電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第416回

コロナ爆裂的拡大の中で半導体の奪い合いが始まる


自動車、ゲーム機などの分野で生産懸念が表面化

2021/1/15

東京の下町の盛り場ではマスクもつけずに大声をあげ飲んでいる人がいっぱ
   東京の下町の盛り場ではマスクもつけずに
大声をあげ飲んでいる人がいっぱい(10月頃)
 2020年10月初めの時点においては、新型コロナウイルスの世界の感染数は3500万人程度であった。しかして、年明け早々には9000万人を上回り、1億人台も視野に入ってきた。国内の感染数についても、驚異的な伸びを示している。同じく10月初めの時点では8万人強であったものが、年が明けて1週間もたたないうちにこの3倍以上に拡大したのである。とりわけ東京都内で働く人たちは「今そこにある危機」に怯えることがおびただしい。

 世の中の諺に「夜明け前が一番暗い」ということがあるが、こんなに世界全部がコロナでめちゃめちゃになっちゃって、夜明けは来るのだろうか、と思う人たちも数多い。しかして、ご安心あれ。どんなに感染が拡大しても、いよいよ2月に入れば日本を含めて世界の主要国で新型コロナウイルス対応のワクチンの接種が本格化していく。これぞ救世主であり、世界すべての人たちが待っていることであろう。

 こうしたコロナ禍が荒れ狂うなかで、半導体の奪い合いが始まっている。直近でわかるデータで言えば、2019年10月の世界の半導体売上高は前年同月比6.0%増の390億ドルとなり、1年11カ月ぶりの水準に回復した。ところが、かなりの問題が出てきた。それはどう考えても「半導体は超足りない」という状況が表面化してきたのである。任天堂などでも「Nintendo Switch」に必要な半導体が調達しにくくなると読んでおり、生産そのものに支障が出る懸念が広がっている。他のゲーム機メーカーについてもこの懸念は出てきている。ゲーム機には高い演算性能を持つ高機能の半導体が必要であるが、販売数量に季節変動があるため、ゲーム機向けの半導体は後回しにされやすいのだ。

 そして、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車は、はっきりと危機感をアピールしている。すなわち、「2021年4月以降の完成車生産が滞る懸念がある」と言っている。これは直接には旭化成の子会社の半導体製造工場で起きた火災の影響なども含めて、半導体調達が困難になったことを意味する。特にデンソーが主に生産し、トヨタに供給するADAS向けの半導体がやばいことになってきたのだ。トヨタは半導体自体の代替調達を進めている。そして、新しい仕様のシステムの前倒しの搭載も検討している。こうした状況に加えて、かなり汎用の車載向け半導体についても調達に気をもむ展開もはっきりと出てきた。ホンダ、GM、フォードなどの大手自動車メーカーも半導体の調達困難をアピールし始めた。

 こうした半導体不足に対応すべく、TSMC、インテル、サムスンなどの大手半導体メーカーは、設備投資を急増させている。ところが、半導体デバイスは材料を投入してから製品が出来上がるまでに3カ月以上かかるわけであり、いくら増産を決めても生産量を一気に増やすことは難しい。ましてや、これから工場を建てるのであれば、どうにもこうにも直近の半導体不足には対応できない。

 そしてまた、半導体設備投資の増額を決めるのはよいが、半導体製造装置そのものが全く需要急増に間に合っていない。日本を代表する半導体装置メーカー大手の九州にある工場を年末に訪ねたが、一番売れる製品の月産数量を倍増しても間に合わないという。半導体ばかりではない。これを搭載する実装基板の方も、どうにもならない品不足が目立ってきた。あるプリント配線板大手の幹部に話を聞いたところ、今注文を受けても、お届けできるのは1年半以上先になる、との見通しであるという。装置に使う部品もかなり足りなくなっている。

 コロナ禍において、半導体産業は5G高速の加速、データセンターの建設急ピッチなどを背景に、一人勝ちとも言うべき好調を維持してきた。2021年の世界半導体は2桁成長の勢いもあり、その後も引き続き絶好調を維持するとも言われている。しかしそれは、旺盛な需要に供給が追い付いていくことが前提である。ここに来ての半導体の奪い合いの状況を見れば、需要がどれだけあっても、製造が間に合わないという大きな問題が生じてきていると判断せざるを得ない。

 低迷していた自動車製造も、ここに来て盛り返しの気運にある。また、次世代自動車に対する開発投資や設備投資も復活してきている。しかしこれもまた、半導体が潤沢に供給されて初めて再回復が見込めるのだ。IoTから自動車に至るまで、すべての心臓部分を担う半導体の品不足はあらゆるところに影響していくだろう。それはまた、2021年の世界経済の急回復に暗い影を落とすことにもなりかねない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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