電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第29回

半導体産業はあまりにも早く発展しすぎてしまった!!


~「ゆっくりと」のカルチャーは、実は勝利者への道~

2013/3/29

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 花粉症の季節である。コップにいっぱいとなった水が、もはやその表面張力でも支えきれずこぼれてしまうように、花粉への抵抗力がなくなれば、どんな人でもその症状が出始めるのだ。いっぱいになってしまえば溢れる、とは今日の半導体産業を指していう言葉かもしれない。

 調べものがあって、10年前に執筆した著書をひっくり返していたら、パソコン市場の記述があり、そのあまりの進展の早さに改めて驚かされてしまった。今から10年前の2003年の時点においては、パソコンの全出荷台数はまだ1億3000万台であった。ところが、その5年後の2008年のリーマンショック時には3億台を突破し、2010年にはほぼ4億台まで膨れ上がったのだ。

 いうまでもなく、半導体アプリの出口としては、パソコンはいまだに最大の存在であり、全アプリの30%以上を占めている。多分、90年代にあっては40%以上がパソコンという状況であったと記憶している。
 2000年のITバブル崩壊から2008年ごろまで、半導体産業は3~4年ごとに繰り返す好不況の波、すなわちシリコンサイクルが消滅したといわれたことがあった。しかし思い返してみれば、何のことはない、パソコンが爆発的に伸び続けた数年間は、半導体のシリコンサイクル消滅の時期と重ね合わさっていただけなのだ。

 パソコンはやはり、半導体テクノロジーの進展を大きく支えたアプリであった。今やナノレベルの下のほうに突入した微細回路線幅、200ミリから300ミリ、そしていよいよ450ミリというウエハー大口径化などは巨大な開発投資、設備投資を呼び込み、半導体産業の高成長につながっていた。
 しかし、それも最終出口であるパソコン成長の原動力があったからこそできたことなのだ。パソコンは2011年~2012年にかけて11年ぶりというマイナス成長に転落し、今後も高い伸びが期待できないという。しかして、それは当たり前のことであり、パソコンを購入できる購買力人口は二十数億人であり、今やほとんど行き渡ってしまった以上、買い替え需要を中心とするマーケットになってしまったからだ。

半導体産業の高成長を支えたパソコンはトーンダウン
半導体産業の高成長を支えた
パソコンはトーンダウン
 さよう、まことにパソコンはあまりにも早く技術が進展し、量産効果によるコストダウンともあいまって一気に、またたく間に、すなわちほんの数年間で3倍に膨れ上がり成長を止めてしまった。これに連動する半導体産業もまた20兆~25兆円の間をうろうろするばかりで、あのカリスマ成長力は失われてしまった。
 もし、パソコンの市場拡大がもっとゆっくりなら、すなわちプライスを下げる技術進化がもっとゆっくりであったのならば、今日のような急失速による多くの悲劇(会社倒産、事務所閉鎖・統合、大量の人員整理、大幅な賃金引き下げ)は起こらなかったのではないかと思えてならない。ほんの十数年前は、パソコンの平均単価は20万円以上だったのに、今や最先端品でも5万~6万円で買える。これでは儲からない。そしてまた、半導体などの部材メーカーは、さらにもっと儲からない。

 「ゆっくりと」というカルチャーが意外と勝利者になっているケースは多い。例えば、最近では少しトーンダウンしたが、京都のロームというカンパニーはニッポン半導体が苦戦しているときにも必ず多くの利益を上げることで知られていた。創業者の佐藤研一郎氏の思想は、「ゆっくりでもよい。決して止まらないラインを作れ」というもので、これが成功の影にあった。台湾のTSMCもこの思想を大切にしており、スピードを落としてでも絶対に止まらないファブの創成・維持が絶対の信条となっている。「ウサギとカメ」の例えがそのまま当てはまるケースなのだ。

 最先端ラインを構築し、新鋭の機械を揃えてもバカっ早いラインは必ず不具合で止まる。止まってしまった場合の時間・労力のロスは大変なものになる。しかして、ゆっくりと走らせてはいるが、常に安定しているラインは結果的に歩留りは高く、トータルスピードはやはり早いのだ。

 「あんなに熱愛だったのに、なぜ、すぐに別れてしまったんだろう!!」
 激しすぎるくらいに愛し合い、一瞬にして燃え上がり、テンションだけでくっついてしまった恋人たちの悲劇を目撃する人も多いだろう。あまりにも早く、強く愛し合った人には別れも早く来る、とはよくあることであり、かつてのサントリーウィスキーのCMにおける大原麗子(美しかったが、今は故人、ああ!)の有名なキャッチコピー「すこし愛して、ながーく愛して」を、噛みしめる必要があるだろう。

 勢いづいて急上昇した熱愛がはじけてしまうように、半導体産業もあまりに早すぎた成長のツケを今、払っているのだ。しかして、出口はどこにあるのか。脱パソコンへの道を探る以外にはなく、早く新アプリを開拓しなければ手遅れ、とだけいっておこう。ケータイ、液晶TV、スマホでは巨大なパソコンの代替はできませんぜ、とも付け加えておこう。
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