商業施設新聞
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第418回

JR西日本SC開発(株) カンパニー統括本部 部長 兼 開発戦略部長 舟本恵氏


「バルチカ03」など開業迫る
“セレンディピティ”で価値提供

2024/2/13

JR西日本SC開発(株) カンパニー統括本部 部長 兼 開発戦略部長 舟本恵氏
 JR西日本SC開発(株)は、JR大阪駅を中核とする大阪ステーションシティのノースゲートビルディング内に商業施設「LUCUA osaka(ルクア大阪)」を展開している。同社のマーケティング戦略は精緻かつ的確で、今後開業するJR西日本グループの新施設にもその戦略が生かされる見通し。今回は大阪駅周辺における商業施設の市場動向や将来性などについて、カンパニー統括本部 部長 兼 開発戦略部長の舟本恵氏に話を聞いた。

―― 大阪駅周辺の商業施設マーケットを。
 舟本 2011~13年が1つ目の分岐点だ。11年春に「大丸梅田店」が増床し、「JR大阪三越伊勢丹」と「ルクア」が開業、12年に「阪急うめだ本店」が増床開業、13年に「グランフロント大阪」がオープンしたことで、店舗面積は一気に十数万m²増えた。競争過剰となり、JR大阪三越伊勢丹は撤退を余儀なくされた。
 2つ目の分岐点は15年のルクアイーレの誕生だ。ルクアは20代後半に向けてファッションに特化していたが、ルクアイーレはルクアを卒業した30~40代をメーンターゲットとし、2館合わせたルクア大阪として、「梅田蔦屋書店」や「バルチカ」などの時間消費型MDも導入するリーダー戦略を講じたことで商圏が広がった。その結果、大阪駅の乗降客数は2%増となり、周辺施設の来館者数も5%増えたと言われている。
 コロナ禍を経て3つ目の分岐点となる24~27年は、メルカリやサブスクなどのeコマースが台頭し、ウォレットシェアの奪い合いという別の競争軸が浮かび上がってきた。大阪駅周辺ではMICE、公園、ホテル、レジデンスなどを設けた「グラングリーン大阪」がまちびらきを迎え、商圏を広げるとともに、次のフェーズへと導いてくれるだろう。新時代を迎えるここ3~4年はすごく楽しみだ。

―― 貴社のマーケティング戦略について。
 舟本 消費者ニーズの細分化・多様化が進む中で、フィリップ・コトラーが提唱する競争地位別戦略を重視している。これはリーダー(全方位)戦略、チャレンジャー(差別化)戦略、フォロワー(模倣)戦略、ニッチャー(集中)戦略の4つがあり、ルクアは差別化戦略を採っていたが、ルクアイーレの開業に合わせてルクア大阪として全方位戦略を採用、24年夏以降に開業する「バルチカ03」や「うめきた新駅地上駅舎」は集中戦略を選択した。
 バルチカ03はオフィスビル「イノゲート大阪」の3~5階に設ける商業フロアであるが、賃貸面積が約1000坪と小ぶりなため、ニッチなMDやターゲットに絞った。具体的には、西梅田で働く30代後半~40代のサラリーマンは1000円以下でランチが食べられない、夜もリーズナブルに呑みに行けない状況にあり、この困り事を解消する琴線と、その琴線を提供するテナントを探し出し、50店の飲食店を誘致した。
 うめきた新駅地上駅舎は3階建てで、賃貸面積はバルチカ03よりも小さい施設となる。周辺は商業ビルばかりで路面店が少なく、開放感を演出するため、オープンテラスの店舗や風が感じられる店舗を誘致した。このように当社では商業施設を作るからテナントを呼ぶのではなく、消費者のペインポイントを起点に、困り事を見つけ、それを解消するテナントを探し出し、商業施設を作るという流れを取る。

―― 現在、大阪駅周辺で不足しているものは。
 舟本 ルクア大阪でマーケット調査を実施した結果、新たな価値を求める消費者が多かった。情報過多故に受動的な情報を遮断する傾向にある現代、お客様はセレンディピティ(偶然の出来事による幸せ)に飢えており、リアル店舗にセレンディピティが求められている。そのため、当社では(1)売り場に磨きをかける、(2)デジタルとの融合の2つに取り組んだ。
 (1)ではコロナ禍が明け、外出機会が増えたことでコスメやギフトの需要が拡大した。コスメが少し不足していたルクアイーレには、プチプラやデパコスを扱う「アットコスメ」を導入した。また、プチギフトに使える食品ゾーンとして、ルクアイーレの2階に新たなスイーツゾーンを新設するなど、売り場の再編集を行った。
 (2)ではインスタで「トキメキデパート」を運営している。フォロワーから集めた気持ちをイラストで発信するもので、共感のいいねが9000付くこともある。新しい店舗やサービスを作る妄想ショップも展開しており、「ほめるBar」や「お坊さん喫茶」では訪れたお客様の買上金額が1.9倍に拡大した。トキメキや妄想で熱量が上昇し、モノの価値も上がることから、新たな出会いを発見してもらえる場と捉えている。

―― 将来性について。
 舟本 今後は「KITTE大阪」やグラングリーン大阪に加え、JR西日本グループの新施設も開業するので、それぞれの施設が得意分野ですみ分けを図り、グローバル都市を形成していく。エリア間競争よりも関西、西日本のポテンシャルの牽引役として、高い意識で商業開発に臨みたい。テナント各社に対しては、今後、チェーンオペレーションと専門性の両立が求められるだろう。

(聞き手・副編集長 岡田光)
商業施設新聞2531号(2024年1月30日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.427

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