電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第420回

ノーベル賞受賞の半導体技術が新型コロナウイルスを死滅させる


LED製造の世界チャンピオンである日亜化学工業のサプライズ

2021/2/12

 「徳島大学の電子工学科に入学したが、一般教養のあまりのつまらなさに、1年と持たず登校拒否症となってしまった。人に嫌と言えないお人よしから一転して、今度は友人も寄せ付けず、部屋で1人、物理の勉強に明け暮れた。チタン酸バリウムなどの強誘電体材料の結晶成長についての研究を手がけたが、これが半導体の世界に首を突っ込むきっかけとなった」

 こう語るのは、かつて日亜化学工業で世界初の青色LEDの量産ライン構築に成功した中村修二氏である。中村氏は、10年間も温め続けてきた青色LEDの開発にすべてをかけて勝負した。青色LEDの材料にはセレン化亜鉛と窒化ガリウムの2つがあったが、中村氏は半ばやけくそで窒化ガリウムを選び、この研究にのめり込んだ。ツーフローMOCVDで初めて、透明で均一な膜を成長させることにも成功したのだ。

 「さらに進めてインジウム・ガリウム窒素の単結晶板を作ることに成功する。1992年の終わり頃には、従来よりも100倍明るい1カンデラの青色LEDの開発にこぎつけた。1年近くかけて量産ラインを構築し、製品化を発表したのは93年11月であった」(中村氏)

 この青色LEDの発明が2014年のノーベル物理学賞を受賞するのである。名城大学教授の赤崎勇氏、名古屋大学教授の天野浩氏と同時受賞となる快挙であった。青色LEDの量産成功によって、現在最も使われている白色LEDの一般普及が可能になった。これは、人類にとっては画期的なことであった。

 さて、日亜化学工業は国内の半導体生産ランキングにおいても常に上位に食い込んでいる。そして、LEDについては、世界チャンピオンの座にある。品質の素晴らしさ、結晶のきめ細やかさなど何をとっても、世界トップの技術を持っている。

 その日亜化学工業がまたもとんでもないことをやってのけた。高出力の深紫外LEDを開発し、この光を新型コロナウイルスに30秒間照射したところ、なんと99.99%のウイルスが不活性化したのだ。つまりは、コロナ死滅の道を切り開いた。

 日亜化学工業の鎌田広専務は、この成果について次のように語っている。
 「この深紫外LEDは出力が高いほど効果は高い。従来品の約1.3倍にあたる出力70mWのLEDを量産化できる体制が整った。約2万時間の照射が可能となった。エアコンや空気清浄機などに応用が期待できる」

日亜化学製280nm深紫外LEDを用いた新型コロナウイルス不活化実験の再現(同社ニュースリリースより)
日亜化学製280nm深紫外LEDを用いた
新型コロナウイルス不活化実験の再現
(同社ニュースリリースより)
 なんと素晴らしいことであろうか。これまでの白色電球に代わる白色LEDの普及を可能にした日亜化学工業の技術力は人類における照明革命を実現した。そして、今度は今や人類がのたうち回っている新型コロナウイルスの蔓延をブロックすることに使われることになる。ニッポンの半導体技術が新型コロナウイルスの死滅に向かわせる大きな役割を果たすのだ。

 シャープの開発したプラズマクラスターのエアコンもまた、新型コロナウイルスブロックに効果があると言われている。また、熊本大学は酸化グラフェンが新型コロナウイルスをブロックすることを発見した。

 国内の大手メディアは日本のコロナウイルス対策は生ぬるい、とひたすらに批判を繰り返している。しかして、半導体をはじめとするあらゆる研究で、日本の技術者たちは新型コロナウイルスに立ち向かっている。この死に物狂いの努力をもっともっと喧伝してもらいものだと切に思っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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