電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第464回

(株)村田製作所 代表取締役社長 中島規巨氏


24年度に売上2兆円目指す
高周波・通信は中期に成長見込み

2022/2/25

(株)村田製作所 代表取締役社長 中島規巨氏
 2021年度に過去最高の売上・営業利益達成を計画する(株)村田製作所。22~24年度を期間とする新中期方針では売上高2兆円、営業利益率20%以上の目標を掲げており、半導体不足など市場の不透明感が強まるなかでも持続的な成長を目指している。代表取締役社長の中島規巨氏に市場の展望や同社の戦略を聞いた。

―― 21年度の動向から。
 中島 21年度は売上高1兆7700億円(前年度比9%増)、営業利益4100億円(同31%増)を計画している。上期に顧客の在庫水準が上がったことで、セット需要以上の取り込みがあった。21年9月以降は実需ベースに落ち着いているが、しばらくは高い在庫水準が保たれるとみられる。また、ハイエンドスマートフォン(スマホ)や自動車の安全・電動化関連の好調、リモート需要の拡大に伴う堅調なパソコン関連向け売り上げ、代理店の在庫積み上げの動きが追い風になっている。これらを背景に、半導体不足などでスマホや自動車の台数がマイナス成長を見込むなかでも当社は高成長を達成できる見通しだ。

―― 22年の見通しは。
 中島 サプライチェーンの逼迫と中国の景況が不安要素だ。半導体不足はセットメーカーが設計を見直したり、厳しい調達状況を前提とした生産計画を組むことで徐々に緩和されるとみている。一方、中国は低調が続くスマホの回復時期がカギだ。新しいプラットフォームの搭載機種が出てくる、夏ごろから回復してくると予想している。これを見越して、例年は閑散期となる1~3月期に積層セラミックコンデンサー(MLCC)をフル生産して在庫を積み上げる。これらの不透明感はあるが、22年度は売上高の年率5%の成長を目指したい。

―― 製品別の状況について。まずMLCCから。
 中島 モバイル機器は小型大容量化、車載は高信頼化ニーズへの対応に注力する。車載は現状、高信頼領域での競合があまりなく、高収益を実現できている。ボリュームゾーンを押さえたトップシェアの堅持と高付加価値化による差別化の両にらみで展開するが、中国が国家戦略として取り組んでいることもあり、いつまでボリューム確保にこだわるかは検討課題だ。ただ当面は能力負荷ベースで年率10%の増強を維持していく。

―― 高周波モジュールは。
 中島 コロナ禍における顧客対応の難しさがあり、21年はシェアを落としてしまった。22年は巻き返しを図って底を脱する見込みだが、想定していたほどではない。23年までは特性で勝負するしかなく、盤面をひっくり返すまでには至らないと考えている。ミリ波の普及も想定より遅れているが、24年ごろまでに徐々に広がると予想している。
 中期的にみると、24年以降にプラットフォームの転換をきっかけとして一気にシェア拡大が期待できる。フィルター特性を改善できるXBAR技術や、高周波回路を低消費電力化できるDigital ET技術など、近年さまざまな技術に取り込んできている。

―― 樹脂多層基板「メトロサーク」も広がってきている。
 中島 ミリ波用モジュール向けに量産が始まっているほか、水を吸わない特徴が評価されてUWB(Ultra Wide Band)にも採用の動きがある。既存の大手顧客以外にも広がりつつある印象だ。今後は競合技術のMPI(変性ポリイミド)に勝る特性をアピールしつつ、価格面でも対抗できるようにコストダウンを進めて採用拡大を目指す。

―― 電池は積極的に増産投資を進めている。
 中島 リチウムイオン電池(LiB)が電動工具などパワーツール向けに好調で、22年度も増産投資を続ける計画だ。このため、事業の黒字化は先送りを余儀なくされている。また、全固体電池は高温環境で使用される産業機器向けに供給する予定だが、特性改善に時間を要しており量産化は22年度にずれ込む。当社の全固体電池は酸化物系としては他社比で100倍もの高容量を実現し、実採用が始まれば特徴を活かしてワイヤレスイヤホンなどに展開が進むと考えている。

―― 新中期方針ではソリューションビジネスの方向性確立を目指している。
 中島 3層に区分した製品ポートフォリオにおいて、第1層のコンポーネント、第2層のデバイス・モジュールに続く第3層目に位置づけている。通信やセンサーを応用した設備の予防保全、作業者モニタリングなどの取り組みを始め、収集したデータの活用も行っている。ビジネスモデルも検討して25年以降の本格事業立ち上げを目指したい。他社との協業やM&Aなど、あらゆる手段を駆使して取り組んでいく。

―― 設備投資の方針は。
 中島 22~24年度に6400億円を投資し、うち1000億円を土地と建物に充てる。MLCCの増産に加え、車載向けに伸びているインダクターにも一定の投資を行う。22年度は半導体不足で一部遅れている開発設備がずれ込むので、21年度比で横ばいかやや増加する。23~24年度にはMLCCのベースアップや高周波モジュールなどが加わるため、投資額は尻上がりになると想定している。

―― 中期方針では戦略投資枠も設定している。
 中島 3年間に2300億円を投資する。2層目の製品の差異化を目的とした新技術の獲得、拠点の100%再エネルギー化などの環境投資、スマートファクトリーなどDX推進の3つをテーマとする。3分野にどう投資を配分するかを今後検討していく。

―― 工場スマート化の方向性を。
 中島 基本方針として、自動化ありきではなく稼働率向上が目的となる。スマートファクトリー化が遅れているとは思わないが、人に頼る部分が大きいことを認識している。そのため自動化や省人化に加え、リモート化も推進していく。また、これまで各拠点でばらつきがあった生産システムも国内外の工場で標準化を進めていく。

―― コロナ禍や物流逼迫で国内外の生産比率を見直す可能性は。
 中島 当社の生産体制は国内65%、海外35%と国内比率が高い。開発から量産まで垂直立ち上げを求められる製品が多く、当面は国内マザーを中心とした生産体制は変えない方針だ。

(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2022年2月24日号1面 掲載

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