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第300回

東京工業大学 学長 工学博士/エレクトロニクス実装 学会 会長 益一哉氏


JIEPは今年で20周年
経団連主導の研究ファンドを

2018/11/22

東京工業大学 学長 工学博士/エレクトロニクス実装 学会 会長 益一哉氏
 エレクトロニクス実装学会(JIEP)が発足して、今年で20周年を迎える。ハイブリッドマイクロエレクトロニクス協会とプリント回路学会が1998年に統合して、JIEPが誕生した。この間、日本の半導体や家電といったエレクトロニクス産業は地盤沈下し、韓国や台湾などアジア各国の後塵を拝するようになる。しかし、IoT/AI技術が台頭し、多様なエレクトロニクス機器の開発が進められ、その実装形態も自ずと多種多様化する時代が来ている。従来のようなプリント配線板にデバイスをはんだで実装するような時代から、3次元形状や水の中、人間の皮膚にまで貼り付けられるような、「どこでも」「なんにでも」実装できる時代・技術が求められてくる。東京工業大学の学長で、JIEPの会長も務める益一哉氏に様々な話を伺った。

―― JIEPのミッションから伺います。
 益 本格的なIoT社会の到来を控え、新たなモノづくりや実装技術への期待が膨らんでいます。これを踏まえ、エレクトロニクス実装分野の要素技術をさらに深めていき、産業界や社会に貢献していきます。現在、学会は内閣府の管轄になっていますが、以前はほとんどの学会は文科省管轄で、JIEPは経産省の管轄する唯一の学会でした。

―― 学会の活性化など具体的な方策や方向感を教えて下さい。
 益 現在のエレクトロニクス産業における、日本の置かれている状況を考えると、今後は分野横断でやっていかないと生き残れないと思います。これだけ時代や技術が大きく変化するなかでは、学会活動も多様性を理解しないと成長しません。
 会員数は約2000人ですが、もともと産業界の会員が多く、全体の8割を占めています。これからは相対的に大学関係者などアカデミア団体からの会員も増やしていきたいです。

―― 技術や産業界の活性化につなげるためには何が必要ですか。
 益 技術も市場も多様化してきているので、学会がいつまでも自分の殻に閉じこもっているのではなく、我々も変わらないといけません。これまで以上に情報交換して積極的な活動につなげる必要があります。
 異なる学会組織同士でも積極的に交流することが大事です。実際に、19年春のJIEP春季講演大会では応用物理学会からも参加してもらい、色々なシンポジウムやワークショップの開催につなげていきます。JIEPの会員も応用物理学会に参加して、様々な活動につなげたい。他のエレクトロニクス系の学会では、アカデミアの関係者が多いので、産業界比率の高いJIEPとの協力は相手方にとっても有用だと思います。

―― 今年でJIEPは創立20周年を迎えます。
 益 学会としてこれまでの存在意義を改めて見直すきっかけにし、これからどこに行くのか、しっかりと考える節目にします。
 記念式典も予定しています。開催は11月28日(水)14時30分からで、東京工業大学(大岡山キャンパス)で行います。式典のほか記念の技術講演もお願いしています。できるだけ数多くの方々に参加してもらい、今後の実装技術をもう一度日本から発信し、産業界とともにリーダーシップを発揮できる新たなスタートにしたいです。

―― IoT/AI時代には、これまで以上の高性能な端末も登場しそうですが、どのような実装技術が必要になるとお考えですか。
 益 IoT時代には、ビジネスの立ち上げも変化します。ビジネスをリードするには、アイデアからプロトタイプ開発、量産、販売までの同時進行が必要です。最終応用事例や実際に使うことをイメージしながら一気に立ち上げることを考えなくてはいけません。
 また、従来のような平面のプリント基板上に半導体や電子デバイスをはんだで実装する常識を超え、「どこでも」「なんにでも」実装できる技術が求められるようになってきます。水の中や、人間の体の一部とか、これまでの実装技術では対応できなかった領域や分野でもエレクトロニクス技術との融合が求められてくるのではないかと考えています。

―― 益会長は産学連携にも積極的ですね。
 益 大学や業界プロジェクトにまとまった予算を出すべき時期にきていると思います。その際には半導体理工学研究センター(STARC)の運営手法が大いに参考になります。
 同組織は1995年12月に国内半導体メーカーらと大学組織が共同開発する組織体として発足し、数々の成果を生み出しました。純粋に民間企業の資金で運営され、研究や人材を育成することに成功しました。Society5.0といった新たな社会基盤の確立などに寄与する志も結集し、オープンイノベーションの視点も取り込みながら、民間主導の研究開発ファンドを設立してはどうでしょう。

