電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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提供するサービスがスマート社会を構築


~IoTとM2M~

2014/10/14

 本紙(2014年6月 11日号)のコラムで世界のメガトレンドである人口増加、高齢化、都市化が引き起こす資源不足、電力不足、医療不足、環境破壊などをIoT(Internet of Things)やM2Mを活用して解決することが進められていくと予測した。今回はさらに踏み込んで、どのようなサービスが考えられているか紹介していきたい。

 これまでのエレクトロニクス機器は単独で使われることが多く、エネルギーを消費することで仕事の効率を高めたり、生活を便利にすることが役割だった。

 M2MやIoTは、現存するエレクトロニクス機器がつながることで新たなサービスを提供したり、効率的な社会を提供したり、エネルギー削減を目的にしている。つまり、IoTの上でどのようなサービスが提供されるかによって、つながる機器が決まってくる。機器がつながることが先ではなく、サービスが決まってからどの機器がつながり、どんな情報を集めるべきかが決まってくる。

 IoTとはこれまで半導体市場を牽引してきたPC、携帯電話、デジタル家電のような個々の電子機器ではなく、それらをつなげることにより新たなサービスを生み、我々の生活を豊かにし、地球の資源の有効利用をするためのプラットフォームなのだ。

 従って、これまでのような個々の電子機器の議論ではなく、サービスを議論しなければならない。IoTによって新たな電子機器が生まれるわけではなく、電子機器全体の買い替えや台数の底上げをすることになるのだ。もちろん、あらゆる機器がネットワークにつながるためセキュリティーの確保は重要になり、安全監視のためのゲートウェイのような機器は生まれるだろうが、それは付加的な機器で、本質ではない。

 結論を言えば、白物家電を含むパーソナル機器への影響は、IoTを使ったスマートな白物家電による買い替え、新たなサービスによる機器の高価格化が考えられる。

 そして、本当にインパクトがあるのは産業機器や自動車分野になるだろう。産業機器ではさらなる製造工程の効率化、エネルギー効率化、医療の高度化、遠隔監視システムの普及、資源の有効利用など、半導体をもっと使ってスマートな環境を整えることにつながる。産業機器はまだ半導体搭載係数がPCの10分の1程度で、機器の高機能化はまだまだこれからだ。

 IoTの事例で注目されるサービスをいくつか紹介したい。

 (1)インテルは、カリフォルニアで農業に使われる水を50%削減する研究をしているようだ。水不足は、2050年までに世界規模で解決しなければならない最も重要な課題と言われている。世界の淡水の実に70%が農業に使われており、その50%を削減することができれば、水問題は一気に解決する。また、勘に頼っていた農作業をデータ化し、天候データと組み合せて収穫量を2割高めることも可能になる。

 (2)家庭やオフィスでは、部屋に人がいるかを判断し、さらに人のいる場所を特定してエアコン温度や照明などを最適に調整する機能などが考えられる。ここでは、家庭やオフィスに張り巡らせた人を感知するセンサーが家電と自動的につながり、効率的で快適な環境を提供する。そこに住む人の意思は介在せず、自然と効率的なエネルギー消費となる。これにより40%のCO2削減を実現できる。

 (3)流通市場であれば、車から集められた情報から最適なルート検索や効率的な配送手配を行えば、20%程度早いルートを見つけることができると考えられている。また、在庫の管理や物のトレーサビリティーを高めることで、在庫削減と物の単価アップを同時に実現することも可能になる。

 (4)日本では橋やトンネルなどに監視システムを付けることで、橋梁の保守単価が事後保全型で45.8億円/kmであるのが、予防保全型で8.5億円/kmにまで下がることがわかっている。インフラだけでなく装置や建機に組み込むことで保守点検費用の削減とサービスの付加価値を上げ、収益改善を実現している例は多くなってきた。

 (5)製造業においては、各装置のログデータを紐付け、バラバラなデータから意味のある情報にすることで見過ごしていた無駄を見つけ、生産効率を2割上げることができた例もある。

 (6)医療関連では日々の健康状態をデータ化することで定期健診を減らし、重症患者数が減少したり、健康保険料や生命保険料を削減することも可能になると考えられる。

 これらのサービスを見つけ出すのは異業種間の話し合いが最も効率的であり、物の価値が大きく変わる可能性も秘めているため、これまでの常識を捨てた発想がカギを握っている。



IHS Technology 調査部ディレクター 南川明、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。

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