電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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デバイスメーカーの備えは?


~産業機器の新しい時代~

2014/11/21

産業機器市場は見逃せない成長領域

 前回コラム(本紙8月6日号)で、産業機器市場がIoT(Internet of Things)によって今後大きく変わるだろうと述べた。今回はデバイス市場の側面からお話しさせていただく。

 前回の内容のとおり、産業機器がデジタル化され、センサーネットワークなどのIoTやM2Mの技術を取り入れることで、搭載される半導体の数量増加が見込まれる。また、世界的な都市化・人口増のメガトレンドによりセキュリティーシステムや農業といった新しい市場の拡大も半導体需要の中長期的な牽引役になると考えられる。

 IHSでは半導体市場全体の今後5年間のCAGR(年平均成長率)が3.1%に対し、産業機器向け半導体は7.3%と予測している(図1)。PC市場、スマートフォン(スマホ)&タブレット中心のモバイル機器市場に加え、産業機器はデバイスメーカーにとって今後の収益成長へ必然的に押さえないわけにはいかないアプリケーションだといえよう。

図1 産業機器向け半導体市場規模(売上高ベース、百万ドル)(出所:IHS)
図1 産業機器向け半導体市場規模(売上高ベース、百万ドル)(出所:IHS)

 産業機器向け半導体市場はリーマンショックや欧州危機があった過去5年間も着実に成長している。2008~13年の売上高成長率は38%。この市場に強みを持つ日系デバイスメーカーも善戦していることが、当社のデータから読み取ることができる(図2)。

図2 産業機器向け売上高ランキング(百万ドル)(出所:IHS)
図2 産業機器向け売上高ランキング(百万ドル)(出所:IHS)

 過去の市場成長が従来型の産業機器であったのに対し、今後はIoTの普及によりセンサーネットワーク、デジタル、ワイヤレス技術が導入されることになれば、MCUは小型化、低消費電力化のニーズが高まるだろうし、センシングや通信にかかわるアナログ半導体、電源の新技術も求められることになろう。

市場構造の変化がリスクとなる可能性

 その一方、過去5年間のマーケットシェアの推移と、現在産業機器市場で起きている変化から、筆者が懸念する点がある。

(1)アジアのデバイスメーカーの台頭
 産業機器向け半導体売上高地域別シェア(図3)を見ると、過去5年間で日本を除くアジアのデバイスメーカーのシェアが大きく伸びている。この要因として、1つには同期間に産業機器のシステム市場がアジアで大きく拡大したことが考えられる。これまでPCやスマホなどを主力製品としていたOEMメーカーが次の成長製品として産業機器領域に進出し、消費地に近い部品メーカーが台頭してきたと推測できる。

図3 産業機器向け半導体売上高地域別シェア(出所:IHS)
図3 産業機器向け半導体売上高地域別シェア(出所:IHS)

(2)サプライチェーンの変化
 産業機器メジャー各社はグローバル化の一環として、地産地消を進めている。一例として、シーメンスはGlobal Value Sourcingというスローガンを掲げて、各消費地でコスト競争力の高いサプライヤーの活用を進めている。
 このような動きにより、大手OEMが自社で半導体を購入するのではなく、EMSが半導体を購入、低コストでモジュールや完成品を生産、OEMメーカーに提供するケースが医療機器やスマートメーターなどで増加している。PC、モバイル、ネットワーク機器を主力としてきたEMSにとっては、マイナー事業であった産業機器でもリファレンスデザインの強化が予想される。

「いつか来た道」に辿りつかないための戦略

 アジア企業の台頭、リファレンスデザインといえば、スマホやタブレットでかつて聞いた話である。とりわけスマホでは、心臓部のチップメーカーがリファレンスデザインを提供し、グローバル市場で強いOEMメーカーが強いEMSやデバイスメーカーとともに急成長した一方、中小メーカーとそのサプライヤーは低成長あるいは淘汰される結果となった。「いつか来た道」に辿りつかないためには、OEMメーカーがグローバル市場で成長するためのプラットフォーム構築と、サプライチェーンや市場構造の変化への対応が不可欠、と筆者は考えている。



IHS Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、お問い合わせは(E-Mail:forum@ihs.com)まで。

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