電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第87回

アルプス電気(株) 代表取締役社長 栗山年弘氏


車載向け電子部品2000億円が目標
コネクティビティーに注力
「新製品開発は国内」のポリシー貫く

2014/8/22

アルプス電気(株) 代表取締役社長 栗山年弘氏
 一般電子部品の御三家の一角と評されるアルプス電気(株)(東京都大田区雪谷大塚町1-7、Tel.03-3726-1211)は、今年創業66年を迎えた。2014年3月期の連結売上高は前年度比25%増の6843億円となった。得意とする車載市場が順調に伸びているうえ、スマートフォン(スマホ)マーケットが大きく伸長してきたことが大きい。電子部品については、実に2000社に4万点を供給するカンパニーであり、アルプス電気の部品なしに作れないメーカーは世界に数多い。最近では社内でオリジナル半導体のASICの独自設計も進めており、センサー、スイッチなどの新製品開発にも余念がない。同社を率いる代表取締役社長の栗山年弘氏に話を伺った。

―― 京都大学理学部のご出身ですね。
 栗山 栃木県足利に生まれ、京都大学理学部で物理化学を専攻し、卒論は金属物性に関するものであった。1980年にアルプス電気に入社するが、当時は民生家電ブームで、アルプスへの注目は高まりつつあった。リクルートの人気企業ランキングで20位以内に入っていた。ただ、見逃せないのは、薫陶を受けた京大の教授が「アルプスの人事担当役員はすばらしい。あれだけ熱心ならば必ずやいい人材が採れる」と言っておられたことだ。いわゆる総合電機のような大企業では自由度は低い、と考えていた自分にとって、伸び盛りの中堅企業であったアルプスは最適カンパニーであったと思う。

―― 80年当時の中堅企業のアルプスは、今や電子部品大手の一角に数えられます。
 栗山 その後のアルプスの成長は、創業者をはじめ、現会長、歴代役員のご尽力に加えて、先輩社員たちの頑張りが物を言ったと思う。ありがたいことに、アルプス製品はグローバルネット体制でお客様とのパートナーシップを構築しており、全世界に「価値ある電子部品」を供給している。

―― 16年3月期をめどに電子部品事業で3500億円の売り上げを目指していますね。
 栗山 そのとおりだ。その時点で営業利益も240億円を達成したいと考えている。3500億円のうち、車載市場向け売り上げ2000億円の達成を掲げている。これまでは計画どおりにきている。
 とりわけ自動車の電装化に伴う顧客ニーズの変化に対応していくモジュール戦略の強化品目として、ヘッドアップディスプレー、電子シフター、ハプテックコマンダーを考えている。ちなみにパワーウィンドウスイッチは世界トップの生産量となっている。
 また、車とスマホなどモバイル機器を無線でつなぐブルートゥースモジュールについても世界のトップを走っている。ハンズフリーによる安全、快適な機能が受けているのだ。

―― 車載製品の開発は今後も注力ポイントです。
 栗山 自動車においてはEVや燃料電池などの「環境」、自動走行や衝突防止などの「安全」、さらにはカーライフを満喫する「快適」が、今後の3大要素と言われている。アルプス電気は、このうち主力分野である「快適」に加え、今後は「環境」「安全」に役立つ製品開発にも取り組む。
 車のIT化は加速度的に進んでいる。例えば、操作するスイッチは現状においてボタンが圧倒的に多いが、今後はこれがタッチパネル化されていく。アルプスのヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)技術が非常に生かされるところだ。
 ドライバーの運転状態をフロントの赤外線センサーで検知し、事故予防につなげるシステムおよび部品の開発にも注力している。

―― 電流センサーの開発については。
 栗山 電流センサーは、産業革新機構とのジョイントベンチャーで、戦略的子会社であるアルプスグリーンデバイスが開発を担当している。電力・電圧は簡単に測れるが、電流はその周辺の電磁界を測るため、より小型・高精度のデバイスが求められる。当社の磁性材料技術などを用いた高品質な製品によって、今までのホール素子から置き換えを促したい。電流制御はスマートメーターが普及しつつあるが、スマホを見ながら制御する時代もやってくるだろう。
 このように当社では、HMI、センサー、そして通信によって、様々なものをつなげていくコネクティビティーに注力している。

―― ASICの設計も進めていますね。
 栗山 これは仙台開発センターが担当している。当社が車載向けとして世界に先駆けて開発し、アウディに搭載された静電入力式タッチパネルのICは内製化したものだ。アナログとデジタルのミックスシグナルをセンサーに混載する時代であり、電子部品メーカーである当社にとっても半導体技術は不可欠なのだ。独自のASICの設計を行い、大手ファンドリーを使って立ち上げている。

―― 設備投資の方向性については。
 栗山 ここ数年間の推移で見れば、連結ベースで300億円前後を投入している。ちなみに当社の売り上げの70%は海外であり、生産の60%を海外にシフトしている。しかし、設備投資は国内の比率が多くなっている。これは「新製品の開発はやはり国内で立ち上げる」というポリシーを貫いているからだ。先ごろ転換社債で300億円を調達したが、これは次世代へ向けての開発および設備投資、さらにはM&Aなどに備えているのだ。持続的な事業拡大を図っていきたいと考えており、設備投資も必要なときには、きっちりとやる覚悟を固めている。


(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
(本紙2014年8月20日号1面 掲載)

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