―― 民間主導の研究開発ファンドとは。
 益 16年に当時の経団連会長の榊原氏は、企業から国内の大学・研究開発法人への投資を25年度までには少なくとも現状の3倍(約2600億円)まで引き上げる必要があると指摘しています。
 そこで、例えば経団連が主体となって純粋に民間の研究ファンドを設立することを提案したい。年間500億円規模のまとまった資金があれば、大学の現場の雰囲気も士気も大きく変わります。この金額は、企業の研究費総額からすれば0.3%に過ぎません。民間も大学も互いに覚悟を決めて、一緒にやるべきだと思います。STARCにならって、企業側から研究員を派遣するかたちで研究の進捗管理をすれば資金の出しっぱなしにはなりません。
 地方の大学にもユニークな研究を行っている人材が数多くいます。STARCモデルは提案型ですので、これらを発掘することができます。有名大学や大物研究者に資金を一極集中させるばかりではなく、地道に日本の大学の底上げを図っていく発想も必要です。

―― JIEPとして国際交流を推進するお考えは。
 益 10月下旬、台湾のIMPACTにJIEPから人を送り、交流や様々なセッションを行いました。また、ベトナムのMEMS・センサー関連のIWMS2018で講演を実施し、交流を深めました。IEEEのEPS(Electronics Packaging Society)とは仲良くしていきたいです。
 日本はGDP3位の国で、半導体市場シェアもまだ一定程度は持っており、まだまだ日本の存在感は高い。アジアの国々のアカデミアや学会組織と連帯して、日本が主導して情報や技術発信を出し続けることが重要です。日本は独自性を保ち、各国と協調していくという気概を持ち続けてやっていくことが大切です。
 日本に来たいアジアの学生は多く、優秀な若者や学生を日本の大学や産業界はもっと活用しないといけないと考えます。

―― 東工大の学長も務めておられます。教育や人材育成については。
 益 東工大として我々は一流の科学者、研究者であるとの自負心をもち、専門教育を行ってきました。それ以上に強化しているのがリベラルアーツ(教養課程)教育です。学士課程から修士、さらには博士課程においてもリベラルアーツ教育を必修化し、超一流の文化人教員による講義のほか、少人数での徹底的なディスカッションも取り入れ、人間性や社会性でも一流の志を持った理工系人材の育成に注力しています。また学問分野の横断的なインターディシプリン(学際的)な教育にも注力しています。

―― 東工大では大学改革も本腰を入れて実施されてきましたね。
 益 本学では教育、研究、ガバナンスの改革を12~17年度にかけて強力に推進してきました。特に教育改革に注力しました。学部と大学院を統一し「学院」を6つ設置しました。これらの成果が徐々に出てきています。学長のリーダーシップの確立も含めてガバナンス改革も進めてきました。
 従来の研究に特化した研究組織を改めて、より大きなカテゴリーで研究できる科学技術創成研究院を創設し、これはと思う研究テーマには、ヒト・モノ・資金を重点的に支援できる組織体制にしました。その走りが、16年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授を擁する細胞工学研究センターです。

―― 東工大の産学連携が注目されています。
 益 ほんの一例ですが、細野秀雄教授グループが発明した優れた触媒を用いたオンサイト型のアンモニア合成システムの実用化を目指し、17年4月に味の素らとベンチャー企業を設立しました。さらには、電池の安全性を格段に向上し、次世代EV電池として本命視されている全固体LiBでも菅野了次教授が成果を上げています。また、西森秀稔教授はグーグルやNASAが導入済みの量子コンピューターの「量子アニーリング」原理を考案しました。19年4月には東北大、デンソーらと共同で量子コンピューターによって社会課題の解決を探るコンソーシアムの立ち上げを目指します。
 さらなる研究力強化も大事です。東工大と一緒にやろうとお考えの企業がいれば、私がトップセールスに出向きます(笑)。

(聞き手・副編集長 野村和広)

◇  ◇  ◇

【益一哉氏のプロフィール】1982年東京工業大学博士号取得、その後東北大で18年教鞭・研究活動、2000年から東工大教授、09年応用物理学会フェロー、13年電気学会フェロー、15年電子情報通信学会フェロー、16年から科学技術創成研究院の院長を2年歴任し、17年にJIEP会長、18年4月から東工大学長に就任、現在に至る。

(本紙2018年11月22日号1面 掲載)

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