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第560回

ニデック(株) 代表取締役社長執行役員 最高執行責任者 小部博志氏


次なるターゲットは「インド」
高性能GPU分野へ水冷で躍進

2024/1/26

ニデック(株) 代表取締役社長執行役員 最高執行責任者 小部博志氏
 わずか4人からスタートしたニデック(株)(京都市南区)は、2023年7月で創業50周年を迎えた。いまや売上高2.2兆円(23年3月期)規模の世界大手モーターメーカーへと上り詰めた。この躍進は「ニデックの営業で50年」と語る同社代表取締役社長執行役員兼最高執行責任者の小部博志氏の歴史でもある。今なお、世界中を飛び回りトップセールスを展開する小部社長は「24年から果実がどんどん実ってくる」と自信を見せる。その真意、そして次なる展望などをお聞きした。

―― 23年を振り返って。
 小部 EV(電気自動車)向けへ果敢に攻めてきた機電一体のE-Axleは、23年から中国EVやEV搭載部品の値下げ競争が中国国内で激化し、レッドオーシャンへと様変わりした。今後は収益重視だ。ここ1~2年の工作機械関連での一連のM&A案件が収益を押し上げてくるだろう。AMEC(車載用製品)では24年から連結業績に加わる仏Npe(欧州ステランティスとの合弁会社)、日米欧を中心とするモーターなどパーツ提供、曲がる・止まるに関連したパワステ、ブレーキ用ブラシレス/ブラシ付きモーターなど高シェア領域の拡大を目指す。
 また、中国市場向けE-Axle第3世代品(7-in-1)用インバーターでは、広州汽車など優良顧客が採用実績を持つ中国製半導体を全面搭載し、収益が見込める優良顧客に焦点を絞る。中国EV関連は中国完結とし、次なるターゲットをインドに見定め、大きく舵を切っていく。

―― なぜインドですか。
 小部 人口14億人の市場、平均年齢は28歳とあらゆる産業の伸びしろが大きい。かつ当社も14年のモディ首相と永守会長の会談を契機に、16年からインドへ工場進出しており親交も深い。私も23年12月にニムラナ工場第2棟開所式を機にインドに出向き、インド政府の副大臣と面談すると同時に、現地の顧客企業10社ほどを訪問し、インドの熱気を肌で感じた。まず米国の大手企業のインド進出でインターネット、eコマースが今後、急激に伸びてくる。次に暑い土地柄もあり空調を中心に家電も伸びる。事実、日系や韓国系のエアコンメーカーの工場増築も進行中だ。インフラ系でもバックアップ電源、太陽光など発電系も整備されていく。さらに物流でも電動二輪車、小型電動四輪車が伸長中であり、モーター、E-Axleなど当社製品群の需要は底堅い。

―― 投資もインドに振り向けている印象です。
 小部 当社は早くからインドに注目しており、今後決まっているものを含め、これまで数百億円を投じている。現状、ラジャスタン州のニムラナ工場で家電・車載・産業・空調用モーターを製造している。同工場で23年12月に電動バイク用モーター製造向けの第2棟が開所した。他にもカルナタカ州ベンガルール工場では、発電機用モーターを製造しており、そして同州フブリにさらに120億円を投じて発電機・エレベーター用モーター製造向けの工場も建設中であり、25年完工予定だ。さらに場所は選定中だが、空調用モーター製造に向けた第5工場を24年着工、25年量産開始の計画で進めている。今後の需要拡大を勘案すれば、次に第6工場も計画する必要があるだろう。インドへの累計投資額は総額500億円程度になると見込んでいる。インド政府・各州からインセンティブ支援を得られる利点もある。現状では当社売上高のうち中国関連が4~5割、インドは1割程度だが、今後はインド比率が高まっていくだろう。

―― インドの電動バイクでの手応えは。
 小部 インドの電動バイク大手数社から引き合いがあり、今後インド国内で電動二輪、電動四輪への事業拡大も期待される。当社モーターの出番であり、受注の可能性は高い。その他にも多くの引き合いを得ている。自転車、電動アシスト、電動バイクへと進化した中国と異なり、インドは電動バイク起点のため、タイヤサイズも12インチと大きく、インホイールモーター、センターモーター、サイドモーターへと技術進化していく点も当社とシナジーがある。既存のニムラナ工場内には電動バイク用に2ラインを設けていたが、新たに4ラインを追加し、計6ラインでの生産体制を整えている(10万台/ライン)。

―― 一方、データセンター向けも注目です。
 小部 生成AIサーバー、ChatGPT用GPU、CPU関連ビジネスとして、スーパーコンピューター(スパコン)用水冷モジュールなどを展開している。高性能CPU/GPUでは演算処理能力が上がり続け、高容量化の流れが加速している。従来の冷却ファンでは追い付かない。必然的に水冷モジュール需要が高まる。今後もデータ処理量増大でデータセンターの増設は確実視され、サーバーラック設置台数も拡大の一途をたどる。当社にとっても追い風だ。

―― データセンターでの実績を。
 小部 当社は5年ほど前からコールドプレート、CDU(Cooling Distribution Unit=冷却水循環装置)、CDM(Cooling Distribution Manifold)をセットでスパコン向けに提供しており、累計100台程度の納入実績を持つ。また、GPU関連企業と親交の深い台湾大手にはCDUを納入中だ。当社のCDUは重要部品のポンプ、電源、コントロールボードにおいて冗長性を持ち、かつホットスワップ(ニデック特許)でき、保守性、長期信頼性に優れている。

―― データセンターの需要回復時期をどう見ますか。
 小部 24年度中ごろからとみる。その根拠はGPUでは現在、米国大手のGPUが主流だが、24年度半ばごろには新モデルに切り替わると見込まれるからだ。

―― 半導体について。
 小部 半導体は内製化しようとすれば膨大な投資額を要する。そのため、投資に見合う規模が見込めない現状では、国内外問わず適切な半導体を調達していく方針に変わりはない。なお、川崎の半導体ソリューションセンターでは次世代E-Axle開発に向けたルネサス エレクトロニクスとの協業のように、必要に応じて適切なパートナーと組むこともあり得る。また、自国製半導体採用を優先する地域では柔軟に対応するなど、多様性の時代にどう順応していくかが問われる。

―― 今後の展望と抱負を。
 小部 24年度からは過去に蒔いた種が花開くタイミングであり、上昇基調に入ると見る。前述の伸びしろ以外にも、ソフトバンクなどと連携した空飛ぶ基地局(HAPS)、ブラジルのエンブラエルと合弁会社を設立した空飛ぶクルマ(eVTOL=電動垂直離着陸)、次世代型電動車いすなど向けの各種モーター製品、VR機器向けのUFFファンモーターなど中長期に伸長が見込める案件が目白押しだ。QCDS(品質、コスト、納期、サービス)を徹底しながら「180度真逆の発想」で世界を舞台に挑んでいく。


(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年1月25日号1面 掲載

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