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第573回

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役 社長執行役員 木村岳史氏


開発力・技術力を磨く環境重視
産機・車載へ中高耐圧品を拡充

2024/4/26

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役 社長執行役員 木村岳史氏
 創業以来、電源ICを筆頭にアナログ半導体メーカーとして躍進中のトレックス・セミコンダクター(株)(東京都中央区)。最近では産業機器や車載向けへの製品群拡充や、100%子会社のフェニテックセミコンダクターとのシナジー効果を見据えたパワー半導体での展開など新たな取り組みに乗り出している。2023年4月から代表取締役 社長執行役員に就任した木村岳史氏に、現況や抱負などをお聞きした。

―― ご経歴は。
 木村 大学卒業後、1989年4月にリコーに入社し、電子デバイス事業部に配属となった。学生時代の研究テーマが物性だったこともあり、プロセス製造技術を担う部署で7年間ほど経験を積ませていただいた。その後、アナログ半導体の設計・開発部隊に異動になり、電源ICの設計開発を担う契機になった。電源ICを自ら製品企画するという好機にも恵まれ、当時主流だった折り畳み式携帯電話向け電源ICも企画から一貫で手がけた。顧客ニーズを汲んだものづくりの醍醐味、面白さを知ったことが今につながる。当社には03年4月に入社し、引き続き電源ICでキャリアを重ねてきた。

―― 新社長として貴社の成長に向けて重視することは。
 木村 電源IC、アナログ半導体を主軸とする同社では、技術開発、人材育成ともに時間がかかる。一朝一夕にはできない。ただ、それこそがトレックスであり、技術に基づいた事業展開は外せない。他社に及ばない領域もまだまだあると思っており、開発力、技術力をもっと磨いていける環境づくりの優先順位を上げていく。

―― 製品開発の方向性については。
 木村 以前の主力製品はコンシューマー向けのローパワー品が多かった。今後は、世界で日本が競争力を発揮している産業機器や車載などのアプリケーション向けに中高耐圧・大電流対応の製品展開を加速していく。

―― 例えば、どのようなものがありますか。
 木村 先ごろ産業機器関連のDX向けに量産を開始した、60Vの高耐圧対応、300mAドライバー内蔵の同期整流降圧DC/DCコンバーター「XC9702シリーズ」は一例である。産機向けで課題の入力電源オーバーシュートに対応しつつ、低消費電力化を図った点などが特徴であり、4年後に年間販売160万個を見据えていく。今後はこの60V系の製品ラインアップを順次拡充していく予定である。

―― 60V系拡充の背景は。
 木村 絶縁から出るトランス電圧は現状主流の12V、24Vから、今後は48Vにシフトするとみている。車載向けでもマイルドハイブリッドは48V系になりつつある。この流れに合わせてマージンをつけた60V系を提供できるプレーヤーは現状では当社を含めて限られており、拡充の意味があると判断した。なお、60V系製品の生産は、現段階ではフェニテックの当社製品用生産ラインが低電圧向けプロセスのみのため外部委託している。ただし今後は、フェニテックの鹿児島工場内に中高耐圧品用の生産ライン導入も進めていきたい。

―― 増強投資は。
 木村 23年度の設備投資予定額は59億円(3月取材時点)であり、このうち30億円はフェニテックの鹿児島工場に投じている。24年2月に同工場クリーンルーム増床の竣工式を行い、順次生産装置を搬入中だ。総投資額は44億円を見込み、24年度内に稼働を開始する予定である。5号館3階に設置しているCMOS IC生産用とSiC関連生産用ラインの一部をトレックス生産分に確保し、25年度には同工場でトレックス製品生産量を3倍に引き上げていく。

―― パワー半導体事業の専任組織も設置されました。
 木村 パワー半導体事業の本格立ち上げを目指して23年12月に新設した。シリコンMOSFETに加え、WBG(ワイドバンドギャップ)半導体やバイポーラ系IGBTも手がけていく。SiCでは850V帯/10AのSBD(ショットキーバリアダイオード)をサンプル提供中であり、近く量産開始を予定している。続いて24年度内にSiC SBDの650V品、1200V品を上市し、その先にSiC MOSFETを見据えていく。産業機器向けのインバーターやeバイクの急速充電器、パワーコンディショナーなどの用途を想定している。

―― 今後の展望を。
 木村 小型・低消費電力な電源ICの提供、周辺のコイルも含めたコイル一体型モジュール技術、高効率化技術などが当社の差別化点と自負している。当社単体ベースで200人弱の従業員のうち、生産技術を含めて約半分がエンジニアという技術力がその基盤にある。今後もその技術力に磨きをかけながら、低消費電力なアナログ半導体でカーボンニュートラル社会の実現に貢献し続けていく。


(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年4月25日号3面 掲載

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