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長澤泰氏「病院建築・設備とFMおよび14年の趨勢と提言」を講演(上)


病院は「災害対応」から「事業継続」への転換を

2014/1/14

長澤泰氏
長澤泰氏
 JPI(日本計画研究所)主催の年末恒例 長澤泰副学長招聘セミナー「病院建築と設備・FMに関する『最新の世界的課題』を踏まえた2014年の趨勢と提言~FMの国際標準(ISO)化国際会議(東京)・国際病院設備連盟(IFHE)マレーシア会議等を踏まえて~」が、13年12月11日に行われた。
 長澤氏は、工学院大学副学長、日本医療福祉設備協会副会長、日本ファシリティマネジメント協会理事を務め、病院建築、病院設備およびFM(ファシリティマネジメント)についての深い知見と国際舞台での経験をベースに、1.病院建築・設備とFM、2.FMの国際標準(ISO)ガイドライン、3.国際病院設備連盟(IFHE)マレーシア会議、4.まとめ、の順で講演を進めた。首都直下型、東海沖、東南海、南海と大型地震が近いうちに襲来するという予測のなか、それらへの備えとして、有意義で非常にタイムリーな講演内容であり、多くの聴講者が来場した。今回は、講演の「1.病院建築・設備とFM」について紹介する。

◇   ◇   ◇

◆FMは「ひと」「もの」「かね」「情報」の総合戦略
 1.病院建築・設備とFMについて、建築計画の定義には狭義と広義がある。狭義では「建築への要求と機能、そして設計条件を明確化するもの」であるが、広義では、「構造・材料・施工・構法・環境・法規・歴史・意匠を総合化するもの」で、いわばオーケストラの指揮者の役割を果たすことが必要である。マネジメントは、F(ファシリティ)、P(プロジェクト)、C(コンストラクション)の3つが有機的に機能することが重要である。
 このうち、FMとは、「ひと」「もの」「かね」に「情報」を加えて、それらの活用総合戦略と言うことができ、BCP(業務維持計画)は「災害時のFM」のことである。従って、「平常時からFMを確立すべきである。つまり、平常時にしっかり対処しておかないと、災害時に機能しない」と解説する。
 1900年以降に発生した日本の大地震は、関東(1924年、M7.9)、新潟(64年、M7.5)、十勝沖(68年、M7.8)、宮城沖(78年、M7.4)、日本海(93年、M7.7)、神戸(95年、M7.2)、中越(2000年、M7.5)、東日本(11年、M9.0)がある。これら大地震での被災病院調査では、二重天井など非構造部材の損壊だけでなく、天井吊りの装置の落下など医療機器や手術室機器の損壊、シャフトに水が入ったためにエレベーターが止まり、上層階への水の搬送にバケツを用いて人手で行った事例などが挙げられる。このように地震では何が起こるかも把握されている。防災研究では医療機器を設置した実物大病院建物の振動実験を進めた結果、免震構造や制振構造の必要性など建物の構造面での対策、水と電気の確保が重要であることや警報・防火・拡大防止といった設備面での対策、パニック防止など計画面での対策といったように講ずるべき対策は大体わかっている。しかし、「現実にはこれらの対策が実施されないのは何故か」と問いかけた結果、FMの重要性がクローズアップされたと説く。

◆東日本大震災から首都直下地震への対策とFM
 工学院大学では、13年1月23日に「東日本大震災の経験を活かした首都直下地震の対策とファシリティマネジメント」と題したプレス懇談会を開催した。
 同大学では、3.11以前から大学ファシリティマネジメントの実践を試み、その体制では、FMインフラ(リーダーシップ・体制・組織・人材・情報・基準・財務など)が業務を支え、FMがファシリティ(建物・設備・環境)および数量(学生数・職員数)、品質(学生学力・教員能力)、コスト(学費・運営費)を支えている。3.11当日には、学生・職員を含め帰宅困難者1100人を実際に大学施設に受け入れた。また、被災現地での直接支援のほか、ダンボール家具や不要な眼鏡を集めて送付、チャリティーコンサート開催といった現地に行かなくてもできる支援を行った。また、T(東北福祉大)K(神戸学院大)K(工学院大)三大学相互支援連携の一環で、東日本大震災では、東北福祉大に必要な支援物資を送り、神戸のSAAS渦では、神戸学院大に他の2大学がマスクなど救援物資を送った。

◆「平常時からFMを確立すべき」
 調査・研究に基づく計画策定と実践を通じて、長澤氏は、「BCPは『災害時のFM』である。だから平常時からFMを確立すべき」との結論を導き出し、広く普及、浸透に努め、特に西新宿のようなエリアでは、建物単体のBCPだけでなく「地域のBCP」つまり「DCP:DistrictBCP」を検討すべきであるとして、工学院大学は新宿区(消防、医師会を含む)と提携して災害時の対策を立てている。また、病院においても、病院単体だけでなく、病院が中心となって地域での面的な対応をすることが重要と話す。

