電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第651回

シリコン列島ニッポンにまたも大型工場建設の動きが具体化してきたのだ!


マイクロンは1.5兆円で広島に新工場、TSMCは2.1兆円で熊本第2工場着工

2025/12/12

 半導体メーカー大手の一角であるマイクロンテクノロジーと言えば、ポテトチップスを思い出すのである。同社の本社はアイダホ州ボイジに置かれており、ポテトの名産地だからである。ちなみに、筆者は湖池屋のうすしおタイプのポテトチップスが大好きなのだ。ビールのつまみによく合うからである。

 それはともかく、マイクロンの設備投資はここにきて加速している。米国においては、半導体製造および研究開発に総額2000億ドルの巨額を投じる長期投資計画をアナウンスしている。これは、トランプ大統領のアメリカファーストという政策に呼応するものであり、CHIPS法の助成金も受ける予定になっている。

 そしてまた、日本国内においても大きな動きが出てきた。広島工場内に1兆5000億円を投じて、新たな製造棟を建設することになったのだ。もちろん、ここで生産するのはAI向けの高帯域メモリー(HBM)である。

 この新工場は2026年5月に着工し、28年ごろに出荷を開始する予定だ。経済産業省は最大5000億円を補助することを決めている。この背景にはDELLやHPなどの複数のテクノロジー企業が巨大投資でデータセンターを次々と建設することがあるのだ。そのデータセンターに使われるAIサーバーの中にどうしても必要なのがHBMなのである。

マイクロンの広島工場でも新棟の計画が浮上
マイクロンの広島工場でも新棟の計画が浮上
 最も広島新工場ではHBMのほかにも、パソコン向けのDRAMなども製造する可能性もあるようだ。AIブームは、マイクロンにとってものすごい勢いの追い風となっていることがこれで分かるのである。
 一方、熊本県菊陽町においては台湾TSMCの熊本第2工場の建設が始まった。2兆1000億円を投じる巨大工場がようやくにして動きはじめたのである。ここにきて半導体市況は必ずしも良くないが、26年後半からの一気回復を予想しての着工となるようだ。ただ、トランプ氏の関税政策はいまだ止まっていないため、TSMC熊本第2には不利な風も吹いている。

 九州半導体・デジタルイノベーション協議会の会長である山口宜洋氏(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング代表取締役社長)は常々、「新生」シリコンアイランド九州の推進をコメントしているが、このTSMC熊本第2の着工で勢いづくことは間違いないだろう。これに連動するかたちで、東芝・ロームの連合軍が建設する宮崎新工場の稼働も見えてきている。「新生」シリコンアイランド九州はいよいよ第2幕に入ったと言えるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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