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第215回

日立化成(株) 機能材料事業本部 透明導電材料ビジネスユニット 部長代理 山崎宏氏


TCTFで有機EL市場開拓へ
独自の転写技術でフレキ化実現

2017/3/31

日立化成(株) 機能材料事業本部 透明導電材料ビジネスユニット 部長代理 山崎宏氏
 日立化成(株)(東京都千代田区丸の内1-9-2、Tel.03-5533-7000)は、1月1日付でタッチパネル向け透明層間充填フィルム「ファインセット」事業を上海航日化学有限公司に譲渡し、今後は経営資源を転写形透明導電フィルム「Transparent Conductive Transfer Film(TCTF)」などに投じることを発表した。TCTFはタッチパネル向けの透明導電材料で、有機ELへの搭載など今後の展開が注目されている。機能材料事業本部 透明導電材料ビジネスユニット 部長代理の山崎宏氏に話を伺った。

―― 透明導電材料の概要から教えて下さい。
 山崎 透明導電材料ビジネスユニットは、導電技術と透明技術を用いてディスプレー・タッチパネル向け材料を扱っている。導電技術には異方性導電フィルム(ACF)、透明技術には光学透明粘着剤(OCA)やレジン(OCR)、TCTFを展開している。これらに加え、液晶ディスプレーの広色域化を実現する光学フィルムとして量子ドットフィルムなども扱っている。

―― ファインセット事業を譲渡した背景は。
 山崎 値崩れが激しく、コストダウン要請が強くなったことが主因だが、ITOフィルムを含めて生産できる海外メーカーが増加し、当社として差別化すべき領域を絞り込む必要があると判断したためだ。
 一方、TCTFは転写という独自の製造プロセスを提案できるため、他社との差別化が可能だ。今後のベンダブルやフォルダブルの流れや、有機ELディスプレーの偏光板に直接形成するといった様々な用途展開が見込まれるため、ここにリソースを集中的に投入することにした。

―― TCTFについて。
 山崎 キャリアフィルム上に銀ナノワイヤーなどの導電材料、この上に透明感光樹脂を形成し、カバーフィルムをつけたもので、全体の厚みは5μm。透明感光性樹脂の厚みは調整可能なので、ユーザーにはロール状で供給している。ユーザーが、これを基材に貼り付けて露光すれば、最終的に回路パターンだけが基材に残るという仕組みだ。副資材であるカバーフィルムやキャリアフィルムの厚みを気にせず、タッチ機能の回路を形成することができる。

日本電産サンキョーのパネル搬送ロボット
フィルムの構成と電極形成プロセス

―― ディスプレーの薄型化に寄与しますね。
 山崎 TCTFはITOで必要なアニーリングが不要で、OCAも入らないため、材料費やプロセス数を削減することができる。ロール状で供給するため、ロール・ツー・ロールで生産することができ、生産効率も高い。UVキュアが必要だが、全体を通して100℃程度の低温プロセスで回路を形成できるため、貼り合わせる基材が偏光板であっても特性を損ねることがない。

―― 導電材料に関しては米カンブリオス・テクノロジーズや米C3nanoと提携しています。
 山崎 導電材料の供給元はこの2社以外にもあり、ユーザーの求める光学仕様などに応じて使い分けている。ITOの骨見えと同様に、銀に関しては乳白色に見えてしまう「ミルキーフェイス」という現象が課題とされてきた。当社はOCAとの最適なマッチングでこれを解消し、ITOと遜色ないという評価をいただいている。もちろん、シート抵抗値を現状のITOなどで一般的な50Ωから下げてほしいといった要望にも対応している。

―― 有機ELディスプレー向けの引き合いが多いそうですね。
 山崎 中国を中心とする近年の有機ELの投資の増加により、引き合いが多くなっている。液晶はタッチセンサーのインセル化が可能だったが、有機ELではそれができないし、フレキシブル化にも対応する必要があるため、TCTFに大変注目していただいている。低温で転写可能な技術をうまく活用できるところを見出していただけたという印象だ。まだ評価中だが、2018年には量産採用にこぎつけたい。

―― 供給体制について。
 山崎 専用ラインを山崎事業所(山崎)に設置している。当社の感光性フィルム「フォテック」で培った塗工ノウハウを活用しており、十分な生産能力がある。サイズとしてはテレビサイズまでカバーできる。

―― 研究課題は。
 山崎 抵抗値をさらに下げるには銀の量を増やさなければならず、ミルキーフェイスを誘発してしまうため、いい頃合いを探し出す技術の開発に引き続き取り組んでいる。フォルダブル製品への搭載を視野に折り曲げ試験も行っており、現時点では10万回以上の折り曲げをクリアしている。

―― 今後の展開は。
 山崎 独自の転写技術は最終製品の価格に寄与できる。これを強みに、タッチセンサー電極の主要構成材となれるように、複数社とやりとりしている。17年度はしっかりとプロジェクトを進行し、フォルダブルが製品化した時には市場シェアを取れるような布石を打っていきたい。

(聞き手・編集長 津村明宏/細田美佳記者)
(本紙2017年3月31日号6面 掲載)

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