◆供給幅の低下・期間極小化と需要増への対応
 次いで、長澤氏は、JFMAヘルスケア研究部会の上坂脩氏(竹中工務店医療福祉・教育本部)の研究成果報告書を活用し、病院におけるBCP(研究成果報告書では「病院BCP」)について説明した。
 報告書では、まず東日本大震災の詳細な被害実態を把握・分析し、課題を抽出して将来の教訓に活かすことが重要としたうえで、病院BCP支援ツールの概要が紹介されている。
 病院BCPでは、災害発生直後においては、[課題(1)]一時的な(医療)供給下げ幅を極小化することと、[課題(2)]影響を受ける期間の極小化が重要であり、さらに、企業BCPにおいては供給能力の低下分を早期に元の水準に回復させることが重要であるが、病院BCPにおいては災害発生後に災害前の需要水準を上回る需要(負傷者の殺到)が生じ、これを供給不足の中で対応せざるを得ないことが[課題(3)]として挙げられている。

◆発災後の時間経過とともに需要の性質が変化
 災害時の医療需要の変化を見ると、阪神大震災の場合、発災期(発災から数時間)では交通機関が麻痺して徒歩の患者(比較的軽症)の来院、混乱期(数時間から2、3日)では、救急搬送による重傷患者・外傷による整形外科系患者の増加、避難期(数日から数週間)では、生活環境の悪化による循環器・呼吸器系疾患が増加、復旧・復興期(数週間から数年)では、避難生活によるストレス・潜在的な疲労の蓄積により精神・神経系の疾患が増加というように、発災後の時間経過とともに需要の性質が変わることが特徴。東日本大震災の場合は、津波災害が主であったため整形外科系は少ないが、低体温症・呼吸器系が多く、慢性疾患・投薬も多かったと指摘している。報告書には、それを裏付ける東日本大震災の東北大学病院、仙台医療センター、石巻赤十字病院、阪神淡路大震災の神戸市立中央市民病院、兵庫医科大学病院など災害時での医療需要変化の詳細が掲載されている。

◆自院と地域のトリアージのタッグが有効
 病院BCP支援ツールとしては、被害状況を早期に把握する自院トリアージと被害情報の地域共有を実現する地域トリアージのタッグが必要で、長澤氏は、災害診断ツールの活用を紹介した。
 自院トリアージは、建築、設備1次、設備2次、機器・備品、供給・情報、通信、ライフライン、職員、既存患者、新規患者の10項目をレーダーチャートに表現し、通常時の100%(機能点数4)と比較して、それぞれの項目がどれほど下回っているか、あるいは新規患者の項目のように上回っているかを日時の経過とともに記録していくもので、病院全体の状況把握と情報発信が可能となる。
 ヘルスケアFM研究部会の活動は、12年だけでJFMAジャーナル冬号(BCPとFM-病院BCP)、東海病院管理学研究会誌(ファシリティマネジメントから考える事業継続性)、医業経営コンサルタント協会JAHMC6月号(ファシリティマネジメントの立場で考える病院事業継続性)、日本医療福祉設備協会病院設備7月号(病院における経営戦略的FMの試み-「ファシリティ」の新概念と病院BCPへのFM業務展開)、医学書院病院12月号(病院のファシリティマネジメントとBCP)などがあり、これらから研究成果の詳細を知ることができる。

◆発災後の病院活動の状況経過には3タイプ
 11(平成23)年度の厚生労働科学特別研究事業「大規模災害に対応した保健・医療・福祉サービスの構造、設備、管理運営体制等に関する研究」(研究代表者:工学院大学 筧淳夫教授の分担研究報告)で建築・設備に関するハード面と運営・マニュアルに関するソフト面(病院概要、被災概要、ライフライン被災状況、再稼働状況・防災対策、建築構造、建築設備・医療設備、医療活動、物資補給など)についての東日本大震災病院被災調査の実施、およびJFMA独自の病院ヒアリングからの2病院を含む35病院(最終的には51病院)の災害活動を分析評価中であることが紹介された。
 調査から、病院活動の状況経過ではおおむね3タイプに分類できる。すなわちAタイプ(患者対応型:当初は病院活動が低下、発災時より平常時の救急患者以上の被災患者に対応、被災によるダメージの程度は病院より異なるが、おおむね1カ月程度で平常回復、検証病院12病院・比率34%)、Bタイプ(標準回復型:当初、供給やインフラなどの活動が若干低下するが、おおむね2週間程度で平常回復、被災患者の対応は平常時の救急患者数程度、15病院・43%)、Cタイプ(回復遅延型:発災当初より多くの病院機能や活動レベルが低下し、被災患者にあまり対応できない、地震・津波により建築の構造や重要設備が損傷し、1カ月後も機能低下し回復が遅延する、8病院・23%)。

◆「災害対応」から「事業継続」への転換を
 これらの結果から、複雑なリソースで構成される病院事業ゆえ、「災害対応」から「事業継続」への転換を挙げている。つまり、「災害対応マニュアル」だけでは、短期間で形骸化してしまうが、平常時業務を定量的に把握していると適切な災害対応が容易となる。この平常時を基本に、災害ダメージを乗り越える「事業継続」の視点が重要と強調する。病院BCP策定支援マニュアル作成のポイントは「災害経験を想定した平時からの備え」である。
 長澤氏は、「1.病院建築・設備とFM」の最後に、災害時のトリアージに関して、重症患者、危篤状態の患者に対応するエリアの想定場所の必要性や、重傷患者の想定比率は5.5%、中等症は18.3%、軽症は74.7%、死亡は0.6%であると述べた。
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