電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第32回

韓国の対日貿易赤字253億ドル


赤字額の大半は半導体製造装置

2014/2/14

半導体輸出額は全体の10%強

 2013年上半期(1~6月期)の韓国貿易収支は、輸出額が2770億ドルであるのに対し、輸入額は2571億ドルで、199億ドルの貿易黒字を計上している。なかでも半導体は101.5億ドルの黒字を達成。黒字全体の51%を占め、半導体が韓国経済の「輸出親孝行産業」であるという位置づけを改めて立証した。

 とりわけ、13年通年の総輸出額5596億ドルのうち、半導体輸出規模は577億ドルとなり、全体の10%強を占めた(図1参照)。1983年2月に当時のサムスングループ会長である故李秉喆(イ・ビョンチョル)氏が東京で半導体事業に踏み切ることを宣言し、韓国半導体産業が産声を上げた。以降、サムスン電子は93年からDRAM市場を皮切りに、メモリーやSRAM、NANDフラッシュメモリー市場で次々と業界トップに浮上し、メモリー半導体トップの座を堅持している。


 しかし、世界の半導体市場の80%強を占めるのがノンメモリー半導体だ。韓国のそれは全体市場の約6.1%と低水準だ。また、半導体製造装置の国産化率も21%と低く、コア装置の大半を日本からの輸入に依存している。さらに、スマートフォン(スマホ)に次ぐ次世代アプリケーションの不在や中国勢の脅威などが、韓国半導体産業が抱えている課題だ。

 長きにわたる半導体産業の歴史において、DRAMの主導権は、米国から始まり、日本、韓国へと変遷する。1947年に米ベル研究所からトランジスタが世に出て以来、今年で67年目を迎える。70年代にはインテルやTI、モトローラなど、米国勢の独壇場であった。80年代のDRAMは日本勢が市場を席巻した。

 しかし、90年代中盤からは韓国にDRAMの覇権が移る。サムスン電子が世界トップに浮上し、99年には韓国政府のビッグディール政策によって、LG電子と現代電子が合併した結果、ハイニックス(12年2月からSKハイニックスに社名変更)が誕生する。主力製品は依然としてメモリー半導体であることから、韓国半導体業界が今後も現在の地位をキープできるかは未知数だ。最大のボトルネックは、モバイル市場の成長が限界に達したこと。実際、半導体業界では13年下期からはスマホ市場も飽和状態に達したとみている。

2020年に非メモリーシェア10%目指す
メモリー市場で圧倒的な地位を見せる韓国半導体産業の課題は非メモリー事業の育成
メモリー市場で圧倒的な地位を見せる韓国半導体産業の課題は非メモリー事業の育成

 スマホの登場で韓国半導体業界は、「非メモリー半導体育成」という壁を乗り越えなければ、さらなる成長は実現できないと判断している。非メモリーを多く採用するモバイル機器市場は、向こう2~3年内にデータのトラフィック量が、現在の十数倍に増える見通しだ。

 しかし、韓国の非メモリー事業に対する前途は、必ずしも明るいとは言いがたい。サムスン電子の最大取引先である米アップルは、アプリケーションプロセッサー(AP)の生産委託先を14年から台湾TSMCに切り替えているからだ。ただ、アップルとTSMCの取引量は「一定水準にとどまる」という見方もあるが、予断を許さない。

 韓国の非メモリー産業は、サムスン電子抜きには語れないのが実情だ。SKハイニックスの場合、戦略的に非メモリー事業への参入を検討しているものの、本格的な取り組みにはかなり時間がかかりそうだ。韓国政府は、このようなメモリー偏重の産業構造を是正するために、非メモリーと装置産業を積極的に育成すべく基本政策を樹立し、具体的な実行計画を推進している。

 非メモリーは、韓国産業通商資源省が「知識経済のR&D戦略企画団」と共同で推進する未来産業先行技術開発を通じて主要技術を開発する計画であり、11~15年までの5カ年で、毎年150億ウォン(約15億円)が投入されている。

 また、パワーマネジメントIC(PMIC)などの電力用半導体は、同省が最も重点的に支援する分野である。電気自動車や再生可能エネルギー、大容量エネルギー貯蔵装置など、多様な分野に活用できる電力用半導体は、市場規模が急成長しているにもかかわらず、その間、国家レベルでの支援政策がなかった。このような半導体産業の育成策を通じて、韓国政府は、15年に210億ドルの非メモリー生産額を20年には390億ドルにまで増やす考えだ。また、世界シェアは15年の7.5%から20年には10%へ拡大を目指す。

韓国スマホには日本製装置が大活躍

 韓国半導体産業における第2の課題は、半導体製造装置の国産化率向上であろう。13年の韓国半導体装置の国産化率は21%だが、前工程に採用するコア装置はわずかだ。大半は日本の東京エレクトロンやニコンなどが手がけたものを輸入している。つまりは、韓国のメモリー半導体や、これを搭載したスマホには、日本製の装置が大活躍しているわけだ。
これは日韓貿易収支にも良く表れている(図2参照)。日本の対韓貿易黒字額は、12年と13年はそれぞれ255億ドルと253億ドルで推移している。このうち、コア装置・材料の割合は80%強と試算されている。

 韓国側から見ると、日本は韓国から大規模な貿易黒字を謳歌する国であり、これが韓国歴代政権の日本バッシングの理由のひとつとなっている。だが、日韓両国の政治家たちが見過ごしている事実は、日韓半導体企業はお互いにWin-Winの関係であり、半導体やスマホなどといったものを世界中に出し続けていることだ。


 韓国政府は過去十数年間、日本製品への依存度を是正するために、コア装置の国産化率アップを叫んだ。しかし、いまだ突出した成果は見出せていない。前工程向けコア装置の場合、短期で世界に通用する先端装置を作り出すのは、そう簡単ではないからだ。韓国経済はこの40年間、表面的な成長戦略に徹底した結果、コア技術開発などといった「裏面」は軽視してきた経緯がある。

 とりわけ、ここ最近の円安・ウォン高は、日本製品の価格競争力を高めているほか、韓国市場における品質でもずば抜けて優位性を発揮している。円・ウォンの相場は、ここ1年で36.2%も円安に振れた。これによって、韓国の半導体装置メーカーはもちろん、装置開発に踏み切った外国系企業は、日系企業の品質や価格攻勢に戦々恐々だ。

 日系メーカーは今後、韓国における生産基地の増設や営業力の強化などを通じて、さらなるシェア拡大を狙っている。買い手となってきた韓国大手企業も、1年半前はコア装置の輸入先を日本以外の国に多様化する方針も見せたが、円安・ウォン高でここへ来て日本製を一層積極的に取り入れている。日韓半導体産業の緊密さは、ギクシャクした日韓関係を緩和できる可能性を持っているとも言えるだろう。

半導体産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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