電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第18回

HDD新時代、10年ぶりに新技術が登場


超高密度化には半導体プロセスを超える技術が必要

2013/11/1

 HDD(ハードディスク装置)の次世代技術として、熱アシスト記録が注目されている。熱アシストとは、文字どおり、レーザーなどの熱エネルギーを利用して、HDDの記録密度を上げる技術である。現在主流の垂直磁気記録を補完する技術として、早ければ、2015年ごろの市場投入が見込まれている。

 はじめに、HDDとはどのような記録装置なのか説明しよう(今さら必要ないとは思うが)。簡単に言えば、HDDは電流により微小な磁石が反転する現象を利用して、1、0のデータを記録・再生する装置である。HDDの歴史は古く、IBMが1956年に発表した「RAMAC」が、その第1号と言われている。磁気ディスクの表面をヘッドが移動することで記録・再生する、という仕組みは現在のHDDと共通だが、「RAMAC」はとにかく大きかった。媒体のサイズは直径24インチ(約60cm)で、RAMACはこの媒体を50枚使用していたというから、その大きさは推して知るべし、である。一方、記録容量は2kビット/平方インチと、現在の水準で考えれば絶望的とも言える少なさである。しかし、今日のIT社会を支える基幹技術の第一歩として、その功績は永遠に人類の記憶にどとまることだろう。

 誕生から半世紀以上経過したHDDだが、基本的な記録・再生メカニズムはそれほど変わっていない。変わったのは、言うまでもなく記録密度(容量)とサイズである。初期のHDDはとても持ち運べる大きさではなかったが、今ではポケットに入るほど小型・軽量化が進んでおり、記録容量も爆発的に増加している。


 ちなみに、初期のHDD用媒体(磁性材を形成した円板)はアルミニウム基板に磁性材料を塗布成膜したもので、記録層の膜厚も10μm以上と厚かった。その後、1980年代後半には媒体は10.8インチ(27.4cm)までサイズダウンし、80年代後半から90年代にかけて登場したスパッタ成膜技術(CoCrPt材料)により、膜厚は60nmまで薄膜化した。90年代以降、媒体の小型化が一気に加速し、95年には、現在のサーバー用と同じ3.5インチ媒体がリリースされた。また、91年にはガラス媒体の量産も始まった。

 そして、90年代末には、HDD業界において、エポックメイキングな製品が登場した。IBMが開発した1インチの超小型HDD「Microdrive」である。「RAMAC」の登場から40年の時を経て、IBMはついに、手の中に入るほどの小型化を実現した。ところが、IBMはその後、HDD事業を日立製作所に売却し、同事業から撤退してしまう。すでにソリッドステートの躍進を予見していたわけでもないだろうが…。一方の日立は、後々までHDD事業の収益で苦労するなど、結果的には随分と高い買い物をしたことになる。

 05年には、東芝が1インチよりさらに小径の0.85インチHDDを発売するなど、HDDの小型化はさらに加速する。1インチや0.85インチといった小型HDDの用途として期待されたのが携帯音楽プレーヤーである。実際、「Microdrive」はAppleの携帯音楽プレーヤー「iPod」に採用され、0.85インチHDDも携帯電話に搭載された。しかし、大容量&低コスト化が急速に進んだNANDフラッシュの前に、小型HDDは瞬く間に市場から駆逐されることになる。そして、今では、HDD全体がNANDフラッシュとの厳しい競争に晒されている。

 ところで、HDDを製造販売するメーカーは現在何社あるだろうか。80年代には100社以上あったと言われるHDDメーカーだが、その後、事業撤退、M&Aを経て、90年には40社、00年には10社となり、現在は、Western Digital、Seagateの米国勢2社と東芝の合計3社が残るのみである。東芝は09年に富士通のHDD事業を買収し、Seagateも11年12月に韓国サムスン電子のHDD部門を買収した。Western Digitalは12年3月に日立製作所の子会社のHGSTを買収し、子会社化している。淘汰が進むところまで進んだHDD業界は今、しばし共存共栄の時代を迎えている。


Seagate、TDKが動作を実証

 改めて、HDDの高密度化の話に戻ろう。急速に高容量化と低コスト化が進むNANDフラッシュだが、ビット単価で見れば、依然としてHDDの優位性は変わらない。実際、米Seagateは、TB(テラバイト)コストでは、HDDの120ドルに対し、SSDは1900ドルになるという試算(IDEMA主催のDISKCON JAPAN2012で発表)を示している。いずれにしても、HDDが生き残るには、とにもかくにも記録容量(記録密度)を上げていくしかないが、HDDの記録密度は、00年代半ばに登場した垂直磁気記録により大きく伸びた。

