電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第542回

「ネクストHBM」になるか、CXL


2.0製品は24年内に量産見込み

2024/3/1

 筆者はこのコラムにおいて、「HBM、本格的な競争の始まり」(https://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=13249)というテーマで韓国2社(SKハイニックス、サムスン電子)と米マイクロンについて執筆した。振り返ると、2023年のメモリー市場はHBM一色といった様相で、24年も相変わらずHBM市場の注目度は高まっている。昨年のキーワードがHBMだとすると、24年のキーワードはCXL(Compute Express Link)となりそうだ。

 調査会社Yoleグループによると、CXL市場は23年の1400万ドルから28年には150億ドル規模に成長すると予測している。そのなかでCXL DRAMが約80%を占める見込み。HBM市場でSKハイニックスとの競争で苦戦したサムスン電子はCXLを通じて反転攻勢に出ており、SKハイニックスもHBM競争での優位を次世代メモリー市場でも維持していきたい考えだ。

 現在、HBM市場ではSKハイニックスが高いシェアを握っているが、CXLの場合はサムスン電子が優位な立場を築いている。最近多く導入されているHBMには容量と価格という限界がある。HBM1個あたりの平均容量は16~24GBとなっており、多数のHBMを使うことで規模を拡張することが可能であるが、価格が一般的なDRAMより6~7倍高いというのが問題となっている。

 ここでHBMの価格問題を解決するための技術がCXLとなる。CXLは多数の装置とメモリーを効率的につなぐ高速インターフェースだ。コンピューターシステム内部でデータを早く伝送するための技術で、CPUとともにGPU、加速器をつなぐ。

 また、CXLの価値は拡張性となる。AIは膨大なデータの学習や推論を繰り返すが、ChatGPTなどの登場により、AIの活用が大幅に増加し、CPUとGPUをつなげるメモリーの数に制約があるため、既存インターフェース規格では限界があった。CXLはDRAMを採用しても既存のDRAMと共存することが可能で、データ容量を無限に拡張することができる。このような要因から今後のAI時代にHBMとともに注目が集まっている。

サムスン電子、CXL事業拡大に周到な準備

 サムスン電子は21年に業界初のCXLベースのDRAM「CMM-D」の開発に成功した。既存データセンターおよびサーバーなどからSSDを搭載したところにそのまま搭載して使うことが可能であり、システム内のDRAM容量をTB(テラバイト)クラスまで拡張できることが長所となる。

 また、23年5月には業界初のCXL2.0をサポートする128GB(ギガバイト)DRAMを開発した。同製品は最大35GB/sの帯域幅を提供しており、サーバープラットフォームで複数のCXLメモリーをまとめ、複数のホスト(CPU、GPUなど)が必要な分だけメモリーを分けて使用できる技術「メモリープールリング」機能を搭載している。これにより、データセンターに適用することで、効率的なメモリーの使用が可能となり、電力消費およびサーバー運営費の削減に貢献する。

 23年12月にはエンタープライズLinux企業であるレッドハット(RED Hat)とCXLメモリーの動作検証に成功した。企業用Linux OS「Red Hat Enterprise Linux9.3」向けにCXLメモリーを最適化し、仮想マシンとコンテナ環境でメモリー認識、読み取り、書き込みなどの動作検証を完了した。これにより、データセンターの顧客はソフトウエアの変更なしに簡単にサムスンのCXLメモリーを使用できる。

サムスン電子のCXL2.0 DRAM
サムスン電子のCXL2.0 DRAM
 また、「RHEL9.3CXLメモリー活性化ガイド」も発行する予定だ。ガイドを利用することで、レッドハットのLinux OSとサムスン電子のCXLメモリーを利用し、多様な環境で高性能コンピューターシステムを構築できる。

CXL2.0向けCPUの発売、SKハイニックスも加速

 CXLベースのDRAMには、互換可能なCPUが必須となっている。現在CXLは1.0を改善した1.1まで商用化しており、24年下期中に2.0まで投入するとみている。サムスン電子は23年にCXL2.0 DRAMの量産を発表しており、すでに量産開始したとみられている。だが、まだCXL2.0をサポートするCPUが発売されていない。

 ここで注目されているのが24年下期あるいは25年上期に発売予定のインテルのCXL2.0向けCPUだ。具体的な日程は発表していない。さらに、AMDまでCXL2.0に参入すると、サムスン電子とSKハイニックスは本格的に恩恵を受けることになる。

 SKハイニックスもCXL事業のソリューション開発に向けて加速している。SKハイニックスは22年8月にDDR5 DRAMベースの96GB CXLメモリーソリューションのサンプル出荷を開始した。同年10月には、業界初でCXLベースの演算機能を通合したメモリーソリューションCMS(Computational Memory Solution)の開発に成功し、「OCPグローバルサミット2022」で公開。23年10月に開催された「OCPグローバルサミット2023」では、CMS2.0を含んだCXLソリューション3種を公開した。また、DDR5ベースの96GB、128GB CXL2.0メモリーソリューション製品で24年上期に顧客企業の認定を取得し、下期に商用化する計画だ。SKハイニックスのCXL2.0は、DDR5だけ搭載した既存システムと比べて帯域幅が50%向上するとともに、容量を最大50~100%拡張することが可能だという。

 米マイクロンも23年にCXL2.0をサポートするメモリー拡張モジュール「CZ120」を公開し、サンプル提供を発表したことからCXL市場に参入すると予想されている。24年はメモリー市場の回復が見込まれるなか、HBMに続いてCXLも業績回復・拡大のドライバーになることが期待される。特にサムスン電子はHBMで苦戦した部分を挽回するため、CXLに多くの力を投入する構えであることから、今後のCXLの影響力は大きくなっていくと予想される。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 嚴智鎬

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