電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第541回

クラウドゲームのもたらす可能性


専用機器との共存なるか

2024/2/22

 近年、Netflixを筆頭に、ストリーミングサービスが急速に拡大している。音楽や動画の配信サービスでの活用が一般的に馴染みが深いかと思われるが、ゲーム業界でもストリーミングサービスが台頭している。

 ゲームソフトは今、ハードウエアパッケージと同じくらいダウンロード版が普及してきている。そして最近では新たにクラウド版も出てきているという。これが、ゲームストリーミングと呼ばれることもあるそうだ。まだまだ普及は拡大しておらず需要も限定的だとされているが、今後のゲーム機器はどうなっていくのだろうか。

クラウドゲームとは

 従来のゲームは、ゲームソフトのパッケージを購入し、専用のゲーム機にセットすることでプレーするのが一般的だった。近年では、このパッケージに加え、ダウンロード版が普及してきている。ソフトをパッケージではなくオンライン上で購入し、ゲーム機にダウンロードすることでプレーする。ハードウエアのパッケージは使用しない。

 一方、クラウドゲームとは、上記のようにソフトを購入するのではなく、期間に応じて利用料金を支払い、ゲームをプレーする権利を購入する。ゲームソフトはクラウドサーバー上に存在するため、専用のアプリでインターネット回線を通じてクラウドにアクセスしてゲームをプレーする。ダウンロード版では端末にゲームデータを保存するのに対し、クラウドゲームではクラウドサーバー上に保存される。すなわち、プレイヤーは端末のアプリからクラウドサーバーにアクセスし、サーバー上のゲームをコントローラーで操作するということになる。

 クラウドゲームのメリットとして、ダウンロードが不要であるためデバイスのデータ容量の消費が抑えられること、デバイスではなくクラウド上で処理されるため、デバイスのスペックに左右されずに高画質で快適なプレーができること、これにより安価でゲームが楽しめること、様々な端末で利用できるためアクセスの利便性が向上することなどが挙げられる。

 一方、ハイエンドのゲームを快適にプレーするためには強いネットワーク環境が必要となる。そのため市場の拡大には、通信容量や速度の向上が大きく寄与すると見られている。

大手企業が参入、市場は拡大見込み


 クラウドゲームは2005年に世界で初めて提供が開始されて以降、セルラー通信の発展に伴い、19年ごろからは大手IT企業が次々と市場に参入した。現在はMicrosoft、Sony Interactive Entertainment(SIE)、NVIDIA、Amazonらが中心となっている。23年にはGoogleが市場から撤退したものの、FORTUNE BUSINESS INSIGHT社のレポートによると市場規模は23年が約57億ドル、30年までに約850億ドルに成長すると予測されている。なかでも北米は、クラウドサーバーのインフラ普及が進んでいることからシェアの多くを占めると見込まれている。

PlayStation Plusの22年度末の利用者数は4740万人を突破
PlayStation Plusの22年度末の
利用者数は4740万人を突破
 ちなみに利用者数としては、Microsoftは、月額定額でゲームをプレーできるクラウドサービス、X box Game Passの加入者について22年に2500万人を達成したと発表。その後、具体的な数字は公表していないものの、増加傾向にあるという。SIEはPlayStationのサブスクサービスであるPlayStation Plusの契約者数を公表している。19年度から20年度にかけて増加したものの、22年度までの2年間ほぼ横ばいで22年度末の利用者数は4740万人だった。

サーバー投資のリスクが懸念点

 クラウドゲームには、大規模な投資が必要となる。そのなかでも重要なのが、データセンターだ。クラウドゲーミングのサービスを提供するためには、クラウドが必要となるが、クラウドゲーム事業のためだけに利用するとなると、大きなコストがかかるうえ、まだまだ主流の市場ではないためリスクも大きく、回収に何年かかるかもわからない状況だ。そのため、Microsoft、NVIDIAなど、グローバルでデータセンターのネットワークを所有している企業が参入しやすいということになる。

 クラウドゲーム市場の拡大によって、サーバー投資への期待もできる。しかし、クラウドゲームの需要はまだまだ限定的なのが現状で、投資拡大にどれだけ影響してくるかは不透明だ。

専用機器との共存

 クラウドゲームが本格化すると、専用のゲーム機器はどうなるのだろうか。専用ゲーム機器からの移行が進むとすればそれに関わる半導体やディスプレー、バッテリーなど多くの関連企業にとって非常に深刻な問題になってしまうだろう。また個人的には、幼少期にゲーム機器やソフトを誕生日やクリスマスにプレゼントしてもらったワクワク感が非常に記憶に残っており、ハードとして存在しないものになってしまったら、非常に味気無さを感じてしまう気もする。

 一方、クラウドゲームの台頭によって期待できる市場もあるだろう。例えば、VRやARなどは、クラウドゲームモデルの採用がみられる。そのため、よりリアルな体験ができるよう、より広視野で高解像度、軽量で高機能なヘッドセットが求められるだろう。また、クラウドゲームが普及すると、特定のゲーム機にとらわれずにできるeスポーツの人口増加にも期待できるという。現在ローカルなデバイス上で行っている多数の処理がクラウドでできることで、デバイスのセッティングにかかる工数や難易度における課題を解消できる。通信環境による影響が小さくなるため、低スペックのデバイスなど環境の制約によるプレーの不平等性も解消される。

 そうなると次は、それに伴うコントローラーやゲーム用のメカニカルキーボード、マウスやヘッドセットなど、端末側にも同様に、高機能化や軽量化、バッテリーの長寿命など進化が求められることにつながるだろう。クラウドゲームの拡大によって生まれるチャンスもたくさんあるのではないかと考えた。今後、専用のゲーム機器やゲームソフト、クラウドゲームの動向に注目したい。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 日下 千穂

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