電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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改めてIoT/M2Mを考える


~半導体市場が再び活性化するための条件~

2014/10/14

 IHSでは、2014年の半導体市場を6.2%成長と予測しているが、18年までの平均成長率は3.3%にとどまると見ている。いずれにしても、当面は横ばいに近いような成長が続く、言い換えれば、2桁成長が期待できるような要因が見当たらない、という見解である。


 では、本当にそんな要因は見当たらないのだろうか。本コラムでも時々取り上げられるIoTあるいはM2Mといったキーワードも、半導体需要の牽引役にはならないのだろうか。

 過去の半導体市場の歴史を振り返ると、パソコンや携帯電話など半導体需要を牽引する機器の普及が進んだ背景には、これらの機器を介して我々の仕事や生活に影響を与えるようなサービスが享受できるようになった、という実績がある。

 パソコンに関して言えば、ウィンドウズOSの登場が普及を促進したことは紛れもない事実だが、インターネットに接続できるようになったことでパソコンの用途が多岐に及び、便利なツールとして使えるようになったこと、それが我々の仕事や生活のなかに入り込んで大きな影響を与えたことが、ここまでの普及を支えてきたと見るべきだろう。

 携帯電話についても同様で、単なるコードレス電話の延長だったらここまで普及しなかったはずだ。やはりネット接続できるようになって、情報端末として利用できるようになり、我々の仕事や生活に影響を与えるだけのツールに成長したからこそ、ここまで普及したのである。

 では、パソコンや携帯電話のように、我々にとって「なくてはならない便利なツール」として次に何が出てくるのか。その意味では、スマートフォンは確かに便利なツールだが、これはあくまでも携帯電話の進化形だ。従来型の携帯電話を置き換えながら普及が進んでおり、新たな半導体需要を牽引している、とは言い難い。タブレットもパソコンとスマートフォンの溝を埋める役割を果たしているが、パソコンの需要を低迷させる要因の1つになっている、と筆者は見ている。少なくとも、新たな半導体需要を牽引するだけのインパクトはない。

 従来のパソコンや携帯電話を進化させた商品群も必要だし魅力的だが、半導体市場を2桁成長させるような要因を探し求めている筆者としては、従来製品とは「似て非なるもの」が普及することが必要だと思っている。そしてそれは、我々の仕事や生活に影響を与えるような新しいサービスを提供できるものでなければならない。我々はそのサービスの利便性にカネを払うのである。

 ではここで、本コラムでもよく登場するキーワードについて、もう一度注目してみよう。

 まず「IoT」についてだが、一般的な定義としては、「一意に識別可能なモノがインターネット/クラウドに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み」とされている。ここで言う「モノ」とは、IPアドレスを持つ機器(PC、携帯電話など)、それに格納されたコンテンツ、IPアドレスを持つセンサーから検知可能なICタグを付けた商品などがすべて対象になる。今までつながることのなかったモノをどのようにネット接続するのか、モノがネット接続されることで、どんな新サービスが提供可能となるのか、サービスの利便性によって普及が加速する可能性がある。

 次に「M2M」だが、この定義は「コンピューターネットワークにつながれた機械同士が人間を介在せずに相互に情報交換し、自動的に最適な制御が行われるシステム」とされている。情報通信ネットワークと通信技術・通信機器の発達およびセンサーネットワーク技術や情報処理システムの高度化により初めて可能となるシステムで、通信機器が小型化され各種の装置に容易に組み込むことが可能になったこと、オンラインネットワークのカバー領域が広がったこと、さらには無線通信技術の発展などの多様な技術がM2Mを支える土台となっている。

 この2つの定義を読み比べてみると、内容的には極めて類似性が高く、ほぼ同義語とも言えそうだが、どちらも「概念」であって「商品」ではない。「こんなことができるようになる」「こんなサービスが可能になる」という可能性を語るうえで重要な概念だが、どの企業がどういう仕組みでビジネスに結び付けるのか、まだ具体的な事例が少ない。言い換えれば、まだまだ色々なアプリケーションに発展し得る、という具体化の一歩手前の段階なのだ。

 冒頭に「18年までの平均成長率は3.3%にとどまる」と述べたが、本音を申し上げれば、IoT/M2Mの概念を具体化した商品が新サービスを立ち上げることで、半導体市場の見通しを早く上方修正したいのである。現段階で明確に言えることは「最初に普及シナリオを実現できた企業が儲けられる」ということぐらいだろうか。

 これまで日系企業の各社は、このような市場の変曲点で変化について行けなかったり、対応が遅れたりして、海外企業の後塵を拝してきた。今後数年以内の近い将来、IoT/M2Mをベースとした市場の変曲点は必ず訪れる、と筆者は見ている。IHSが半導体市場の予測を上方修正する時には、今度こそ日系企業が先行する元気な姿を見たい、とも思っている。



IHS Technology 主席アナリスト 大山聡、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。

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