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第35回

車載向けリチウムイオン電池のマーケット成長が「下振れ」!!


~UPS、基地局、発電、フォークリフトなど定置用注力に戦略転換探る~

2013/6/21

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

燃料電池車の台頭でEV向けリチウム電池市場は厳しくなるのか
燃料電池車の台頭でEV向け
リチウム電池市場は厳しくなるのか
 「いったいどうなっているんだ。期待を集めたEV(電気自動車)ベンチャーが米国やその他のエリアで次々と倒産している。また、大手各社のEV生産計画も思ったほど強気では進んでいない。こんなことでは、次の設備投資計画を組めるわけもない!!」

 かなりのいらだちの様子を見せながらこう語るのは、リチウムイオン電池の主要部材メーカー大手の幹部である。実際のところ、世界各国が鳴り物入りでぶち上げたEVの普及加速はまったく歩みがのろいのだ。2012年通期で見ても、EVはせいぜい5万台程度の出荷にとどまっている。世界の自動車出荷台数は2012年で8000万台くらいと推定され、EVの存在はまさにけし粒程度のものなのだ。

 このEV失速の背景には、何といってもシェールガスの存在がある。kWhあたりのコストが石油10円に対し、シェールガスは6円と決定的に安く、しかも豊富な産出量が見込まれる以上、「ジャバジャバと使ってもまったく問題ない。バカ高いEVに切り替える必要などないのだ」という米国の風潮は、誠に致し方ないといえよう。もし、世界を走る車のほとんどをシェールガスエンジン車に変えてしまったら、それだけでCO2排出量は10%以上減るといわれており、これは環境面においても安易にできるグリーンニューディール対策といってもよいのだ。

 有名なシンクタンクである野村総合研究所も「2020年にいたってもEVの世界販売台数は47万台程度。これに対しプラグインハイブリッド車はかなりの伸びを見せ、195万台まで行くだろう」としている。世間が煽り立てるEVブームに対し、冷静な判断をしているのはさすがに野村総研の卓見というべきであろう。2020年段階ではおそらく車の全世界出荷は9000万台となるだろうから、実にEVの占める率はたったの0.005%ということになる。これでは、利益の出る産業規模とはとっても言えないのだ。

 通常のガソリンエンジン車においても、かなりの工夫がされてきており、ここに来て飛躍的に燃費は良くなっている。欧州メーカーなどはより安い投資で開発効果の出るアイドリングストップ、48Vシステムの搭載に、より関心が高い。日本メーカーも続々と一般車における省エネを追求する方向が強まってきた。お得意の軽自動車においても、さらにこれが加速されていく。
 加えて燃料電池車(FCEV)がトヨタ、ホンダなどにより、ついにテークオフの宣言がなされ、2015年には商業生産が本格化するというのだ。シェールガスからは大量のメチルアルコールが採れるわけであり、これが水素の原材となることで燃料電池車が一気に浮上してくることは当然のことだ。
 トヨタは早くも欧州の雄BMWと提携し、燃料電池車の世界展開の構図を描きつつある。日産・ルノー連合は2016年度にも全世界でEV累計150万台達成を掲げたが、すでに挫折しつつあり、目標達成のプレッシャーから大幅な値下げを敢行している。何と2013年4月からLEAFの価格を28万円引き下げ、補助金活用で221万円という驚きプライスとなるが、前回にも40万円の値下げをして大きな伸びにつながっておらず、今回もどうかな、と見る向きは多い。

 こうなれば、自動車向けに大きな伸びを期待していたリチウムイオン電池メーカー、およびこれに関連する部材メーカーは今後の投資計画を修正せざるを得なくなる。リチウムイオン電池はこれまでほとんど民生用途が中心で約1兆円の市場を築いているが、2015年にも2兆5000億円以上に急増というシナリオは崩れざるを得ない。もっともプラグインハイブリッド車の市場はそれなりに伸びるわけだが、EVに比べて容量が1/4~1/5と推定され、量が出てもあまり儲からない。

 こうした状況からリチウムイオン電池は、「車載向けのバラ色成長予想」から「確実な定置用を狙う」という方向に戦略転換するのでは、との見方が強まってきている。定置用としてはフォークリフト、電動二輪、さらにはUPSなどがあり、また一般家庭向けも当然のことながら期待できるのだ。既存の鉛市場を置き換えるだけでもインパクトがあり、大型、小型のUPSなどは1300億円、基地局バックアップなどは1000億円のマーケットがある、と想定されている。また、発電、送電、配電の各ロケーションで定置用リチウムは重要であり、スマートハウスなどの普及で一般家庭向けもいずれは大きく伸びるといわれている。

 ところで、かつてリチウムイオン電池の世界でぶっち切りトップであった日本勢の影はここに来て薄くなっている。韓国メーカーはウォン安を追い風に、安い中国材料の活用、さらにはスピーディーなラインの構築で、一気に世界の頂点に立ってしまった。どう巻き返すのか日本勢、も今後の焦点となるところなのだ。
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