電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第550回

北九州半導体ネットワークは50社以上に拡大し、企業誘致に全力投球


メキシケム、メックなどの進出を呼び込み、積極攻勢をかけていく

2023/9/29

 北九州市役所の入口を入ると、右手に世界文化遺産の官営八幡製鐵所のモニュメントが目に飛び込んでくる。1901年に創業を開始した官営八幡製鐵所は日本の産業の近代化に貢献し、産業都市・北九州市の発展の基礎を築いたのだ。その創業期の4つの建物は今も残っており、2015年に世界遺産に登録されたのである。

 北九州市は小倉、八幡、戸畑、若松、門司の5市が合併されてできた街である。もちろん、鉄鋼の町として未曾有の繁栄を築いた。そしてまた、石炭の時代が訪れるとこれをベースにした多くの産業が街を支えていったのである。その北九州市がここにきて、未来産業の創出に全力を挙げている。

 台湾やシリコンバレーとの交流を進め、産学連携プロジェクトを推進し、カーボンニュートラル学研都市をベースに先端機能の誘致に全力投球しているのである。

 九州シリコンアイランドといわれて久しいが、北九州市エリアにも約100社の半導体関連企業が集積していることを意外と知らない人が多い。半導体封止材で世界トップシェアを持つ住友ベークライト、ICリードフレームのチャンピオンである三井ハイテック、フォトレジストなど半導体材料に強い化学大手の三菱ケミカルなど錚々たる半導体材料関連企業が集積していることは注目に値するだろう。ウォシュレットで有名なTOTOもまたボンディングキャピラリー、各種精密セラミックスなどを扱っている。

 もちろん、半導体デバイス本体の集積もある。いまや国内半導体ランキングで第4位に位置するロームは行橋市にローム・アポロという半導体素子の工場を稼働させている。東芝グループの豊前東芝エレクトロニクスは光半導体の組立・検査を行っている。九州セミコンダクターは小倉にあって、ウエハー・MEMS加工、チップの製造、半導体外観検査などを手がけている。

 機械関連では、世界トップクラスのロボットメーカーである安川電機が八幡にあるが、半導体製造装置向けロボットなどを手がけており、宮若の日本ファインテックは高速搬送装置、製造装置などを生産している。

 こうした集積の強みを活かし、北九州半導体ネットワークを立ち上げており、さらなる研究開発の推進と半導体関連企業の誘致を着々と進めているのである。このネットワークにはすでに500社が集積し、北九州学研都市には半導体向けクリーンルームが稼働しており、約40人の研究者が働いている。

 最近になっては、大手商社の双日とメキシケムフローおよびその日本法人であるメキシケムジャパンの3社が共同して、北九州若松区に大型プラントを建設することを決めたのだ。このプラントは23年度に着工し、25年度に完成する計画であり、半導体を製造する工程でのエッチングや洗浄に使われるフッ素化合物を量産するものである。また、この化合物は次世代電池の電解質や極材のバインダーに不可欠な素材として今後、需要増加が期待されている。

 半導体パッケージ基板の需要増加に対応し、メック(兵庫県尼崎市)もまた若松区に新たな拠点を建設することを決定した。同社は、半導体の製造工程に必要な銅表面処理薬品を手がけており、世界シェアをほぼ独占しているという優良メーカーなのである。同社の前田和夫社長は、北九州市を選んだ理由を次のように述べている。

 「物流拠点としての北九州は素晴らしいといえるだろう。台湾、韓国をはじめとするアジア、さらには弊社の拠点がある新潟ともうまくつながっている。災害が少ないことも有難い。そして何よりも、北九州市のスタッフが情熱をもってわが社を招いてくれたことに大きなインパクトを受けた」

北九州市産業経済局長の池永紳也氏
北九州市産業経済局長の池永紳也氏
 北九州市にあって産業経済局長の任にある池永紳也氏は「北九州市の地政学的な利点と多くの素材型企業の集積、さらには北九州半導体ネットワークの充実などをコアにして今後も企業誘致に全力を挙げていく」と高らかに宣言しているのである。ちなみに、こうした動きの中で米国不動産投資・開発の大手であるAPLは1250億円を投資して、北九州学術研究都市に超大型のデータセンター建設を決めたのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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