまだまだ低く、サンドフォース(SandForce)やマーベル・テクノロジーなど外販メーカーが幅を利かせている。しかし、今後のNAND市場の成長はSSDによるところが大きいのは明白で、ここでの収益拡大に向け、各社はコントローラーの開発を強化している段階だ。

SSD用コントローラーは現状外販メーカーの牙城
SSD用コントローラーは
現状外販メーカーの牙城

 微細化や3D化などプロセス技術に加えて、NAND各社の差別化要素として、より重要性を増すコントローラーIC。もちろん、プロセス技術で優位に立つことは重要だが、コントローラー技術を高めることができなければ、「技術で勝って、ビジネスで負ける」という日本の半導体産業が繰り返してきた負の歴史をNAND業界でも目の当たりにする懸念もある。NAND業界を見ていくには、今後はもしかしたらプロセス技術よりもコントローラー技術の優劣を見ていたほうが、より正確に競争環境を見抜くことができるかもしれない。



半導体産業新聞 編集部 記者 稲葉 雅巳
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