電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第565回

(株)村田製作所 代表取締役社長 中島規巨氏


AI関連の押し上げに期待
高周波は次世代技術を投入

2024/3/1

(株)村田製作所 代表取締役社長 中島規巨氏
 (株)村田製作所(京都府長岡京市)は、2024年の市況をスマートフォン(スマホ)の回復や電動化が進む自動車が牽引するとみている。高周波モジュールは、いよいよ次世代技術の投入が始まる見通しで、市場シェアの奪還に向けた大きな一歩となる。代表取締役社長を務める中島規巨氏に今後の展望や事業戦略を聞いた。

―― 年始の能登半島地震では北陸の拠点が被災しました。
 中島 当社は北陸に13拠点を置いているが、2月上旬までに震源に近い能登半島のワクラ村田製作所(石川県七尾市)と穴水村田製作所(石川県穴水町)以外は生産を再開した。樹脂多層基板「メトロサーク」を生産するワクラ村田製作所は、3月上旬から順次生産を再開予定だ。他拠点での代替生産により、供給への影響はほぼない見通しだ。一方、チップインダクターなどを生産する穴水村田製作所は建物や設備に被害があり、その補修のため生産再開は5月中旬以降になる。

―― 今回の地震を受け、BCPの考え方に変更は。
 中島 以前から生産の多拠点化を進めていたが、依然として顧客認定の関係で1工場生産の製品が残っている。改めてリスクを認識したため、顧客の認定を進めて生産の複線化を進める方針だ。

―― 24年の市況について。
 中島 スマホと自動車が堅調に推移するとみており、これらが牽引していく。一方で、PCや家電、産業機器市場は力強さがない。スマホは低調だった中国メーカーがインドや南米、アフリカなどへの輸出を増やしている。これらはミドル、ローエンドの端末だが、積層セラミックコンデンサー(MLCC)やインダクターなどの部品販売に一定の貢献を見込んでいる。当社はこれらのボリュームゾーンを押さえていく戦略を変えておらず、競合と比べても技術的な優位性があると考えている。技術的アドバンテージに加えて設計や生産性向上、コストダウンでより先行し、高い競争力を保っていく。

―― 電気自動車の伸びに遅れが指摘されています。
 中島 欧米の一部でそうした話はあるが、全体として電動化の動きは変わっていない。中長期的にも電動化トレンドは続くと予想される。また、ADASやインフォテインメント向けの員数増加は続いており、需要拡大につながっている。

―― 自動運転ではMEMSセンサーの伸びが期待されます。
 中島 フィンランドの子会社で生産しているが、車載システム向けの加速度センサーとして世界トップシェアを誇る。自動運転レベル3以降では必須デバイスになるとみられ、自動運転技術の発展でより大きなアドバンテージを発揮できると期待している。

―― 民生分野ではAIを搭載する動きがあります。
 中島 ハイエンドスマホに翻訳やカメラ画像処理機能を搭載する動きが出てきている。現状はソフトウエアベースでハード構成が大きく変わるものではないが、ハイエンドスマホの販売を押し上げる効果が期待できる。また、スマホからタブレット、PCへAI機能の搭載が広がり、それに伴ってデータセンターにも恩恵が見込めるだろう。現状では市場に受け入れられるかは不透明だが、拡大に期待したい。

―― 高周波モジュールの状況は。
 中島 次世代フィルターの「XBAR」が、Wi-Fi7や8対応技術として24年モデルの一部に搭載される予定だ。25年には大手顧客の新プラットフォームに採用されてシェアを拡大できる見込みで、競合に逆転する一手となる。

―― それ以降に向けた技術の仕込みは。
 中島 高周波回路の低消費電力化を実現する「Digital ET技術」の評価を進めている。実採用は顧客の判断によるが、より低消費電力が求められる小型機器で優位性を発揮できるのではないか。
 また、27年ごろからは6Gが現実味を帯びてくる。当社は国際電気通信連合(ITU)などにおける規格策定に参画しており、想定される周波数帯に対応したフィルターをいち早く投入していく。現状、利用が見込まれる8GHz帯ではXBARで対応できる。将来的に利用が想定されるTHz帯に対しても、基礎研究を進めている。

―― 電池事業の収益改善について。
 中島 リチウムイオン電池(LiB)事業はパワーツールに絞ってきたが、業界がコロナ禍に伴う需要トレンドを読み違え過剰在庫を抱えてしまった。24年上期までは調整が続くが、下期以降には正常化して収益改善に向かう見通しだ。25年度の黒字化を目指す。

―― 全固体電池は。
 中島 LiBでは対応できない高温環境をターゲットとしているが、依然として課題がある。そのため、材料の基礎的な開発に立ち返って研究に取り組んでおり、市場投入にはまだ時間を要する見込みだ。

―― MLCCは年率10%の増強ペースを維持しています。
 中島 3月から出雲村田製作所(島根県出雲市)で新生産棟の建設を開始し、26年3月に竣工を予定している。国内では出雲と福井を主要エリアとし、海外では中国、タイ、シンガポール、フィリピンで生産を増強していく。顧客ニーズを見据え、さらなる新拠点の設立も検討する。

―― 24年度設備投資は。
 中島 2000億~2300億円を想定している。MLCCやインダクターを中心に投じるが、高周波フィルターの増強も需要が伸びれば検討していく。

―― 24年度までの「中期方針2024」における戦略投資の実行状況を。
 中島 DX投資は計画どおりだが、環境投資は各拠点への蓄電システムの導入を加速させたい。また、将来技術の獲得や3層目に位置づけるソリューションビジネスのスケール化に向けた投資も検討する。

―― 3層目の進捗は。
 中島 工場向けの予知保全・予防保全や東南アジアにおける交通量可視化システムなど、候補はかなり絞られてきた。後は課金方法や他社との協業などビジネスモデルの検討だ。当社単独では困難な領域になってきているものも多く、外部の協力を得て事業化に取り組む。

―― 長期の取り組みは。
 中島 中期方針2024とともに策定した「Vision2030」は、その後の市況変動を受けても変えていない。未来のデジタル社会を支える通信堅牢性やさらなる軽薄短小といった差別化技術の推進と、ボリュームゾーンへの対応を別次元で進める必要がある。25年度に始まる次の3カ年計画に向け、「不連続の成長」を創出するための取り組みを加速させたい。

(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2024年2月2月29日号1面 掲載


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