商業施設新聞
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第388回

日本空港ビルデング(株) 常務執行役員 リテール営業グループ統括部長 中條謙太氏


客足回復、4期ぶりの黒字化へ
3ターミナルに約400店が集積

2023/7/11

日本空港ビルデング(株) 常務執行役員 リテール営業グループ統括部長 中條謙太氏
 日本空港ビルデング(株)(東京都大田区)が運営する羽田空港の第1~3ターミナル(第3ターミナルは同社のグループ会社が運営)には、物販・飲食・サービスなど様々な業種の約400店が出店している。コロナが明けたことでようやくインバウンドを含めて賑わいが戻ってきた。商業エリアの内容や直近の動向などについて、同社常務執行役員で、旅客ターミナル運営本部 リテール営業グループ統括部長の中條謙太氏に聞いた。

―― 羽田空港における商業エリアの特徴について。
 中條 商業エリアは移動するための付帯施設として、旅の途中で必要なものを購入するための役割を持つ。その点は市中の商業施設とは違う立ち位置にあるだろう。旅の途中ということもあり、お土産、飲食店など食を扱う店舗が半数以上を占める。飲食店は移動の隙間時間に利用する人に向けてクイックに提供できる業態が多い。一方で、長時間滞在をメーンとする業態も配置しており、個室を設けた中華料理店もある。企業の重役などは搭乗前にミーティング、会食などをすることもあり、こうしたビジネス需要を取り込んでいる。
 クイックなものでは第1ターミナルの「Hitoshinaya」が特徴的だ。当社のグループ会社が運営し、「あさごはん」「どんぶり」「十割そば」といった店ごとにメニューを一つに絞り、1つのエリアに集結させた。素早く、かつ質が高いものを提供でき、グループで食べたいものが異なる場合や何を食べようか迷っている時でもそれぞれの店に行き、タイムロスなく食事を取れるようにした。

―― そのほかには。
 中條 飲食以外では、2012年にオープンした「イセタン羽田ストア」などファッション雑貨の店舗もある。同店は初年度だけで5億円を売り上げ、空港でのファッション雑貨の需要に気付くきっかけになった。出張続きで多忙な人などが「銀座や新宿にまで行かなくても伊勢丹の物を買える」というのが人気の理由で、到着したときに見て出発する時に買う人が多い。

―― 18年にオープンした「THE HANEDA HOUSE」について。
 中條 「通過する場所から滞在する場所に」をコンセプトに、オフィスエリアだった場所を改築した。「LDH kitchen THE TOKYO HANEDA」では、食事をしながらライブパフォーマンスを楽しむことができる、空港では珍しい目的型施設となっている。ただ、コロナ禍で閉店した店舗も多い。上階にあるため目的がないと立ち寄ってもらいづらい。今リーシングを進めているが、目的性を含めて考える必要がある。

―― 国際線が発着する第3ターミナルは。
 中條 コロナ禍では苦戦したがほとんどの店が営業を再開した。制限エリア内には34店が出店しており、その売り上げはコロナ前を超えている。特にラグジュアリーブランドが好調で、東南アジアや欧米からの人が増えている。円安の影響もあるだろう。22年11月にオープンした「ルイ・ヴィトン」は台湾からの人に多くご購入いただいている。
 一方で、コロナにより残念ながら閉店してしまった店舗もある。空いた区画のリニューアルを順次進めており、制限エリア外では「広島焼き お好み焼き 町や。」などがオープンした。

―― 1月には隣接地に「羽田エアポートガーデン」がオープンしています。
 中條 今のところ開業に伴うネガティブな要素は見当たらない。「ザ ロイヤルパークホテル東京羽田」の稼働率は開業直後以外下がっていないし、商業エリアにも影響は出ていない。むしろ、お客様にとっては選択肢が広がり、羽田全体にとってはプラスの存在だ。

―― コロナによる行動制限はなくなってきています。足元の動向は。
 中條 観光需要はほぼ戻ってきている。当社としても23年度は4期ぶりの黒字となりそうだ。ただ、日本人の出国や中国人の入国、ビジネス需要は戻り切ったとは言えない状況だ。とはいえ、20年は出発ロビーにすら誰もおらず店も休業していた。「このままシャッター街になってしまうのではないか」という恐怖すら感じたので、多くの方に再び空港をご利用いただけるようになり本当に良かった。

―― 人手の確保について。
 中條 非正規雇用を保てなくなり、一時期は働き手がコロナ前から4割減った。足元では戻ってきているが、それでも100%ではない。対策として一部店舗の無人化も考えなければいけないと思っている。個人的には、バスラウンジなど利用頻度が少ない場所を無人にして、空いたリソースを丁寧な接客が求められる別の店舗に回すというやり方が最適解だと思っている。また、一部では労働力をロボットに置き換えており、効率化に貢献している。

―― 今後注力することは。
 中條 地方の良いものを発信する取り組みに力を入れたい。第1ターミナルの「マーケットプレイス」では、大田市場などから仕入れた全国各地の果物などを販売している。4月には、当社が出資した阿蘇くまもと空港の新旅客ビル開業に合わせて、熊本の名産品を取り揃えたイベントを開催した。また、「北海道どさんこプラザ」は空港内に常設店を出店している。
 羽田空港は各地に向かう日本の移動拠点であり、航空事業は羽田から向かう場所があって初めて成立する。だからこそ、旅の目的地に行ける場所がなくなってしまわないよう、地方を元気にすることも我々のミッション。全国の良いものを発信することで、国内外の来訪者に“行ってみよう”と思ってもらえることが目標だ。

(聞き手・編集長 高橋直也/安田遥香記者)
商業施設新聞2502号(2023年7月4日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.409

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