電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

需要を創出する規制強化が最も重要


~IoTとM2M~

2015/1/9

 6月の原稿(本紙6月11日号)で世界には3つのメガトレンド(人口増加、都市化、高齢化)があり、それらが引き起こす資源不足、電力不足、医療不足、環境破壊を解決するためにIoTやM2Mが必要とされていることを紹介した。

 これまでエレクトロニクス市場を牽引してきたPC、スマートフォン、デジタル家電は我々の生活が便利になったり、仕事の生産性アップが成長の要因であった。これまでのエレクトロニクス機器は単独で使われることが多く、エネルギーを消費することで仕事の効率を高めたり、生活を便利にするのが役割だった。

 IoTやM2Mは、現存するエレクトロニクス機器がつながることで新たなサービスを提供したり、効率的な社会を提供したり、エネルギー削減を目的にしている。つまり個人や企業の利益というよりは、迫りつつある危機を乗り越えなければならないことが背景にあるのだ。それも一刻も早く立ち上げなければならないため、主要国は規制を導入することで市場を創出しようとしている。

■規制が市場を創出

 代表的な規制には自動車のCO2排出量に関する規制がある。これまで目標値だった2020年のCO2排出量が義務化になったため、欧州の自動車メーカーがEV/HEVなど電動車両の開発を加速。これまで環境対応車はクリーンディーゼルに重きを置いていた欧州メーカーが、商品戦略の中心をEV/HEVにシフトしている。

 欧州で新しく販売される乗用車について、20年までに走行距離1kmあたりのCO2排出量を平均で95g以下に抑える。規制値を達成できなかったメーカーには課徴金が課される。

 この値は、現在販売されている乗用車のCO2排出量と比較すると、格段に高い目標であることが分かる。例えば、プリウスは89g/kmで、1.4ディーゼルなどの小型車が120~130g/kmの水準である。つまり20年までに欧州メーカーは現在のプリウス並みになることが義務づけられたのである。これで、ダウンサイジング+電動化で乗り切ろうとしていた欧州でPHEV市場が立ち上がることは間違いない。

 実は二輪車でも規制による新市場創出が起こっている。二輪車の規制は欧州など先進国から導入され、1998年にEuro1規制がスタートした。その後03年にEuro2、06年にEuro3となり、現在ではほとんどの国でEuro3が採用されている。

 中国では08年から導入され、電動バイクの普及が急拡大した。アジアでは二輪車が排出するCO2が問題となっており、各国でさらに厳しいEuro4の導入が計画されているため、アジア各国で電動バイクの普及が期待されている。
 中国で記憶に新しい規制に、10年からGB1級省エネエアコンに500元の補助金を付けるなどの農村振興策「家電下郷」や買替補助策「以旧換新」などがあった。これにより08年には10%以下だったインバーターエアコンの普及率が、12年にはいきなり40%を超えてきた。

 産業分野で有名な規制に、産業用モーターの省エネルギー基準に関する規制IE3がある。欧米などですでに導入されている規制で、日本ではようやく15年に導入されるが、中国ではすでに11年に導入され、インバーターの普及が加速している。日本では産業用モーターが消費する電力は全電力の60%近くになるが、インバーター付きモーターの普及率は10%台となっている。インバーター無しと有りとでは消費電力に30~40%の違いがあるため、この規制は大きな意味を持つ。

■IoT関連も規制から

 IHSでは、IoTの成長にも規制が大きな影響を及ぼすとみている。例えば、高成長が期待されているインフラ監視システムがある。日本では15年から10年かけて日本全土の橋梁やトンネルに監視システムを導入し、保守点検費用を削減しようとしている。中国でも同様なことが政府の計画に盛り込まれている。

 自動運転に必要な車車間通信も米国では義務化の動きが進んでいる。自動運転は事故の低減や交通渋滞緩和、通勤時間の有効利用など多くのメリットがある。また、自動運転技術の軍事など他の分野への活用も期待される。

 医療分野でのIoTも規制による成長が期待される分野である。先進国では健康保険制度が崩壊しつつある。高齢化に伴い医療費増加が健康保険制度を赤字体質に追い込んでいるからだ。先進国では、これ以上多くの高齢者が病院に押し掛けると保険制度が回らなくなる危険な状態にある。仮にウエアラブルによるパーソナル医療が実現し、一定のレベルを超えれば保険料が下がるなどのメリットを打ち出せば、日々の健康管理をする人口は増加するだろう。

 これまでもインフラ関連は規制による市場創出が定番になっているが、IoT導入も規制強化による市場創出がますます活発になってきている。



IHS Technology 日本調査部ディレクター 南川明、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。
サイト内検索