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第347回

東レ(株) フィルム事業本部 BSF事業部門長 柳瀬秀夫氏


セパレーター 高品質・性能で差別化
車載が主力で欧州に生産拠点

2019/11/1

東レ(株) フィルム事業本部 BSF事業部門長 柳瀬秀夫氏
 合成繊維・樹脂、炭素繊維、フィルム製品などを手がける大手化学品メーカーの東レ(株)(東京都中央区日本橋室町2-1-1、Tel.03-3245-5111)。リチウムイオン電池(LiB)では車載や民生機器向けに湿式セパレーターを取り扱っており、高品質・高性能で競合他社と差別化を図っている。今後、車載向けで需要が高まる欧州市場ではいち早くハンガリー工場を建設するなど、生産体制も強化している。LiB用セパレーター事業について、フィルム事業本部 BSF事業部門長の柳瀬秀夫氏に話を聞いた。

―― 事業の背景から。
BSFの外観
BSFの外観
 柳瀬 当初、旧東燃ゼネラル石油(株)(現JXTGグループ)傘下の東燃機能膜合同会社に出資して事業に参入した。具体的には、2010年1月に当社と東燃ゼネラル石油共同出資により、LiB用バッテリーセパレーターフィルム(BSF)を製造・販売する「東レ東燃機能膜合同会社」(栃木県那須塩原市)を設立した。12年には東燃ゼネラル石油出資分の償還により当社の100%出資の子会社「東レバッテリーセパレータフィルム合同会社」となり、また同年に商号を株式会社に変更した。
 東燃化学は1984年から微多孔膜の研究開発を開始し、88年にBSFパイロット工場、90年に生産工場を稼働させた。91年にソニー(株)が世界で初めてLiBを商品化した際には同社にBSFの供給を開始した。

―― 製品について。
 柳瀬 湿式二軸延伸ポリエチレン(PE)フィルム「SETELA(セティーラ)」を取り扱っている。「SE」は「離れた・離す」機能を表し、「TELA」はラテン語で「織物・組織・特に繊細なもの」といった微細構造を表現している。製造方法は、ポリエチレンと可塑剤(フィラー)を加熱・混合し、押し出してフィルムを形成し、二軸延伸してフィルム構造を制御後に溶剤で可塑剤を溶かすものだ。PEは複数枚積層し、BSFに特殊なコーティングを施すことにより、高い耐熱性や熱による収縮低減などの特性を付与する。

―― 特徴は。
 柳瀬 BSFの役割は、リチウムイオンが正極と負極を行き来する際にショートすることがないように両極を分離するものだが、同時に異常電流が流れた場合に発熱で細孔が閉鎖され、電流を遮断することで安全性を確保する。要求としてはシャットダウン温度の低減とメルトダウン温度の向上が挙げられるが、セティーラはそのいずれにも対応する。また、独自の製膜技術によって孔径と物性を高度に制御できる。膜厚は25μm以下で幅広く対応し、業界最薄レベルとなる3μmも達成している。

―― 用途は。
 柳瀬 ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車といった車載、スマートフォン、タブレット端末、ノートPC、デジカメなどの民生機器、それに無停電電源装置(UPS)、無線基地局、エネルギー貯蔵システム(ESS)、建設機械、電動工具など幅広い。うち車載が7割程度を占め、次に民生機器と続く。車載は主にアジアや欧米市場が中心で、今後は欧州市場がさらに伸びていく見込みだ。

―― 生産体制について。
 柳瀬 栃木県の那須工場と韓国・亀尾の東レバッテリーセパレータフィルム韓国で製膜・スリッティング・コーティング工程、韓国・梧倉の東レBSFコーティング韓国でコーティング工程を行っている。
 また、ハンガリー・ニェルゲシュウイファルの東レハンガリー内にBSF製造ラインを建設中で、21年7月から稼働を開始する予定だ。全体の生産能力は年産6億5000万m²(18年3月時点)だが、20年以降にこれを3倍に拡張していく計画だ。
 また先述のように、今後は欧州車載市場が拡大していく見込みだが、ハンガリー工場はその重要拠点と位置づけている。当初、欧州市場には韓国拠点から供給するが、本格的な操業以降はハンガリー工場から提供していく。

―― LiB高性能化に向けた取り組みを。
 柳瀬 LiBの高出力化、高エネルギー密度化、高安定性に向けて製品開発を行っている。具体的には、高出力化に対してはリチウムイオンが容易に伝導する高透過性、高エネルギー密度化には薄膜・高強度化を図っている。高安全性には熱的安全性や安全機構を追求している。

(聞き手・東哲也記者)
(本紙2019年10月31日号1面 掲載)

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