電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第562回

東京応化工業(株) 代表取締役 取締役社長 種市順昭氏


長期ビジョンを引き上げ
先端分野の競争、「キャパ」も重要要素

2024/2/9

東京応化工業(株) 代表取締役 取締役社長 種市順昭氏
 2023年の半導体市場は過去にないレベルで在庫調整が行われて低迷し、各社ともに厳しい事態に直面した。半導体材料分野も例外ではない。フォトレジスト大手の東京応化工業(株)(川崎市中原区)も足元の業績は下方修正を余儀なくされた。ただ、半導体産業を取り巻く環境はここ数年で劇的な変貌を遂げ、中長期的な成長確度は非常に高いものといえる。代表取締役社長を務める種市順昭氏に現況や来期以降の展望、そして半導体材料業界の再編に対する意見を伺った。

―― まずは23年の振り返りからお願いします。
 種市 22年は非常に業績的にも良い年であったが、業界では22年下期からNANDフラッシュなどメモリー分野の減産が始まり、この影響が23年から出てきたかたちとなった。結果、これら減産措置の影響が当社業績にネガティブに働き、23年度(23年12月期)業績の下方修正を行っている。
 期初段階では売上高1875億円、営業利益310億円を見込んでいたが、上期の決算発表にあわせて、これを売上高1640億円(前年度比6.5%減)、営業利益235億円(同22.1%減)に見直した。

―― 半導体市場の在庫調整も一巡するなかで、足元の状況は。
 種市 23年10~12月期から最終需要も回復しつつあり、当社製品でいえばより川下に近い後工程関連製品から戻ってきた印象だ。ただ、回復のペースは緩やかであり、過去のピークに戻るには相応の時間がかかりそうだ。一方で、世界規模で半導体市場が拡大し、完全に変曲点を超えてきたことは確かで、社内でも当社が今後どういう成長ができるのか議論している。

―― 中長期での事業目標も変わりそうですか。
 種市 現在、当社が掲げている「TOK Vision 2030」は19年に議論し策定したもので、30年にありたい姿と同時に、定量的な目標として売上高2000億円、EBITDA450億円を掲げている。ただ、先ほど申し上げたとおり、半導体産業の成長ポテンシャルが切り上がっているなかで、現在それを見直している段階で、23年度の決算発表にあわせて、このアップデートを開示できればと思っている。

―― 24年通年業績の方向性は。
 種市 当社の業績に影響する顧客の稼働率はまだまだ回復途上であるが、下期にかけて尻上がりに回復してくるだろう。当社の業績もそれに従って回復する見込みである。

―― 主力のフォトレジスト事業の状況は。
 種市 フォトレジストなどで構成されるエレクトロニクス機能材料の売り上げは、23年度においては前年度比4.6%減の885億円を見込んでいる。うち、最先端のEUVレジストは着実にシェアを伸ばせている。23年も新たなPOR(Process of Record=顧客側ラインでの承認)を獲得できた。EUVは主力の台湾顧客に加えて、北米と韓国でも採用を増やしている。今後はDRAM分野に加えて、地域的には日本国内での需要拡大も見込める。EUVに関しては今後もシェアにこだわって事業を進めていきたい。一方、ArFレジストはなかなか案件が出にくくなってきている。ArFは新規工程が少ないのでシェア変動が起こりにくい。今後は訴求効果の高い提案を行って、既存製品の置き換えなどを進めていきたい。

―― 最先端分野での事業拡大で重要なポイントは。
 種市 当然のことながら、材料の性能をいかに上げていくのかという点は今も変わらない。加えて、最近はディフェクトコントロールに対する要求もシビアになってきている。そして近年大きく変わってきたのが、供給体制の整備だ。潤沢なキャパシティーを持つことが戦略的に非常に大事になってきている。

―― 具体的には。
 種市 例えば、顧客に対してサンプルを出して評価が良かった場合、間隔を空けずにすぐさま大量の追加注文がくる。キャパが足りずに「半年待って欲しい」と言えば「じゃあいらない」となってしまう。おそらく顧客のなかでは一番いい材料をすぐに導入して試すといった、開発サイクルが従来とは比べものにならないほど早くなっているのだと思う。極限レベルですり合わせが行われており、当社としても、しっかりこれに追従していけなければならないと思う。

―― EUVレジストの生産体制は。
開発の中軸を担う相模事業所
開発の中軸を担う相模事業所
 種市 研究開発の中心である相模事業所にパイロットラインを置き、ここで確立したものを国内の郡山工場、そして韓国子会社のTOK尖端材料社に展開している。また、高純度化学薬品に関しては熊本県菊池市で新工場の建設を現在進めており、24年5月に建屋が完成する見通しだ。その後、設備を導入し、年末にフラッシングを開始する予定だ。TSMCが建設を進めている熊本新工場(JASM)に向けて、当面は台湾拠点からの供給となるが、今後当社の新工場が立ち上がり、認定が取れ次第、ここから供給できる体制となる。

―― EUVではメタルレジスト(MOR)の動向も注目されています。
 種市 現在主力となっているCAR(化学増幅型レジスト)の改良を続けていくことが基本線だが、社内でも顧客ニーズに間に合うようにMORの開発も並行して進めている。EUVでは、高NA対応になった際にレジスト膜厚が薄くなるので吸収効率を上げる必要があり、MORの優位性が発揮できるとされている。

―― 半導体材料業界では再編の必要性が一部で叫ばれています。見解をお聞かせ下さい。
 種市 まず同業による合併や事業統合、すなわちレジストメーカー同士の再編については、規模の経済が働く分野とそうでない分野がある。レジストは極端に言えば20工程あれば20種類の違うレジストを使う。もっと極端なことを言えば20社分のレジストを使う。何が言いたいかというと、業界再編してスケールメリットを追うほど、レジストは付加価値が低下している分野ではないと思う。良いものを持ってきたサプライヤーに対して、顧客はしっかりと付加価値を認めていると思う。
 レジスト業界は日系企業がマーケットシェアの大半を握る分野だ。これが再編によって社数が減った場合、空いた評価枠はどこにいくかといえば、アジアだ。中国のレジストメーカーは我々が把握しているだけで9社存在する。結果的に再編はこうした新興企業にチャンスを与えることになってしまうと危惧している。

(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2024年2月8日号1面 掲載

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