電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第350回

国内初の30兆円企業トヨタのハイブリッド時代がやってくる


~中国政府のエコカー政策転換で日本企業に超強い追い風~

2019/9/13

 2019年の7月中旬に至って、中国政府はEV(電気自動車)の一気普及と言い続けていた政策を、急カーブを切ってHV(ハイブリッド車)優遇へと向かうことを明らかにした。これまで中国はHVをガソリン車と同等の低燃費車とみなしてきたが、ここに来てこれを転換するのにはわけがある。

 世界すべてを走っている自動車は12億7000万台はあると思われるが、もしこれをすべてEVに変えれば原発数十基が必要であり、石炭や石油の火力発電所に至っては100カ所以上を作らなければならない。何のことはない。EV自体はCO2を出さないが、EVが電気を作ってくれるわけではない。これに必要な電力は、新たに手当てしなければならない。石炭や火力であれば、CO2出しまくりであり、全然エコではない。そしてこの情勢下で、どんどん原発を作れるとはとても思えない。

 また一方で、EVを150万~250万円くらいの大衆普及車に持ってくることは、ほとんど不可能という状況がある。バッテリーコストがとんでもなく圧迫するからだ。

 確かに、テスラのように1000万円を超える車であれば、どれだけ高いリチウムイオン電池を積み込んでも特に問題はないだろう。しかして、一般車レベルでリチウムイオン電池を多く積み込めば、どうにもならない。ハイブリッド車においても、エンジンコストよりはるかにバッテリーコストが高いのであるからして、EVをエコカーの主役にするのは現実問題として難しい。

 そこで中国政府は、こうした状況を勘案し、EVやFCV(燃料電池車)に加えてHVをエコカーに認定し、実際的な環境対策強化に動くというわけなのだ。こうなれば、トヨタ、日産、ホンダをはじめとする日本企業にはすばらしく有利な展開になってくる。とりわけ、トヨタには凄まじい追い風が吹いてくると見てよいだろう。

 いまや日本を代表する30兆円企業となったトヨタは、環境車の分野において世界に最先行している。電動車の先駆けとなるプリウスは1997年に早くも市場投入され、ハイブリッド車の累計販売台数は1300万台を突破し、ぶっちぎりの実績を持つ。ところで、欧州委員会の規制は走行1kmあたりのCO2排出量を60gレベルに落とすべきとの方向性であるが、ハイブリッドの最高レベルのプリウスですら70gが精一杯なのだ。

 しかして、バッテリーEVの電池容量は40kWhであり、なんとプリウスの0.75kWhに対して50倍の容量。電池コストはハイブリッド車の場合においてもエンジンコストを大きく上回り、将来の電池コスト低減を考慮しても超サプライズのコストがかかる。補助金なしでリーズナブルな価格で買えるEVをここ7~8年の間に実現できるとはとても思えない。

 こうなれば、ハイブリッドを得意とするトヨタの時代になるのだ。ひたすらEVと絶叫していた中国政府は、ここにきてハイブリッド車を優遇する検討を始めたからだ。ガソリン車と同等としてきたハイブリッド車を低燃費車とみなし、普及支援に転じる。今回出された修正案では水素を燃料に使う燃料電池車の普及も目指すといっており、大きく方向転換したと言えるだろう。

 2018年のハイブリッド車の世界生産台数は229万台であり、トヨタとホンダのハイブリッド販売台数は計200万台超で、日本勢2社が断然の強みを持っている。また、日産のノートeパワーは実質的にはマイルドなハイブリッド車であると言える。

 こうした動きの中で、ドイツのダイムラー、フォルクスワーゲンなどは本格的にハイブリッド車に参入することを表明した。マイルドハイブリッドといわれるものであり、現行モデルに比べ燃費は8%改善。トヨタはハイブリッドの特許を全面的に無償で公開しており、ハイブリッド時代の先陣を切るべく全力を挙げている。

 なお、トヨタにおいてハイブリッド開発のトップを務めてきた安部常務は、デンソーのインバーター技術とアイシンのトランスミッション技術を融合させてハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVの世界的普及に役立つ開発会社であるBluE Nexusを立ち上げたが、この動きにも注目する必要がある。

トヨタのプリウス/プラグインハイブリッド版が世界のエコカーの先頭に踊り出る!!
トヨタのプリウス/プラグインハイブリッド版が
世界のエコカーの先頭に踊り出る!!
 トヨタによれば、プラグインハイブリッド版のプリウスであれば、走行1kmあたりのCO2排出量を楽々60g以下に落とすことができるという。こうしたことを反映すれば、プラグインハイブリッド車市場はこれから10年の間に1000万台以上になることは間違いないと言ってよいだろう。

 そしてまた、プリウスのプラグインハイブリッド版が世界のデファクトスタンダードを獲っていく可能性も十分に出てきた。これを反映して、CATLやBYDなどの中国の蓄電池メーカーは続々と日本に参入を決めている。半導体に次ぐ電子デバイスとして車載向け蓄電池が中国勢の大きなターゲットになってきたからであり、そしてまた、トヨタやホンダなど日本車が市場や技術をリードするから、と見ているに違いない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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