電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第72回

(株)ジャパンディスプレイ 代表取締役社長 大塚周一氏


車載パネル、15年度から貢献度拡大
台湾法人コアにアジア顧客開拓
後工程の進化でボリュームゾーンへ攻勢

2014/4/18

(株)ジャパンディスプレイ 代表取締役社長 大塚周一氏
 3月19日、中小型液晶パネル事業を手がけるジャパンディスプレイは、当初の目標よりも1年早く、東京証券取引所第1部への上場を果たした。産業革新機構から融資を受け、東芝、日立、ソニー3社の中小型液晶事業を統合してから2年。いまや世界をリードする低温ポリシリコン(LTPS)液晶パネルのサプライヤーであり、その動向に注目が集まっている。「上場は1つの通過点に過ぎない」と語る大塚周一社長に今後の事業戦略を伺った。

―― 足元の状況から。
 大塚 スマートフォン(スマホ)新モデルへの切り替え時期など季節要因で足元は弱含んでいるが、受注は悪くない。2014年もスマホ市場は堅調に伸び12億台規模が予測されており、中国端末メーカーからの引き合いは依然強い。ホワイトボックスなどの低価格品で攻勢をかけるのではなく、ブランド戦略を進め、グローバルなビッグプレーヤーになるという意気込みが感じられる。
 当社のLTPSは中国メーカーに対してもハイエンド端末用に認知され、数量を伸ばしている。先ごろ発表した540ppiのWQHDパネルはすでに相当量の引き合いを得ている。中国メーカーも差別化要素として440ppiフルHDからWQHDへ大きく舵を切りつつある。

―― 14年度の事業方針および事業拡大のカギは。
 大塚 スマホの(1)ハイエンドおよび(2)ミッドゾーン、(3)タブレット、(4)車載、(5)反射型パネル、(6)有機ELをテーマにしている。
 ハイエンドスマホでは前述のとおり当社のポジションは高いが、ミッドゾーン=ボリュームゾーンでさらにシェアを拡大するため、100%子会社の台灣顯示器股※(=にんべんに分)有限公司(TDI)を活用してアジアの顧客獲得に乗り出している。ミッドゾーンのパネル解像度は当面720HDが主流とみているが、一気にフルHDが標準になる気配も出始め、注視している。

―― TDIの役割は。
 大塚 中国市場向けの製品設計や生産インフラの整備などを進めているが、目下最大のテーマはベンチマーキング、つまり後工程のコストダウンだ。コストや後工程に対する台湾人の姿勢、考え方、目線、材料の選定法、顧客との交渉力など学ぶべきことが多い。
 当社は以前から後工程を自動化し、一部については海外拠点から国内へ製造を回帰させているなど、後工程の技術力は高い。この取り組みを国内各拠点に広げることはもちろん、うまく活用してミッドゾーンを攻略する戦略に落とし込めるか検討している。

 例えば、720HDパネルのタッチ機能にエアギャップ方式カバーガラス貼り付けを導入したり、偏光板を1枚にしたりして部材コストを下げるなど、多くの方法を考えている。高い後工程技術をうまく生かせば、パネルを外部調達してモジュール技術で差別化することも可能だ。もちろん台湾パネルメーカーとのコラボレーションを広げることも視野に入れている。

―― 車載パネル事業は。
 大塚 間違いなく今後は収益の柱の1つになる。デザインインから採用まで少なくとも3年はかかるため、設立時期を考えれば、15年度後半~16年度に収益に貢献し始める。
 車載パネル市場では現在、台湾パネルメーカーのシェアが高いが、異形パネル需要の高まりなど大きなイノベーションが起こりつつあり、18年ごろには高精細化が間違いなく要求される。その際に課題となるのが消費電力だ。LTPSの省エネ性能や当社の低消費電力技術「ホワイトマジック」、インセルタッチパネル技術「ピクセルアイズ」がますます重要になる。
 先週、12.3型の異形状車載液晶モジュールの新製品を発表した。これまで顧客は欧州企業がメーンだったが、今後は米国メーカーへの参入も狙う。当社としては品質とコストをどう最適化するかが課題で、ここでも後工程によるコストダウンがカギになる。

―― 有機ELは石川工場で4.5Gパイロットラインが稼働しますね。
 大塚 動画特性を重視するようなアプリで、すでに引き合いがある。将来的に量産になれば、茂原工場のLTPS6Gを4分割して4.5Gバックプレーンに活用できるが、まずはパイロットラインの稼働を見極めたい。シート、フィルム、ベンダブルといった技術を開発中で、どう加速していくのか検討していく。材料開発などやるべきことは山積しており、何がベストソリューションかの判断はまだできない。先行メーカーと同じことをやるのでは能がない。あくまでも当社は高精細化をドライブする方針であり、これから事業を本格化させても需要期には十分に間に合う。

―― 新拠点の整備に関心が集まっています。
 大塚 リスクのある投資はしないが、ボリュームゾーンで受注を獲得できれば、LTPSの生産能力は間違いなく不足する。拡大・増強は必要だ。だが、閑散期を埋めるためだけにローエンド品を生産するつもりはない。ボリュームゾーンがフルHDになればLTPSの強みを発揮できるし、LTPSの高い参入障壁のなかで必ず当社のビジネスは安定していく。LTPS市場をほぼ3社で寡占しているうちに、こうした業界構造を早く構築したい。

―― パネル面積を考えるとタブレット市場も重要ですね。
 大塚 大口顧客の獲得が重要になる。重さやバッテリー寿命などを考えればLTPSの性能には魅力があり、大型になればインセルのメリットが大きくなる。当社のLTPSとピクセルアイズなら軽量、薄型、狭額縁、高精細化が可能で、デザイン性も向上できる。タブレットはまだまだ技術革新やイノベーションが継続するアプリであり、積極的に手がけていきたい。

―― 今後の抱負を。
 大塚 今年度は52人の新卒を採用した。このうち17人が高卒者だ。今後も特に高卒の採用に力を入れ、成長を続けることで雇用の創出を継続していく。
 15年には台湾パネルメーカーらが6G LTPSラインを立ち上げる計画を発表しており、プレーヤーは増えるだろう。だが、当社はすでに歩留まりも高く、LTPSの革新で先端を走ってきたという自負がある。さらに技術力を高め、差別化の手を緩めず進歩し続けなければならないが、受けて立つ自信はある。


(聞き手・本紙編集部)
(本紙2014年4月16日号1面 掲載)

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