電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第496回

一般電子部品こそ日本の牙城、世界シェア40%に迫る勢い


設備投資も1兆円水準で国内半導体企業に匹敵するのだ

2022/9/2

 「たった1個のコネクターが無くてもさあ、数億円もする製造装置が作れないのよ。本当にどうなっているんだと言いたい。納期は遅れるし、ユーザーには文句を言われるし、半導体ばかりじゃなくて、電子部品のサプライチェーンもしっかりしてもらいたい」

 これは、2021年当時の話である。確かに、半導体はとんでもなく足りなかったが、これに付随するように電子部品も足りなかった。とりわけコネクターの不足は至るところで耳にしたことである。1台で数億円どころか10億円を超えるような半導体製造装置にあっても、電子部品の存在は重要だ。カスタマイズされた製品が多いので、合わせ込むのも難しい。日本のものづくりの良さが活かせるのが電子部品なのである。

 モーターの分野で、圧倒的な強さを持つ日本電産は、いまや売り上げ2兆円を超えてくるほどの存在になっている。同社の場合、電動車用トラクションモーターシステムの採用が十数万台を超えてきており、これが売り上げ成長のインパクトになっているのだ。またリモート需要の拡大で、精密小型モーターも堅調であり、スマホやロボットなどの新規分野開拓にも注力している。一方で、触覚センサーと言われるハプティクス分野でも日本電産のシェアは非常に高い。

 ここで重要なことは、電子デバイスという括りで見た場合に、日本を代表する企業はどこかと聞いた場合、多くの素人筋の方々は、それは東芝に決まっているでしょ、と言うのである。具体的には、東芝メモリの後身であるキオクシアが国内デバイスチャンピオンというわけであろうが、同社の21年度実績は1兆5000億円超、24年度予想については1兆6500億円程度である。

 これでおわかりであろう。日本電産の売り上げは、すでにキオクシアを上回っている。それどころではない。TDKの2022年売り上げは2兆2000億円の予想であり、村田製作所も2兆円近くまで上げてくる。そうであるからして、これからは日本電産、TDK、村田製作所などが日本の電子デバイス業界の筆頭格の企業であると言うべきだ、と筆者は思っているが、なかなかうなずかない輩もいる。

 電子デバイスという分野は、現状で約100兆円はあると筆者は見ている(2021年度末段階)。このうち65兆円は、言うまでもなく爆裂成長の半導体である。そして二番手の存在が電子部品であり、これが32兆円くらいはあると見ている。残りは、液晶、有機EL、マイクロLEDなどのディスプレー分野とその他である。

 ここで重要なことは、半導体分野についてはかつて50%以上のマーケットシェアを持ち、世界に君臨した日本勢の弱さである。いまやマーケットシェアは8.5%くらいしかなく、まったくもって世界におけるインパクトが弱くなってきている。何と言っても巨大市場であるDRAM、そしてシステムLSIの分野でまったく日本の出番がないからだと言って外れてはいないだろう。

 それはともかく、人間の眼にあたる半導体であるCMOSイメージセンサーの分野においてはソニーが世界トップ。車載用マイコンについてはルネサスが世界トップ。NANDフラッシュメモリーについても、キオクシアとWDの連合軍はサムスンとトップを争っている。LEDの分野では、日亜化学の存在は世界的に知られている。こうした局地戦においては、それなりの活躍をしているが、いかんせんDRAMをまったく持たず、システムLSIは見事な敗北という状態では、なかなか浮き上がることができない。

世界で存在感が増してきた日本の電子部品(テクノフロンティアの太陽誘電ブース)
世界で存在感が増してきた日本の電子部品
(テクノフロンティアの太陽誘電ブース)
 こうした状況下において、日本の電子部品メーカーの世界シェアはどのくらいあるかということであるが、40%に迫る勢いと言っておこう。もちろん、断トツの世界チャンピオンなのである。積層セラミックコンデンサーの分野では、村田製作所を筆頭に、TDK、太陽誘電を合わせて圧勝している。コネクターにおいても、日本航空電子工業、ヒロセ電機、イリソ電子工業などが頑張っている。車載関連部品においては、アルプスアルパインは世界的な存在であり、アクチュエーター、センサー、スイッチ、その他において健闘している。

 設備投資についても、日本の電子部品メーカーはすごい勢いで増やしている。2022年度における国内30社の投資計画は、1兆1612億円が見込まれており、21年度に比べて28%増、20年度比では44%増となる見通しである。ちなみに、国内半導体主要10社の22年度投資額は1兆3000億円が見込まれており、電子部品における日本勢の投資水準がいかに高いか、ということがよくわかるだろう。

 つまりは、ニッポン電子部品企業は投資においても半導体に比肩する存在になってきたことを政府および経産省には強く認識してもらいたい。すなわち、半導体に徹底補助するだけではなくて、国内電子部品メーカーの設備投資にも手厚い補助金を出してもらいたい、と筆者は切に思っているのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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