電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第564回

2024年の半導体のキーワードはAI、メタバース、車載にある!


すさまじい勢いで進む開発に乗り遅れてはならない日本

2024/1/26

 新しい年の始まりは能登半島地震、羽田空港火災事故などの勃発により、すこし暗いものになった。海外でも地震、火山噴火など災害は絶えることなく、そしてまたロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争など戦火が収まる気配はまだ見られない。

 こうした状況下で迎えた2024年ではあるが、年末から年始にかけても世界半導体の動きはすさまじいものがあった。米国を代表する大手のインテルは、なんとハマスと戦争状態にあるイスラエルに3.5兆円を投じる新工場建設を決めたという。驚き以外の何ものではない。ちなみに製造するのは同社が得意とするMPUではなく、シリコンファンドリーであるというから二重の驚きなのである。

 インテルと世界トップの座を争う韓国サムスン電子は次世代標準規格の「CXL(Compute Express Link)」の開発にめどをつけた。レッドハットとの間で検証に成功したのである。そればかりではない。サムスンはAIに対応するスマホの投入を世界に先駆けてやろうとしている。お互いに、違う国の人たちが話し合っている時に、自動通訳までやってしまうというのであるからしてこれまた驚きなのだ。

 AIはまさに半導体の爆裂成長を促す最大の存在になっている。すでに複数のチャット型生成AIは実用レベルで登場している。AIの分野は30年までに、年率平均53.3%成長すると予想されており、半導体事業は、とんでもなく伸びるに決まっている。

 メタバースの分野でも大きな動きが出てきている。米国クアルコムは、MR(複合現実)VR(仮想現実)ヘッドセット向けに設計した「SnapDragon XR2+Gen2」の設計開発に成功し、サムスンなどが採用することを決めたのだ。現実と仮想が融合する世界がいよいよ本格的に幕開けとなるわけであり、一方ですでにアップルは「Vision Pro」でメタバース対応を決めている。

プリファード・ネットワークスの半導体
プリファード・ネットワークスの半導体
 ちなみに日本勢はAI向け半導体で遅れを取っていると思う方は、少し事情がわかっておられない。エッジヘビーコンピューティングで一躍その名を知られたプリファード・ネットワークスはニッポンの希望の星なのである。同社にはすでにトヨタ、東京エレクトロン、ファナックなどから多くの資金投入をされている。そしてついにAI向けの最先端半導体の開発を一気に加速すると言明した。未上場で絶対成功するといわれるのが、ユニコーン企業であるが、同社はその代表格なのである。

 車載半導体の分野でも次々と動きが出ている。インテルはAIに対応した自動車向け半導体の新タイプを発表した。同時にEVモーターと車載充電のSoCを手がけるフランスのシリコンモビリティーを買収したのだ。

 さらに米国の半導体大手の一角であるエヌビディアは、自動運転向けの次世代SoCが中国EVメーカーのLi-Autoの次世代EVに採用されたと発表した。自動運転向けの車載半導体では圧倒的に強いといわれるエヌビディアは、企業価値が時価総額1兆ドルまで膨れ上がっており、今後も株式市場を大きく賑やかすことになるだろう。

 自動車の企業別世界シェアで言えば、日本勢は世界トップの存在であり、こうした動きに手をこまねいてはいられない。つい先ごろ、国内自動車メーカー中心に自動車用SoC技術研究組合(ASRA)を設立することになった。30年には注目を浴びるチップレット採用のSoCを完成させる計画なのだ。

 世界最強の自動車と半導体がクロスオーバーすることができるのは、我が国日本だけであり、車載向け半導体で遅れをとることは絶対にできないのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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