電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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2020年という大チャンス


~日本のエレクトロニクス~

2014/10/14

■はじめに

 長期にわたる景気の低迷やアジア列強の台頭など、厳しい時代を生き抜く日本のエレクトロニクス産業には障壁や苦労が絶えない。しかし、環境は変化し続けており、為替の改善や法人税率の見直しなど、日本企業の進む道に追い風が吹き始めている。そこで56年ぶりに開催が決まった東京五輪は、日本の産業にどのような転換点を与えてくれるのか、日本企業はそこに何を見出せるのか、非常に興味深い未来が6年後の日本に訪れようとしている。

 そこで、今回は東京五輪を巡る日本の産業戦略について、日本の構造改革の旗手であり、大臣の要職を歴任してきた竹中平蔵氏と考えてみた。竹中氏は、東京五輪は日本に残された「将来への最後の投資チャンス」と語り、すぐにやってくる2020年に備え、万全の戦略でオリンピックに臨むべきと説いている。

 なお、本項の内容は『日本経済 2020年という大チャンス!』((株)アスコム刊)からの抜粋である。本書では本項の他にも各界の第一人者6人の対談を交え、竹中氏が五輪を経て変化を遂げる日本の未来を提言している。

■ウエアラブルコンピューターは日本の技術がないとできない

 竹中 電子産業に詳しい李根秀さん、南川明さんとは、20年の東京オリンピック・パラリンピック(以下東京オリンピック)で産業・技術がどうなっていくかを論じていきます。

 李 1964年の東京オリンピックでは、テレビ産業がモノクロからカラーへと弾みをつけ、やがて世界を席巻しました。では、次回はどうなるか。まずテレビは4Kや8Kへ高画質化するものの、日本の経済発展への寄与は非常に限定的となる公算が大きいです。パネル技術は成熟し、液晶の次が見えません。放送が始まれば4Kテレビはある程度は普及しますが、技術はコモディティー化しており、(海外に出すには)小粒すぎるつなぎの技術・製品でしょう。また、日本のスマートフォンのビジネスはアップルやサムスンのはるか後塵を拝し、ノンブランド企業群にも追い抜かれようとしています。

 竹中 テレビもスマホもダメ。日本の先端メーカーはどうしますか。

 李 一言でいえば「形を変えたスマートフォン」。リストウオッチ型やグーグルグラスのようなメガネ型コンピューターが登場し、本格的なウエアラブル時代に入っていく。ここで日本メーカーが得意な技術を発揮する大きなチャンスが巡ってきます。日本メーカーほど微細なチップを製造できるメーカーは、海外からはおそらく出てきません。ウエアラブルコンピューター時代には、誰もマネできない圧倒的な存在感を持つ製品を送り出していくことができる。日本メーカーにはそんな活路がある。

■「世界規格を作る」ような海外と交渉するプレーヤーを育てろ

 竹中 技術の部分はあまり心配いらない。では、日本企業のビジネスは世界に通用しますか。

 南川 問題はガラパゴスになってしまう危険性です。海外と交渉したり連携したりするプレーヤーが日本には欠けているんです。海外で売り込みをしたりマーケティングをする人材が極端に少ないのが日本メーカーの特徴です。経営者が技術偏重で、よい製品を作れば必ず売れる、という妄信に捉われ続けているからです。海外メーカーでは営業とマーケティングが全社員の2割いますが、日本では1割もいないのが現実です。

 竹中 外国人でも雇えばいい、なぜ雇わないんですか。経営者はどう考えているのでしょう。

 李 マーケティングの重要性を理解している経営者はほとんどいない。正直そう感じますね。

 南川 日本企業は先進国のなかでも外国人活用が最も苦手です。仮にマーケティング強化のために日本メーカーが外国人社員を雇い入れても、今度はそこを活かせるマネージャーが会社にいない。基盤がないから外国人社員はいつまでも馴染めない。

■企業間の垣根を崩し、産業全体を盛り上げるには雇用制度改革

 南川 日本メーカーにとって、もう1つ重要な点は、グーグルグラスのような製品を基盤にどんなサービスやビジネスを展開していくか、だと思うんです。

 竹中 まさにそこを聞きたい。人々のライフスタイルを変えて初めて、トップ産業や企業の地位が確立するわけですね。日本企業からライフスタイルを変えるほどのイノベーションはどのように出てきますか。

 南川 日本でも企業がチーム作りをして、異業種も含めたチームワークで取り組めば、新しいものを生み出すことができるでしょう。もちろん、コンテンツやサービスまでも盛り込める器のものです。

 竹中 ただ、いまの雇用制度では非常に難しいでしょうね。バーティカル(縦方向)に人をつないでいくことが自由にできない。

 南川 そうですね。雇用改革が進むプロジェクトをいくつも立ち上げていく必要が日本の産業にはある。それもただ単に役割分担をするのではなく、人材の交換を含めた技術の融合が鍵となる。自分たちの本業と違う仕事を経験するということです。自動車とかウエアラブル市場にはそういう機会がたくさんあると思います。



IHS Technology 主席アナリスト 李根秀、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。
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