商業施設新聞
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第320回

(株)JR宮崎シティ 代表取締役社長 黒川哲氏


アミュプラザみやざき
開業1年 中心市街地回遊性に寄与
社会的存在価値が施設評価を体現

2022/3/1

(株)JR宮崎シティ 代表取締役社長 黒川哲氏
 JR九州は2020年11月20日、「アミュプラザみやざき」をグランドオープンした。JR宮崎駅西口の「うみ館」(10階建て)、「やま館」(6階建て)、宮崎駅高架下の「ひむか きらめき市場」の3施設からなる。新型コロナウイルスが猛威を振るう中で、開業から1年が経過した。施設運営を担う(株)JR宮崎シティ代表取締役社長の黒川哲氏に振り返りや今後の展開などを聞いた。

―― アミュプラザみやざきの概要から。
 黒川 足元商圏人口は厚いが、宮崎駅の乗降客は1日7500人程度。そもそも1日の乗降客数は九州域内全駅を足しても渋谷駅のそれに及ばない中、JR九州は様々な「アミュプラザ」を開発してきた。多くが数万m²規模の重装備箱型SCだが、当館は3施設で構成され、店舗数も計101店の小型SCで、中心市街地の活性化を目指す、今までにないスタイルだ。
 大型郊外SCが駅から3kmほどにあるが、中心市街地がその影響を受けた。それを活性化させたい要望から、地場の宮崎交通との共同事業で開発した。行政とも組み、駅前広場を県が整備、市はグリーンスローモビリティという新交通システムを走らせた。駅前商店街、通称「あみーろーど」に若い経営者が増え、開発が決定した段階から商店街の空き区画が埋まってきた。

―― コロナで思うようにいかなかったのでは。
 黒川 開業時が感染第3波の入り口で、営業時間短縮やアルコール提供の自粛、イベント開催が制限された。施設を作る際、マーケティング戦略を仔細に組み上げるが、それはあくまでも仮説。開業して最初の数カ月で売れ行きなどから状況を分析し戦略を修正するが、これがほとんどできなかった。東京や福岡で流行する都市型ブランドへの反応は鈍かったが、違うところに価値を認めたり、求める要素が多々あると感じた。

―― 具体的には。
 黒川 まずは豊かな自然環境、温暖な気候、豊富な食材。有名なマンゴーのほか、私は鹿児島出身だが、見たことがない野菜も多い。鶏、牛、豚は全国的なブランドだし、海に近いから魚も豊富。そして争いごとを好まない、地元愛が強い、コミュニティを大事にする民度を感じた。

―― ライフスタイルは。
 黒川 宮崎の人が持つ人間性がここに住みたいと思わせるようで、移住率は九州トップクラス。そして海、山に恵まれゴルフやフィッシング、自転車が盛んである。サーフィン愛好家も多く、自転車でサーフボードを抱えてビーチに行く。学校の部活にサーフィン部があるほどだ。県内は一次産業が中心で、オフィスワーカーは宮崎市内に多い。うみ館も上層階はオフィスで、大半はIT企業が入居する。朝サーフィンを楽しんでから出社する人も少なくないという。街中にアウトドアフィールドが広がっているかのようで、ゆえに都市型ファッションは馴染みにくいという印象を持った。

―― 館の運営は。
 黒川 興味深いのが、有名人が宣伝しているブランドよりも、“顔の見える人”がプッシュする方を好む傾向にある。JRのカード会員入会でショッピングチケットを進呈しているが、1000円分を進呈されるより、お友達からの紹介でお友達と入会者それぞれ500円分進呈される方が好まれる。地元のFMパーソナリティやテレビ局アナウンサーを起用し、番組内で紹介するとその商品への問い合わせが増える。一方、店内に人がいないと遠慮して入ってこないが、たくさんいると入る。接客もガツガツではなく、親近感を持ってやる。「○○初」は地方都市ではそう売れないが、それが一段と強い。そのブランドと自分の関係性、誰が売っているのかを大切する。

―― 地域との関わりは。
 黒川 ショッピングセンターはあくまでも商店街を模倣したに過ぎず、老舗や馴染みのお客様を抱えて地域の文化を内包する中心市街地との連携が不可欠。コロナ禍が沈静化した21年10月以降、イベントを相次ぎ打ったところ、中心市街地でご商売されている方々にご出店いただいた。反響は大きく、知り合いが来たり、SNSで発信するなど、「こんな時期にこういうイベントで売り上げが上がり助かりました」というお声をいただいた。アミュプラザで行うイベントはみんなで盛り上げようという機運が生まれた。社会的存在価値が施設の評価になりうる。ウィズコロナ時代にはこうしたことが重要なのではと、私自身、重装備型の施設開発に多く携わってきたが、それを強く感じた。

―― 成果は。
 黒川 売り上げ計画は未達だったが、イベントや駐車場の運営を月極に変えるなど、仕組みづくりに注力した結果、ミッションのひとつである中心市街地の回遊性が高まり、ファミリーや若い人が格段に増えた。街を歩く楽しさから、服の着こなしにも意識がいくようになる。普段着で来て服を買うのと、おしゃれをして来てセレクトショップで買うのでは全然違う。そういう面でもファッションの楽しさを想起できれば。

―― 東口エリアは。
 黒川 アリーナ建設計画や市役所移転計画がある。戸建ての住宅が広がり、海まで3km。行政がフェリーターミナルまでの道路を整備中で、さら空港へのアクセス道路整備も進んでおり、当館が東西の街の起点になればと考える。

―― 22年の取り組みは。
 黒川 お客様に街を歩く楽しさを改めて感じていただく仕掛けづくりのスタートとする。今年はもう1つのテーマである小規模アミュプラザのビジネスモデルを確立し事業基盤をつくる。顧客化はカード会員だけでなく、SNS会員を重層的に獲得していく。いくつかのSNSでは他のアミュプラザを上回る。そこから発信してコミュニティの拠点に仕上げたい。


(聞き手・特別編集委員 松本顕介)

商業施設新聞2433号(2022年2月15日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.369

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