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第470回

富士フイルム(株) ディスプレイ材料事業部 事業部長 小林茂樹氏


テレビ用TACはフル生産継続
スマホ用は有機EL向けに注力

2022/4/8

富士フイルム(株) ディスプレイ材料事業部 事業部長 小林茂樹氏
 ディスプレーに搭載される偏光板には、TACフィルムやPET、COP、PMMAフィルムなどが使われている。TACフィルムは、偏光子の保護や機能を付加した位相差フィルムとしてスタンダード部材となっており、富士フイルム(株)はそのメーンサプライヤーだ。同社は、長年蓄積されたフィルムの成膜や塗布技術を駆使した、新製品展開にも余念がない。ディスプレイ材料事業部 事業部長の小林茂樹氏に、市況や事業展開などについて伺った。

―― まずは大型パネル(テレビ)向けの状況から。
 小林 2021年度は、夏ごろまでコロナウイルスによる在宅特需で非常に好調だったが、以降は反動が出て10~12月は減産に入るパネルメーカーもあった。しかし年明けからはまた増え出しており、特需は落ち着いたものの需要はしっかりとある状況だ。パネル価格も市場調査などでは22年6~7月ごろまで戻らないとされているが、パネル生産は夏ごろから稼働が上がる時期でもあるため、22年度は例年どおりに推移するのではないかと見ている。21年度のテレビ市場は、台数ベースで前年度比3%減、面積ベースで3%増で推移し、22年度は台数で同1%増、面積で同4%増になると予測している。
 当社では、中国のパネルメーカーからの高い需要を獲得している。特に位相差フィルムはVAパネル、IPSパネル向けともにフル生産が1年以上続いている。また、有機EL向けの反射防止フィルムに、視野角拡大ワイドビューフィルムで培った液晶塗布技術や塗布設備を活用している。有機ELテレビは22年度も数量が拡大する見通しで、期待するところだ。

―― 偏光板向けフィルムでは、非TACフィルムの採用も増えているようです。
 小林 保護フィルムでPETやPMMAの採用が進んでいるが、例えば外側の保護がPETなら内側の位相差はTACなどの組み合わせがあり、偏光板の生産上の理由などからすみ分けができている状況だ。全体的には、TAC対非TACの比率は6対4程度で落ち着いている。また厚みも、テレビでは外側の保護フィルムが60~80μm、位相差が40μmで落ち着き、これ以上の薄型化は進んでいない。

―― スマートフォン(スマホ)向けの状況は。
 小林 スマホ向けは20年度が落ち込んだこともあって、21年度は台数・面積ベースともに同4%増で推移し、22年度も同3%増になるとみている。有機ELの搭載比率は21年度に40%、22年度には48%になると予測しており、半数近くを占めるだろう。
 当社では有機ELをターゲットに円偏光板として転写フィルムを展開し、デファクトとなっている。液晶材を塗布して形成した機能部分だけを残す転写フィルムは、4分のλ板と2分のλ板の2枚タイプと、2枚分を1枚にしたタイプを展開している。厚さは数μmと極薄で、フォルダブルディスプレーにも対応可能だ。

―― ノートPC/モニター/タブレットなどのIT系パネル向けについて。
 小林 以前はノートPCの需要は減少傾向にあった。これがコロナ禍で在宅・教育用などの新たな需要が生まれ、ベースが底上げされたと見ている。20、21年度ほどではないが、今後の需要は堅調に推移していくと考えている。モニターは長年堅調に推移してきた分野だが、大きな特需を経て、また従前のレベルに戻ると見ている。
 新しい動きとして、今後タブレットでの有機ELの搭載が本格化する。ノートPCでも採用が始まっているが、コスト面で液晶ディスプレーと同等にならないと、本格普及は難しいだろう。
 21年度のIT系パネルは台数ベースで、同4%減となったが、これは20年度に拡大した影響が大きく、19年度比では20%程度伸長した。面積はほとんど変わらず、同±0%。22年度は特需が落ち着き、台数・面積ともに同10%減になると堅めに予測している。

―― 自動車では1台あたりのディスプレー搭載比率が伸びていますね。
 小林 そのとおりだ。車載ディスプレーの数量は拡大している。車載ではIPSパネルが主流で、当社はIPS向けTACや位相差フィルムを展開している。車載では耐久性が第一に求められ、次世代製品としてさらに厳しいスペックの製品開発を進めている。このほか、隣席から見えにくくする視野角制御フィルムも開発し、提案を進めている。車載は耐久性の面から、有機ELよりも液晶の方がまだまだ主流だとみている。

―― HMDやスマートグラス向けの展開は。
 小林 AR/VR/MRの分野も、コロナ禍によってその普及が早められた状況だ。特に昨今はメタバースの影響もあり、民生で普及拡大が進むことからVRの勢いがあり、ターゲットとしている。
 詳細はまだ申し上げられないが、当社が最も貢献できるのは、表示性能を向上させるような光学部材で、数年先での展開を見越してお客様に提案している。AR/MR機器は当面、産業向けでの展開になるとみている。

―― TACフィルムの応用展開について。
 小林 SDGsへの取り組みもあり、バイオマス製品の認定を受けている当社のTACフィルムについて、お客様から問い合わせを受けることが多くなった。また、従前から行ってきた当社やお客様の工場で発生するフィルム端材のリサイクルに加え、リサイクルしきれなかったTACを、バイオマス燃料として利活用する仕組み作りに取り組んでいる。TACの原料はパルプや綿花のため、バイオマス燃料としての活用に最適であり、こういった点からも、TACフィルムの需要は高い。
 このほか、医療用フェイスシールド向け防曇フィルムの採用が拡大している。従来、スーパーなどの冷蔵庫やショーケースの内側に貼る防曇フィルムとして採用されていたが、昨今は、高い防曇性とTACの高透明で光を真っすぐ透過させる性能が、医療現場での長時間使用において評価され、採用がかなり増えている。21年度は前年度比2倍の出荷量を見込んでいる。
 当社には、長年培った成膜、塗布、素材技術に強みがあり、それらを組み合わせて設計する技術力もある。ディスプレーでは、従来のTACフィルム展開のほか、新規分野や新製品開発に引き続き注力し、ディスプレー以外の他分野への応用展開も推進していく。

(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2022年4月7日号6面 掲載

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