商業施設新聞
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第222回

(株)上昇気流 代表取締役社長 笹田隆氏


人を活かす手法で繁盛店に
“路地裏から世界を沸かす”

2020/3/17

(株)上昇気流 代表取締役社長 笹田隆氏
 若い人の熱い想いや情熱、アイデアはおもしろい店やユニークなメニューを生み出すことが少なくないが、事業資金やノウハウがない―。こうした想いをサポートし、形にするのが(株)上昇気流(東京都渋谷区桜丘町)だ。「路地裏から世界を沸かそう」をビジョンに飲食店の開業を支援する同社の取り組みについて、代表取締役社長の笹田隆氏に聞いた。

―― 貴社の概要から。
 笹田 2004年の設立で、「路地裏から世界を沸かそう」が我々のミッション。個性に溢れ、独立したい若者は多く、それをサポートする。

―― そのスキームは。
 笹田 当社と出店希望者がシステム加盟契約し、独立した経営者として当社と一緒に店を作り上げていく。物件取得や内装設備工事など開店に必要なハード面に関する契約は当社が行い、出店希望者は毎月定額料金を当社に支払う仕組み。初期費用をはじめ様々なサポートをパッケージ化している。事業計画書の作成から物件紹介まで開業支援や、オープン後も様々な相談にも応じている。

―― 「路地裏から世界を沸かそう」の意図は。
 笹田 路地裏は賃料が安いし、人を活かすのは実は路地裏。通行量がゼロならわざわざ来てもらうしかなく、店に足を運んでもらうためにはその人が持つエネルギーや個性、魅力が不可欠だ。人を輝かせ商売を繁盛させて、お客さんに「こんな所にこんな店がある」と思わせる。

―― 開業までのプロセスは。
 笹田 料理は作れるけれど、開業の方法がわからない―。この“開業”と“料理”には距離があるので、その距離を埋めていく。「人」「想い」「持続性」の3つがあればお金は少々なくても相当のお手伝いはできる。
 そして物件や立地を見抜く力が求められる。いくつかのスキル(ナレッジ)が我々にはある。路地裏の立地を判断するのは難しく、「目利き」と「勘」「経験」に頼るが、これを数値化した立地診断システムがある。
 当社が手がけた1号店は東京・青山の紀ノ国屋の裏で、当時は誰も歩いていない場所にあったビルの3階。15年経ったが、今でも満席で入れないほどだ。

―― 独立したい人の立地と業態のマッチングは。
 笹田 それが一番重要で、客単価1000円なのか、4000円なのか。土日は営業するのか、家賃と業態のマッチングは―。大きい店になると全体を見られないが、路地裏の小さい場所なら目が行き届き細かい配慮ができる。何に強いのか。料理なのか、人間性やコミュニケーション力は、人を使えるのかどうか。それによって坪数、業態が決まる。

―― 事業化の可能性をどう導き出しますか。
 笹田 当社は独自のシミュレーションシステムを活用している。この物件で、投資した時の損益が出る仕組みだ。席数に対してどの程度の回転数なら採算が合うか。粗利や、それに対するレイバーコストは。席数を取れない立地でこの物件はやるべきではないなど、その人がイメージする業態と物件が合うのかどうか。精査していくと、3割ほどが合わない点が見えてくる。それでも開店すると、“流行ってはいるが儲からない”など、失敗することもある。長く続けようと思っているので、儲かる仕組みを作りたい。
 私は常々こう言っている。「そこから先はあなたの出番。役者はあなたで主役を張れますか」。上昇気流はまさにその舞台装置を作っている。

―― 何をもって成功なのでしょうか。
 笹田 最初から売れる店もあるが、ずっと続けられることが成功だと思う。当社が手がける物件は開業時は底だが、そこから上がってくる。お客さんは最初ゼロでも、独特の雰囲気が良さそうと入ってくださり、次の日に3人連れてきたりと、最初来てくれたお客さんにきちんとサービスを施すと、それがファンになり、輪になっていく。

―― 支援実績は。
 笹田 164店。1年10店のペースだ。東京がほとんどで、渋谷を中心に六本木、三軒茶屋が多い。

―― 業態の種類は。
 笹田 居酒屋系が比較的多い。イタリアンも増えている。ただ、イタリアンやフレンチで生き残るには相当強くないと難しい。つまり食べる頻度が違う。居酒屋は1週間のうち5日来ることもある。

―― 店づくりは。
同社が開業支援した「ずぶ六」の店内
同社が開業支援した「ずぶ六」の店内
 笹田 内装や照明、カラーコーディネートなど店舗デザインが重要だ。当社が使っているデザイナーは良いデザインが多い。19年10月に六本木で開業した「おでん屋 ずぶ六」はデザインの“くずし方”がはまっており、カウンターの高さも絶妙で、良い雰囲気を出している。

―― ほかに手がけていることは。
 笹田 後継者不在で、長年続けてきた店が閉店を迫られるケースが増えている。当社の「バトンシステム」は、店舗やその店のメニューも含めて有形無形の資産を「営業権」として後継者に橋渡しする事業である。当社の本社がある渋谷で、創業50年の老舗ラーメン店が再開発で退店の危機を迎えていたが、このシステムで継続できた。地域のファンもいる。やはり店は永く愛され続けていくことが大事だと思う。

(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2333号(2020年2月18日)(9面)

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