 垂直磁気記録が登場するまでのHDDは、記録層の磁石の向き(磁極)を面内方向に変える「面内(長手)記録」という方法が使われていた。50年代から90年代までは記録密度の伸びは年率30%のペースだったが、90年代以降は、ヘッド、メディア、信号処理などの進化で年率100%という急速なスピードで記録密度を伸ばしていった。ところが、03年ごろには年率30%まで低下するなど、面内記録の限界が見え始めた。ちなみに、この時の記録密度はおおむね100Gビット/平方インチと言われている。

 HDDの記録密度を上げるには、記録層を構成する磁石の大きさを小さくすればいい。ところが、100Gビット/平方インチの記録密度の場合、磁石の粒径はわずか十数nmである。さらに記録密度を上げるには、この粒径を10nm以下にする必要があるが、その際、減磁界(磁石内の磁力を減少させる働き)や熱揺らぎ(磁化エネルギーが熱エネルギーに負けて記録が消える現象)といった問題が顕著になり、磁石の状態が極めて不安定になる。こうした技術課題を克服する切り札として登場したのが、磁極を深さ(垂直)方向に変える垂直磁気記録である。垂直磁気記録は、1977年に東北大学電気通信研究所の岩崎俊一博士が世界で初めて提唱した、日本の独創技術である。

 とは言うものの、垂直磁気記録の実用化には、発表から30年近い歳月を要することになる。垂直に磁界が出せるヘッド、ヘッド主磁極の微細化、高い保磁力(HC)のメディア、高い飽和磁束密度(BS)が出せるヘッド材料、軟磁性裏打ち層の安定化と低コスト成膜プロセス、といった多くの技術課題があったからだ。しかし、HDD業界の優秀なエンジニア達は見事に課題を克服し、2004年末、東芝が世界に先駆け、垂直磁気記録方式を採用した1.8インチHDDの商品化を発表した。この時の記録密度は133Gビット/平方インチだった。

 それから10年。今や垂直磁気記録は当たり前の技術となり、記録密度も600~700Gビット/平方インチまで向上している。もっとも、この垂直磁気記録でさえ、1Tビット/平方インチが記録密度の限界と囁かれている。記録密度を高めるには、さらなる磁石の微細化が必要で、そのためには磁性層に高い保磁力を持つ材料が必要になるが、一方で、保磁力が高くなると磁性層への書き込みが難しくなる。そこで注目されているのが熱アシスト記録方式である。熱アシスト記録とは、信号記録時にレーザーを磁性媒体に照射して局所加熱(300~400℃)することで、磁性層の保磁力(HC)を瞬間的に小さくし、強い磁性材料への書き込みを容易にする技術のことである。現在の垂直磁気記録の技術を踏襲しつつ、さらなる高密度化を実現することができる。


 すでに、Seagateは熱アシスト記録で1TB/平方インチの記録密度を実現済みとしており、将来的には60TBの容量のHDDが可能になると予測している。HDD用ヘッドを開発するTDKも13年10月に千葉・幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2013の会場において、熱アシスト技術を公開した。これまでは、記録ヘッド単体の動作は確認していたが、今回はHDDを作製し、実際に記録・再生できることを実証した。

TDKによる熱アシスト記録のデモ風景(CEATEC2013会場)
TDKによる熱アシスト記録のデモ風景(CEATEC2013会場)
 TDKでは、レーザーの開口部のサイズや形状を工夫し、近接場光という幅50nm程度の微細スポットを作ることで、高密度記録を実現している。現在のHDD(2.5インチ)は、5枚のプラッター(磁性媒体)と10個のヘッドの組み合わせで4TBの記録容量を誇るが、熱アシスト記録では、7枚プラッターと14個のヘッドの組み合わせで15TBの記憶容量が確保できるという。デモでは、2つのHDDを用意し、片方のHDDから別のHDDに熱アシスト記録で動画データを転送・記録し、再生できることを実証。300MB程度のデータを10秒以内で書き込むことができた。熱アシスト記録の実用化は15年を予定しているが、TDKでは、20年には1台のHDDで40TBの記録容量を狙うとしている。

 ところで、この熱アシスト記録にも、いつかは記録密度の限界がやってくる。今のところ、10Tビット/平方インチを超える技術として期待されているのがビットパターンメディアである。ビットパターンメディアは、1つの磁性結晶粒が1つのビットを構成するため、これまでのグラニュラ媒体を大幅に上回る記録密度が可能と言われている。ただ、そのためには数nmサイズのドットを均一に作製する技術、いわば、半導体プロセスを超える技術の確立が不可欠である。実現には、まだ多くの課題を解決する必要がありそうだ。


(半導体産業新聞 編集部 記者 松永新吾)

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